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ランブラス通りの歩き方と基本情報

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バルセロナ中心部、そして街の“ヘソ”とも言われるカタルーニャ広場。

ランブラス通りは、そこから地中海沿いに建つコロンブスの塔まで続く大通りのことを指します。

この通りはバルセロナ屈指の繁華街として知られ、昼夜を問わず多くの観光客で賑わっています。通り沿いには、

  • リセウ大劇場
  • サン・ジュゼップ市場(ボケリア市場)
  • レイアール広場(Plaça Reial)

などの見どころが点在し、レストランやバル、お土産店も数多く並んでいます。

特に目的を決めず、ぶらぶら歩くだけでも“バルセロナらしい空気”を感じやすいエリアです。ここでは、ランブラス通りの歩き方や注意点を解説していきます。

※現在、ランブラス通りでは再整備工事が進められています。工事期間中は一部通路変更などが行われる場合があります。

ランブラとは?

Ramblesdori

「ランブラス(Las Ramblas)」という名前は、カタルーニャ語で“並木道”“遊歩道”“大通り”を意味する「Rambla」が由来です。

複数形になっているのは、実際には5つの通りが連続して繋がっているためです。カタルーニャ広場側から順番に見ると、以下のように分かれています。

  • Rambla de Canaletes
     有名な「カナレータスの泉」があることから。
  • Rambla dels Estudis
     かつて大学や兵舎があったことに由来。
  • Rambla de Sant Josep
     以前この場所にサン・ジュゼップ修道院があったことから。
  • Rambla dels Caputxins
     カプチン会修道院があったことに由来。
  • Rambla de Santa Mònica
     近くにあったサンタ・モニカ教会から名付けられました。

現在では全体をまとめて「ランブラス通り」と呼ぶことがほとんどですが、実はそれぞれに歴史的な由来があります。

このバルセロナで最も賑わうランブラス通りですが、その語源となった「Rambla」は、もともとスペイン語で“一時的な水路”を意味する言葉です。

さらに起源を辿ると、アラビア語のRamla(砂の川床)に由来すると言われています。

その名の通り、かつてこの一帯には山から流れてきた雨水が川のように流れており、現在は地下トンネルを通っています。

長い年月を経て、今では「ランブラ」という言葉には、“人が集まり、ぶらぶら歩く通り”のようなイメージも重なるようになりました。

 

 

カナレタスの泉

IMG_7453-001

有名なローマのトレビの泉には、「後ろ向きに肩越しでコインを投げ入れると、再びローマへ戻って来られる」という言い伝えがあります。

それと同じように、バルセロナにも、「カナレタスの泉の水を飲むと、もう一度バルセロナへ戻って来られる」という有名な伝説があります。

場所は、カタルーニャ広場からランブラス通りへ入ってすぐ右側。小さな泉なので見落としがちですが、地元ではよく知られた存在です。

また、この周辺はバルセロナ中心部ということもあり、地元FCバルセロナの優勝時などには、多くの人々が集まり街全体がお祭りのような雰囲気になります。

 

 

通りに並ぶショップ

この通りの名物と言えば、かつてはペットショップと花屋でした。特に鳥や小動物を扱う店が並ぶ風景は、長年ランブラス通りの名物として知られていました。

ただ近年は、衛生面や動物保護の観点からペットショップは姿を消し、その代わりに、

  • お土産店
  • チョコレートショップ
  • ツーリストインフォメーション

などが増え、以前より旅行者向けのエリアへ変化しています。昔ながらのランブラス通りを知る地元の人の中には、少し寂しく感じている人もいるようです。

 

 

市民の胃袋と呼ばれたボケリア

通りを海側へ進むと、右手に見えてくるのがサン・ジュセップ市場、通称「ボケリア市場」です。“バルセロナの胃袋”とも呼ばれるこの市場は、地元市民だけでなく観光客にも人気のスポットとなっています。

近年はスペインのガストロノミー(食文化)が世界的に注目されるようになり、バルセロナ市も市場文化の発信に力を入れています。その影響もあり、現在のボケリア市場は単なる生鮮市場ではなく、

  • レストラン
  • バル
  • 搾りたてジューススタンド
  • フィンガーフード

なども充実した、“食のテーマパーク”のような場所へ変化しています。観光客向けの市場という側面は強くなりましたが、バルセロナらしい食文化を気軽に体験できる人気スポットであることは間違いありません。

 

 

ミロのモザイク画

市場を楽しんだ後は、再びランブラス通りへ戻ります。そこから海側へ3分ほど歩くと、足元に突然現れるのがミロのモザイク画。ただ、ほとんどの観光客は気付かないまま、その上を通り過ぎていきます。

さて、一直線に続くランブラス通りですが、この辺りがちょうど中間地点。周辺には、歴史を感じさせる「CAFE DE L’OPERA」のような老舗カフェも点在しており、少し休憩するにはちょうど良いエリアです。もし小腹が空いていたら、スペイン名物のチュロスを試してみるのも良いでしょう。

 

 

リセウ劇場

1847年に建てられたリセウ劇場(Gran Teatre del Liceu)は、バルセロナを代表するオペラハウスです。

ミラノのスカラ座やウィーン国立歌劇場と並び、「ヨーロッパ三大オペラハウス」の一つとして紹介されることもあります。

長い歴史の中では2度の大きな火災に見舞われましたが、そのたびに修復され、現在でもオペラやバレエ、クラシックコンサートが開催されています。

人気公演は発売後すぐに完売することも少なくありませんが、劇場内部を見学できるツアーも行われており、豪華な内装をじっくり楽しむことができます。

 

 

レーアール広場

南国らしい開放的な雰囲気が漂うレイアール広場(Plaça Reial)。19世紀に修道院跡地を再整備して造られた広場で、中央には噴水があり、その周囲を囲むようにバルやレストランが並んでいます。

ヤシの木が並ぶ風景もあり、バルセロナ中心部の中でもどこかリゾートのような空気を感じられる場所です。ここで見逃せないのが、若き日のガウディがデザインした街灯。

ガス灯上部をよく見ると、商業の象徴であるギリシャ神話のヘルメスをモチーフにした装飾が施されており、当時のバルセロナ経済発展を象徴するデザインになっています。

 

 

グエル邸

グエル邸

レイアール広場から再びランブラス通りへ戻り、少し右手の路地へ入ると見えてくるのがグエル邸です。

ガウディ初期の代表作とも言われるこの邸宅は、その後のサグラダ・ファミリアやカサ・バトリョへ繋がる発想やデザインの原点を見ることができます。

外観は比較的落ち着いていますが、一歩中へ入ると、鉄細工や天井装飾、採光の工夫など、ガウディらしい独創的な世界が広がっています。

派手さでは後期作品に譲るものの、“ガウディ建築の出発点”として非常に見応えのある建物です。

 

 

レストランとカフェ

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ランブラス通りは、リセウ劇場あたりからレストランやバルのテラス席が目立ち始めます。

ただし、バルセロナ最大級の観光エリアということもあり、この周辺は「値段は高め、味はそれほどでもない」と昔から言われるエリアでもあります。

もちろん例外はありますが、特に観光客向けの店は立地代込みの価格になっていることが多く、事前に調べず入ると外してしまうことも少なくありません。

この周辺で食事をするなら、レイアール広場内にある人気店「Les Quinze Nits」は比較的リーズナブルで旅行者にも評判の良い店です。

行列ができることも多いですが、ランブラス周辺では比較的満足度の高いレストランの一つとして知られています。

 

 

似顔絵アーティスト

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さて、ランブラス通りの終盤に差しかかると、今度は似顔絵アーティスト達が並ぶエリアが見えてきます。

さまざまな画風のアーティストがいるので、気に入った人に描いてもらえば、旅のちょっと面白い記念になるかもしれません。写真とはまた違った、“バルセロナの思い出”として持ち帰れるのも魅力です。

 

 

終点コロンブスの塔

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 アメリカ大陸を発見したコロンブスが、王様へその報告に来たのがここバルセロナ
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新しい海のランブラスと呼ばれる橋 年中無休のショッピングモール

ここまで、約2km弱のランブラス通り散歩も、コロンブスの塔に到着してひと区切りとなります。そのすぐ先の港には、1995年に開業したショッピングモール「Maremagnum」が浮かび、そこへ続く橋は“海のランブラス”とも呼ばれています。

ここまで来たら、そのまま地中海沿いまで足を延ばしてみるのもおすすめです。周辺には、海を眺めながら食事ができるレストランやカフェもあり、バルセロナらしい港の雰囲気をゆったり楽しむことができます。

 

 

実際に歩いてみました

 


お勧め度:17点/20点
★★★★★
(4.50)


 

最寄駅 地下鉄1号線・3号線Catalunya駅
地下鉄3号線Liceu駅、
地下鉄3号線Drassanes駅
【地図&行き方】

 


記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。

 

この記事を書いた人:アキモト
日本で社会人を経験後マドリッドへ大人の語学留学。海のあるバルセロナへ移住後、バルセロナウォーカーにて情報を発信しています。最終更新 2026.06.06

通り沿いの主な見所

2014-12-21 (13) カタルーニャ広場】
バルセロナのほぼど真ん中、新市街と旧市街の境に位置し、ランブラス通りの起点。
IMG_2806 サン・ジュセップ市場】
ランブラス通りにある、通称「ボケリア」と呼ばれる人気の市場。
CIMG1245 【リセウ劇場】
ランブラス通りの中間地点に建つ、荘厳な建物のリセウ劇場はオペラのメッカ。
CIMG1214 【レイアール広場】
旧市街ゴシック地区の中心と呼べる広場はいつもの賑やか。
http://i2.wp.com/kamimura.com/wp-content/uploads/2020/08/obijesetu.jpg 【グエル邸】
アントニ・ガウディの良き親友であり、最大のパトロンの為に作った世界遺産建築。
IMG_0040 【コロンブスの塔】
カタルーニャ広場からランブラス通りを降りてくると、終点に高くそびえ立つ塔。

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コドルニウ ワイナリー見学ガイド|日帰り観光のポイントと楽しみ方

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はじめに

スペイン最古の企業の一つとして知られるのが、CAVA(カバ)を製造するコドルニウ社です。創業は1551年。日本では戦国時代の真っただ中で、織田信長が17歳だった頃にあたります。

創業当初はカタルーニャ地方の小さなワイナリーに過ぎませんでしたが、1659年にコドルニウ家の娘アナと資産家ラベントス家のミケルが結婚したことで事業は大きく発展しました。なお、現在のオーナーファミリーの姓はラベントスで、「コドルニウ」はブランド名として受け継がれています。

その後、1872年に当時の当主ホセ・ラベントスが伝統製法によるスパークリングワインの生産を開始。これが後にCAVAと呼ばれるようになります。

ただし、当初は品質面で課題も多く、販売は思うように伸びませんでした。転機となったのは息子のマヌエル・ラベントスです。彼はフランスで醸造技術を学び、本場シャンパーニュ地方の技術を取り入れることで、高品質なCAVAの生産に成功しました。

現在のコドルニウは年間約2億本を生産するスペイン有数のワイナリーグループです。CAVAの生産量ではフレシネ社に次ぐ第2位ですが、ワインブランド「Raimat(ライマット)」なども展開し、ヨーロッパでも最大級のワイン企業の一つとして知られています。

製品は世界100か国以上へ輸出されており、醸造所もスペイン国内だけでなく、アメリカ・カリフォルニア州やアルゼンチンなどにも展開しています。日本ではメルシャンが輸入販売を行っているため、すでに飲まれたことがある方も多いかもしれません。

この記事では、コドルニウのワイナリー見学ツアーの内容や予約方法、バルセロナからの日帰りでの行き方について詳しく紹介します。

 

サンツ駅から行く

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起点は、バルセロナの中央駅のサンツ駅から。

CIMG2023 サンツ駅 Barcelona Sants】
バルセロナ最大のターミナル駅で、国際列車、マドリッドへのAve、グラナダへの…..

penechan

目的地のサン・サドゥルニ・ダノイア(Sant Sadurní d’Anoia)へは、RENFE近郊線R4号線のビラフランカ・デル・ペネデス(Vilafranca del Penedès)行き、またはサント・ビセンス・デ・カルデルス(Sant Vicenç de Calders)行きに乗車します。

列車は通常、サンツ駅の7番または8番ホームから出発しますが、ホーム変更もありますので、駅構内の案内表示で必ず確認してください。所要時間は約45分。運行本数は1時間に約2本です。

※7番ホームと8番ホームは、エスカレーターを下りた同じホームの左右にあります。

時刻表はこちらで確認

 

【注意】

スペインの鉄道は遅延が発生することが珍しくありません。また、遅れている列車を後続列車が追い越し、先にホームへ入線する場合もあります。

そのため、一度案内表示を確認して安心せず、列車が到着するまでホームの電光掲示板を随時確認することをおすすめします。

 

自販機での切符の買い方

1-IMG_0228 1-IMG_0230
自販機の操作画面をタッチすると➡ この画面の下を押してカタルーニャ語を英語表記に変更
1-IMG_0252 1-IMG_0267-001
すると英語表記画面になりました ここで行先選択しますがSを押し、続けてA,N,Tまでいくと。。
1-IMG_0274 1-IMG_0275
そこで、このSPACEを押してからS,と押します すると Sant Sadurni d’Anoiaが出て来るので
1-IMG_0279-001 1-IMG_0259
そこを押し選択、次に下の緑のボタンを押す するとこの画面になるのでAduilt Return(往復)を選択
1-IMG_0261 1-IMG_0263
次に切符の枚数を選択して下の緑のボタンを押す するとこの確認画面がでるので、間違いないか確認します
1-IMG_0264
間違い無ければ支払いします。クレジットカードでの購入の際は、暗証番号4桁を入れる必要があります。

購入したチケットには行先は書かれておらず、代わりに左上にゾーン①➡④と書かれています。

50、100€の高額紙幣は使えませんので注意。

また、慣れない券売機に手間取ることもありますから、サンツ駅には早めに着くようにしましょう。

 

駅からはタクシー移動

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駅からコドルニウまでは徒歩で約30分かかります。路線バスなどの公共交通機関はなく、最も現実的な移動手段はタクシーです。タクシー乗り場は駅を出て右手側(赤丸の位置)にあります。写真中央に停まっている黒い車がタクシーです。

ただし、この町は小さく、常時タクシーが待機しているとは限りません。車がいない場合は電話で呼ぶ必要があります。料金は片道約15€、所要時間は10分弱です。

帰りのタクシーについては、コドルニウのレセプションで依頼すれば呼んでもらえますので心配はいりません。なお、タクシー会社への電話は以下の番号です。いずれも個人タクシーのため英語は片言程度ですが、「コドルニウ(Codorníu)」と言えば通じますので、難しく考える必要はありません。

ドライバ名  電話番号
村のタクシー代表 (固定電話) 93 891 04 28
Juan Cusco Carda (ファンさん) 610915353
Albert Pujadó Ferrer (アルベルトさん) 639375129
Angel Pujado (アンヘルさん) 619 333 339

 

 

周り一面ブドウ畑

駅から10分弱、ブドウ畑の中を進むと目的地のコドルニウに到着します。正門は通常閉まっていますが、左横にある通用口から敷地内へ入ることができます。(現在は、右側の扉が開いています)

入場後は、右手に見える建物(写真下)へ向かい、受付を済ませてください。

見学後でも構いませんが、時間に余裕があれば一面に広がるブドウ畑で記念撮影するのもおすすめです。バルセロナ市内ではなかなか味わえない、ペネデス地方らしいのどかな風景を楽しむことができます

 

受付はモデルニスモ建築

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ガウディと並び称されるモデルニスモ建築の巨匠、プッチ・イ・カダファルクがモンセラットの山をモチーフに作った建物が見学ツアーの受付場所です。

 

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まずは、この受付でチェックイン(?)をし、入場料を支払います。すると、訪問客を示すリストバンドが渡されますので、見学が終わるまで腕に付けておいて下さい。
*リストバンドは渡されない日もあり、その辺りはスペインなのでいい加減ですが…

 

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ツアー開始時間までは、ソファーで休んで待ちますが建物内の奥にある併設のカフェでコーヒーを飲んだり、カバを飲んだりして適当に時間をつぶすのも良いでしょう。

カフェには生ハム、ソーセージやチーズなど簡単なつまみもあります。

尚、開始が近づいたら受付付近に集まって下さい。

 

puu 【ジュゼップ・プッチ・イ・カダファルク】
ガウディ、モンタネールと並び地元カタルーニャを代表する称され建築家の一人。その代表作としては「カサ・アマトリエール」「カサ・マルティ」「カサ・プンシャス」などが知られまう。
作風としては中世ゴシックの様式を取り入れたデザインが多く、同じモデルニスモでもガウディとは一線を画しています。

 

ビデオから始まるツアー

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ツアーの最初に約7分ほどのビデオ上映があり、コドルニウの歴史などの簡単な解説があります。

ビデオを見終えた後は、ガイドさんに連れられワイナリーを周ります。

 

屋敷跡

途中に見える白い塔のある建物も、カタルーニャを代表する建築家プッチ・イ・カダファルクの作品です。かつてはオーナー家族の住居として使われていましたが、田舎暮らしに飽きたのか、現在は楽しいバルセロナ暮らしで、現在はレストランとして使われています

この建物で注目したいのは、なぜか中国風にも見える屋根のデザインと、建物の一角に設けられた家族用の礼拝堂(赤丸)です。当時の裕福な家庭では、敷地内に家族専用の礼拝堂を設けることが珍しくありませんでした。なお、ガウディの代表作であるグエル邸にも同様の家族向け礼拝堂が設けられています。

 

博物館

ワイナリーの敷地内を進むと、ここからはガイドの案内で見学ツアーが始まります。まずは博物館と地下の貯蔵庫を巡りながら、CAVAが造られる工程について説明を受けます。

現在は使用されていませんが、この建物はかつて実際の醸造施設として使われていました。そのため、単なる展示館ではなく、コドルニウの歴史そのものを感じられる場所でもあります。

また、ここで面白いのが、コドルニウで使用されるブドウの香りを実際に嗅ぎ比べる体験コーナーです。ワイン造りにおいて香りがどれほど重要かを体感できる人気の展示でしたが、現在は休止中となっています。

 

【ブドウの種類】

http://i2.wp.com/kamimura.com/wp-content/uploads/2016/10/uvab.jpg

CAVAの原料となるブドウ品種は複数ありますが、その中でも伝統的な基本品種として使われるのが、カタルーニャ原産の白ブドウである「マカベオ」「チャレロ」「パレリャーダ」の3種類です。

マカベオはフルーティーな香りを、チャレロはしっかりとした骨格と豊かな糖度を、パレリャーダは上品な酸味と繊細さをもたらします。コドルニウでは、これらの品種の配合比率を変えることで、それぞれ異なる個性を持ったCAVAを造り分けています。

 

ここで、簡単にカバの工程を説明すると・・・
1. 収穫 8月下旬から10月上旬までブドウの品種によって収穫
2. 搾汁 皮ごと空気圧搾器で搾汁し、ぶどうジュース「モスト」を作る
3. 一次発酵 モストに酵母を加えて一次発酵させる
4. ブレンディング 味を決める1番重要な作業。ぶどうの品種ごとに発酵させたワインを品種の違いや年ごとのぶどうの作柄を考慮してブレンドする。

そして、1本ずつ瓶詰し、2次発酵用の酵母と蔗糖を加えて王冠で仮栓

5. 2次発酵・熟成 瓶内では酵母により糖分が分解されアルコールと炭酸ガスが発生。地下セラーでゆっくり熟成させる。

地下で熟成させるのは、年間を通して15度前後と言う一定の気温に保たれていること、振動が少ない事、光が差さない薄暗い中にあるという3つの理由から。

6. 動瓶 二次発酵・熟成を終えたカヴァは発酵によって生じた澱を取り除くため、瓶口を下にして澱を瓶口に集めていく。
7. 澱抜き 澱が集まった瓶口を-24℃の冷却液に浸すと澱を瞬時に凍り、仮栓の王冠を抜くと瓶内の炭酸ガスの圧力で凍った澱が外に「ポン!」と飛 び出す。

コルク栓とラベルを張って出荷。

    もっと詳しく知りたい方はコドルニウのHPへ

 

codobin 【以前はシャンパンと呼ばれていたCAVA】
1992年にEU法でシャンパーニュ地方のシャンパンが原産地名称保護制度の地理的保護表示の対象となりました。
以降シャンパンと同じ製法で作っていてもスペイン産スパークリングワインは「シャンパン」と名乗ることが出来なくなりました。
同じ和牛でも松坂で育った牛以外は松坂牛と名乗れないそれと同じと言うことですね。

*CAVAとラベルやコルクに記載することが出来きるのは、厳格なDO(原産地呼称)規定に基づいて作られたものだけです。

 

ツアー最大のアトラクション

このツアー最大の見どころと言えるのが、地下に広がる巨大なCAVAの貯蔵庫です。地下に張り巡らされたトンネルは全部で7層構造。その総延長は30kmを超え、東京-横浜間にも匹敵する規模を誇ります。

見学では、この地下トンネルを専用のトロッコ列車に乗って巡ります。薄暗い貯蔵庫の中を走り抜ける体験はなかなかの迫力で、コドルニウ見学ツアーのハイライトと言っても過言ではありません

 

お待ちかねの試飲タイムで〆

http://i1.wp.com/kamimura.com/wp-content/uploads/2016/10/IMG_1547.jpg

見学ツアーの最後は、お待ちかねのCAVAの試飲です。ここではBrut(白)、Rosado(ロゼ)、そして再び白のCAVAの計3種類を試飲します。

こうした見学ツアーでは廉価版の商品が出されることもありますが、コドルニウではきちんとした品質のCAVAが提供されます。また、グラスへの注ぎ方もなかなか気前が良く、「さすがスペイン」と思わせてくれます。

さらに、その日の内容によって異なりますが、チョコレートやチーズの盛り合わせなどのおつまみが添えられることもあります。ワイン好きの方ならもちろん、普段あまりCAVAを飲まない方でも十分に楽しめる締めくくりとなっています。

 

ショップでお土産探し

見学ツアーの最後には、コドルニウで造られている製品が並ぶショップがあります。定番のCAVAはもちろん、Raimat(ライマット)をはじめとするコドルニウグループ各社のワインも販売されており、その品揃えはかなり充実しています。

スパークリングワインから赤・白ワインまで幅広く揃っているため、ワイン好きの方ならどれを買おうか迷ってしまうほど。世界的なワイナリーグループの規模を実感できるショップです。お土産用としてはもちろん、日本ではあまり見かけない銘柄を探してみるのも面白いでしょう。

 

さて、お土産選びですが、CAVAのボトルは1本で2kg近い重さがあります。また、近年は日本の輸入業者も増え、楽天などで比較的安く購入できるようになりました。そのため、お土産としてはベンジャミンボトルと呼ばれる飲み切りサイズのミニボトルが無難かもしれません。

一方、自分用や家族用に1~2本持ち帰るのであれば、せっかくですからバルセロナのスーパーでも普通に買える商品ではなく、「Jaume Codorniu Gran Reserva」や「Reina Maria Cristina Blanc de Noirs」などの上位クラスを選ぶのがおすすめです。

もっとも、上位クラスと言っても価格は30€前後。高級ワインと比べると、CAVAはかなり手頃な価格で楽しめます。なお、好みは人それぞれですので、受付横のカフェでグラス販売されているCAVAを飲み比べてから、お土産用の1本を選ぶのも良いでしょう。

また、日本へのお土産としては写真右のCAVA用ストッパー(約5€)もおすすめです。シリコン製とステンレス製があり、開栓後の炭酸を長持ちさせることができます。

よく聞かれる日本への配送についてですが、送料は商品の価格の数倍になることも多く、コスト面でのメリットはほとんどありません。なお、CAVAのボトルは一般的なワインボトルよりガラスが厚く重量があります。スーツケースで持ち帰る場合は、1~2本程度を目安に考えておくと良いでしょう。

 

コドルニウのHPから予約

見学ツアーの予約は、以下の公式サイト(英語)から申し込むことができます。

http://www.visitascodorniu.com/booking-codorniuvisit-date/

ツアーには複数の種類がありますが、初めて訪れる方なら基本となる【ICONIC TOUR】を選んでおけば間違いありません。

ガイドは英語・スペイン語・カタルーニャ語に対応していますが、ツアーの種類や言語によって開始時間が異なりますので、最新のスケジュールは公式サイトでご確認ください。

日本からの旅行者が参加しやすいのは、15時30分開始の英語ツアーです。

所要時間は約90分。地下貯蔵庫の見学に加え、最後には3種類のCAVAの試飲も含まれています。

なお、ツアー内容や開始時間、料金は予告なく変更されることがあります。予約前には必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。

 

まとめ&アドバイス

コドルニウ見学の最大の魅力は、何と言っても地下に広がる巨大なCAVAの貯蔵庫です。

全長30kmを超える地下セラーは他ではなかなか見られない規模で、見応えは十分。個人的には、バルセロナ近郊だけでなくスペイン全体を見渡しても、ワイナリー見学としてはトップクラスだと思います。

また、近隣にあるフレシネやトーレスのワイナリーと比べても、見学施設の規模や迫力という点では一歩抜きん出ています。

一方で難点を挙げるとすればアクセスです。バルセロナから電車で行けるものの、最寄り駅からワイナリーまではタクシー利用が前提となります。さらに、帰りも電話でタクシーを呼ぶ必要があり、この点は少々不便に感じるかもしれません。

最後に一つアドバイスです。春から秋にかけての観光シーズンは英語ツアーが満席になることも珍しくありません。訪問日が決まっているのであれば、予約はなるべく早めに済ませておくことをおすすめします。

 

【弊社広告】

アクセスに難があるコドルニウ、専用車でホテルまでお出迎え、お送り。途中は当サイトを運営する経験豊富なカミムラが同行しますので安心、また英語が不得意な方でも日本語で説明いたしますのでご安心ください。

【厳選、お勧めオリジナルツアー】
ホテルまでの送迎がついているのでドアツードアで安心、そして楽ちんの欲張りツアー。

 


お勧め度:★★★★☆(4.0)


 

住所 Avda Jaume de Codorníu s/n  Sant Sadurní d’Anoia 【地図はこちら】
URL http://www.visitascodorniu.com/en/
電話 +34 938 913 342
時間
英語ツアーは 15:30(季節により微妙に変わります、HPで確認下さい)
料金 公式サイトにてご確認ください。 子供8歳未満:無料 
行き方 バルセロナ・サンツ駅または、カタルーニャ広場駅からR4号線に乗りサンサドルニ・ダ・ノイア(Sant Sadurni d’Anoia)で下車
所要時間 ツアーは約105分

 


記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。

 

 

この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。 記事最終更新 2026.06.06

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カサ・バトリョのおすすめチケット 選び方のポイント

現在、カサ・バトリョの入場チケットは非常に複雑化しており、券種名や内容、入場条件などがかなり頻繁に変更されています。以前は比較的シンプルだったのですが、近年はVR体験、限定エリア、優先入場、夜間イベントなどが追加され、かなり分かりづらくなってきました。

さらに少々厄介なのが、こうした変更が特に大きな告知もなく行われる事。昨日まで正しかった情報が、気付くと変わっている事も珍しくありません。

そのため、当記事では以前の様な細かな券種比較は行わず、「どのタイプの方にどのチケットが向いているか」と言う大まかな目安のみ紹介します。

現在のチケット選びの目安としては、

 

  • とにかく安く入場したい → Blue
  • 一般的な観光なら → Silver
  • ガウディ建築が好きでしっかり見たい → Gold以上

 

この様なイメージで考えれば、大きく外す事はありません。

なお、チケット内容や料金、含まれるエリアなどは今後も変更される可能性がありますので、最新情報については必ず公式サイトをご確認ください。

最近はチケット内容の変更も多いため、予約画面で迷った場合はChatGPTなどのAIに相談しながら進めるのも一つの方法です。券種の違いや選び方をその場で確認できるため、以前より予約のハードルはかなり下がっています。

 

Casa Batlló公式サイト

特に繁忙期は、チケット種類だけでなく入場時間や混雑状況もかなり変わるため、「どの券種が一番得か」を細かく考えすぎるより、自分がどこまで見たいか、どこまでお金を掛けるかでシンプルに決める方が、実際には満足度は高いと思います。

 


記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。

 

この記事を書いた人:アキモト
日本で社会人を経験後マドリッドへ大人の語学留学。海のあるバルセロナへ移住後、バルセロナウォーカーにて情報を発信しています。最終更新 2026.06.6

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ダリ劇場美術館 見どころと特徴

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ダリ劇場美術館は、バルセロナから高速鉄道で約1時間。フランス国境にも近い街、フィゲラス(Figueres)にあります。

ここは単なる「ダリ作品を集めた美術館」ではありません。建物の構想から設計、展示空間に至るまで、サルバドール・ダリ本人が深く関わり、自身の集大成として作り上げた場所です。

つまり、この美術館そのものが、巨大なダリ作品。

普通の美術館感覚で行くと、かなり面食らいます。そして恐らく、世界中どこを探しても、ここまで“作家の頭の中”がむき出しになっている美術館はそうありません。そんなダリへの敬意も込め、出来る限りその魅力が伝わるよう、かなり深く掘り下げて解説していきます。

なお、この記事はかなりボリュームがあります。そのため、「とりあえず美術館部分だけ知りたい」という方は、目次の「第9章 ダリ劇場美術館」から読み始めてください。

概要

ダリ美術館の建つ場所には、かつてフィゲラス市民劇場がありました。

そこは幼いダリが初めて本格的に芸術へ触れ、強い衝撃を受けた特別な場所でもあります。さらに劇場の目の前には、ダリが洗礼を受けた教会が建ち、また14歳の少年ダリの作品が初めて展示された場所でもあったため、彼にとって非常に思い入れの深い場所でした。

しかし、この市民劇場はスペイン内戦によって破壊され、その後長い間、廃墟のまま放置されます。その劇場跡地を利用し、フィゲラス市長や市議会の協力のもと、1974年にダリはここへ自身の美術館をオープンさせました。

つまり、この美術館は単なる展示施設ではなく、“ダリ自身の人生そのもの”と深く結びついた場所です。

館内には、ダリが生涯を通して制作した4000点以上の作品が所蔵され、世界最大級のシュルレアリスム作品コレクションを持つ美術館としても知られています。そして、この美術館で最初に誰もが驚かされるのが、その異様な外観。巨大な卵、赤い壁、不気味な装飾…。建物そのものが既にダリ作品化しています。

普通の美術館の感覚で近づくと、かなり戸惑います。ただ、驚きは外観だけでは終わりません。館内へ入ると、

  • 雨降りタクシー
  • 巨大な騙し絵
  • 意味不明なオブジェ
  • 空間そのものを使った演出

など、完全に“ダリの頭の中”へ入り込んだ様な世界が続きます。特に有名なのが、「20メートル離れるとリンカーンの顔に見える、ガラの後ろ姿」という巨大作品。

近くで見ると単なる点や写真の集合なのに、距離を取ると突然リンカーンの顔が浮かび上がるという、非常にダリらしい騙し絵です。実際に見てみると、「なるほど、だから“劇場美術館”なのか」と納得します。

ここは単に絵を並べる場所ではなく、“体験する舞台”として作られています

 

 

ダリ年表

ダリは、生涯を通して、自分自身の人生で起きた重要な出来事を作品へ反映し続けた芸術家でした。単に「綺麗な絵」を描くのではなく、

  • 幼少期の体験
  • 家族との関係
  • 恐怖
  • コンプレックス
  • 性的な不安
  • 死への執着

そうした極めて個人的な感情を、作品の中へ何度も繰り返し登場させています。またダリは、自分だけの象徴的イメージ、いわゆる“アイコン”を数多く生み出しました。例えば、

  • 溶ける時計
  • 松葉杖
  • 引き出し
  • 柔らかい人体

など。それらは単なる奇抜なデザインではなく、少年時代のトラウマや不安、欲望などを比喩的に表現したものが非常に多く、ダリ作品を理解するうえで重要な鍵となっています。

ただ、ダリの作品で厄介なのは、それらの意味が必ずしも明確ではないこと。時には本人しか分からない様なメッセージまで混ざっていて、見る側を混乱させます。

そして、もう一つ。ダリの人生と作品を読み解くうえで、絶対に外せない存在が妻の Gala Dalí です。ガラは単なる妻ではありません。

  • ミューズ
  • マネージャー
  • 精神的支柱
  • 商業面の管理者

その全てを担った存在であり、ダリ後半生の作品世界にも非常に強い影響を与えています。実際、ダリ自身、「ガラなしでは自分は存在しなかった」と言っているほどです。

以下、そんなダリの人生を理解するために、まずは大きな出来事を年表形式でまとめてみました。

1904年 5月11日、スペイン カタルーニャ州フイゲラスで生まれる。
1917年 版画学校教師フアン・ヌーニネスの指導を受け印象派、点描派の影響を受ける
1921年 マドリード王立美術学校に入学。ロルカブニュエルと親交を結ぶ。
母フェリーパ死亡。
1926 ピカソに会う。10月、美術史の答案提出を拒み、放校処分。
1927 フロイトの精神分析学を読む。この頃パリのシュルレアリスムの影響もみられる。
1929 パリのシュルレアリスト達と接触。ガラと恋に落ちる。ブニュエルと共同で前衛映画『アンダルシアの犬』を制作しパリで上映。
1930 スペインの建築家のガウディやオランダのフェルメールなどに影響を受け、
「二重像(ダブルイメージ)」を描き始める。
1931 記憶の固執』など、柔らかい時計の現れる作品を描き始める。
1932 ミレーの『晩鐘』をテーマとする一連の作品を描く。
1934 シュルレアリスムグループから除名される。ガラとともに初めてアメリカを訪問する。
1938 ロンドンでフロイトに会う。
1939 バレエなどの台本を書き、衣装および舞台装置をデザインする。
1940 アメリカに亡命。
1948 アメリカからスペインへ帰国。原子主義、神秘主義を発展させる
1958 新たにガラと宗教的結婚をする。
1974 フィゲラスのダリ劇場美術館開館。
1982 妻ガラ死去。ダリはプボルの館で悲歎・憔悴の日々を送る。
1984 火災に遭い、ダリ全身に火傷を負う。バルセロナの市立病院に入院。
1989 フィゲラスで死亡。フィゲラスのダリ劇場美術館に埋葬される。

 

ダリの代表作

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「記憶の固執」は中学校の美術教科書にも載る事の多い、ダリの代表作です。作品に描かれている“溶ける時計”は非常に有名で、

  • 「柔らかい時計」
  • 「溶ける時計」

などとも呼ばれ、シュルレアリスムを語る際には必ずと言っていいほど登場します。また、この作品は20世紀美術を代表する作品の一つとも言われ、現在は Museum of Modern Art (ニューヨーク近代美術館)に所蔵されています。

絵の中には複数の時計が描かれていますが、それぞれ微妙に時間が異なっています。これは、“現在の記憶と過去の記憶が混ざり合う、時間の存在しない状態”を表現しているとも解釈されています。

また、右上に描かれている岩場は、ダリが長年暮らしたポルトリガットの家の近くにある クレウス岬 。現在でも実際に見る事が出来る風景です。

そして、この作品最大の特徴でもある“溶ける時計”。これは、キッチンで妻ガラが食べていたカマンベールチーズが暑さで柔らかく溶けていく様子から着想を得たと言われています。

ただ、ダリ作品は単なる思いつきだけでは終わりません。ダリは生涯を通して、

  • 柔らかいもの
  • 硬いもの

この両極への強い執着を持っていました。その背景には、幼少期から抱えていた強いコンプレックスや不安、精神的トラウマなどが影響しているとも言われています。

そういう意味では、この作品は、“硬い時計”という本来絶対に変形しない物体が、ぐにゃりと崩れ落ちる。まさにダリ的世界観そのものを象徴した作品とも言えます。

なお、この 「記憶の固執」 は、後にダリ自身によって再構成されています。約20年後、ダリが“原子核神秘主義時代”へ入った頃、この作品は再び描き直され、「記憶の固執の崩壊」として新たな形へ変化しました。

つまり、この作品は単なる代表作ではなく、ダリ自身の人生と思想の変化まで映し出している作品でもあるのです。

 

キーワードを読み解く

シュルレアリスム(超現実主義)と呼ばれるダリの作品世界。日本語では「超現実主義」と訳されますが、その名の通り、現実をそのまま描くのではなく、

  • 無意識
  • 幻覚
  • 恐怖
  • 欲望

など、人間の内面世界を絵として表現しようとした芸術運動です。そのため、Salvador Dalí の作品には、

  • 溶ける時計
  • 宙に浮く物体
  • 不自然に変形した人体
  • 現実には存在しない空間

など、不思議で奇妙なイメージが次々登場します。初めて見ると、「何を描いているのか全く分からない」

と感じる人も多いはずです。ただ、ダリの作品は“意味不明な絵”を適当に描いている訳ではありません。そこには、

  • 少年時代の記憶
  • 家族との関係
  • トラウマ
  • コンプレックス
  • 性への不安
  • 死への恐怖

など、非常に個人的な感情や象徴が数多く隠されています。そして、それらを理解する鍵になるのが、ダリ独特の“キーワード”や“象徴(アイコン)”です。

以下、ダリ作品を読み解く上で、事前に知っておくとかなり理解しやすくなる重要なキーワードを紹介していきます。

 

兄の身代わり

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では、ダリという人間を理解する上で避けて通れない、“全ての始まり”とも言える幼少期の体験から見ていきます。

ダリ は、1904年5月11日、スペイン北東部、フランス国境にも近いカタルーニャ地方の フィゲラスに生まれました。裕福な家庭に育ったダリですが、実は彼が生まれる約1年前、一人の兄が亡くなっています。

その兄の名前も、同じ「サルバドール」。長男の死を受け入れられなかった両親は、次に生まれてきたダリへ再び“サルバドール”という名前を与えます。そして、この出来事が後にダリの精神へ非常に大きな影を落とすことになります。

スペインには、11月1日に墓参りをする習慣があります。その度に両親は幼いダリを兄の墓へ連れて行き、「お前はこの子の生まれ変わりなんだ」

と繰り返し語り聞かせました。当然、幼い子供にとっては極めて重い話です。

次第にダリは、「死んだのは兄ではなく、自分なのではないか?」そんな妄想に取り憑かれるようになります。

つまりダリは、生まれた時から、“死んだ兄の代わり”として生きる感覚を背負わされていたのです。そしてその感覚は、生涯を通して彼の内面に居座り続けます。後にダリ作品へ繰り返し登場する、

  • 腐敗
  • 柔らかく崩れる物体
  • 不安定な肉体

などのイメージも、この幼少期体験と深く結びついていると言われています。特に初期作品で頻繁に描かれる、

  • 軟体生物
  • ぶよぶよした質感
  • 溶ける物体

などは、単なる奇抜なデザインではなく、“肉体が崩れ、腐敗していく恐怖”そのものを象徴しているとも考えられています。ダリにとって、“柔らかいもの”とは単に感触の問題ではありませんでした。それは、

「形が崩れる」
「命が失われる」
「身体が腐敗する」

という、死そのものを連想させる恐ろしい存在だったのです。

 

更なるトラウマ

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ダリの父親は息子へ深い愛情を注いでいましたが、その一方で、子供の本当の心の内を理解できず、亡くなった兄の身代わりのようにダリを扱ってしまいました。

また、ダリは子供の時に父親から性教育としてたくさんの梅毒患者のグロテスクに損傷した性器の写真を見せられたため、性に対する恐怖心が刷り込まれ、それがダリが女性恐怖症になった原因と言われ、更なるトラウマを生涯抱えることになります。

ただ、そんな中で唯一の救いだったのがダリの母親でした。彼女はダリが望むものを何でも与えただけでなく、情緒不安定だった幼少期のダリを、常にやさしく包み込んでくれました。

子供の頃のダリは怒りっぽく、時には理由もなく友人を橋から突き落とすような行動を取ることもあったと言われています。それでも母親だけは、常に深い愛情でダリに接し続けたのです。

しかし、そんな母もダリが17歳の時にガンで亡くなってしまいます。以降ダリは、自分を無条件に愛してくれた母の面影を求め続けることになり、それが後に述べるガラとの出会いへ繋がっていきます。

※生前のダリは様々な精神障害の特徴を示していたと言われており、中でも自己愛性パーソナリティ障害については、専門家から強く指摘されています。

 

運命の女性との出会い

既に述べた幼少期のトラウマを抱え、また母の面影を求め続けながら成人していったダリですが、1929年、運命の女性と出会います。

それが、シュルレアリスムの詩人 ポール・エリュアール の妻であり、ダリより10歳年上のロシア人女性ガラでした。当時、ダリの絵を扱っていた画商と共に、エリュアール夫妻はスペインに住むダリのもとを訪れます。

そして二人は出会って間もなく強く惹かれ合い、その後、夫エリュアールの了承のもとで恋愛関係を始めることになります。幼少期から深いトラウマと精神的葛藤を抱えていたダリにとって、ガラの存在は大きな救いとなりました。

彼女はダリにインスピレーションを与えるミューズであり、時には母親のような存在であり、また仕事面では広報役でもありました。さらに敏腕マネージャーとして、アメリカの画商へ積極的に作品を売り込み、後にダリの象徴ともなる髭(ひげ)や奇抜なパフォーマンスも、彼女の演出だったと言われています。

後にダリは、作品へ「ガラ・サルバドール・ダリ」と署名するようになるほど、二人は強い絆で結ばれていきました。以上が、ダリ作品の根底に流れる重要な背景です。

それでは次に、彼の作品そのものの特徴について解説していきます。

 

ダリ芸術のキーワード

 

ダリの生い立ちなどを知った後、ここではダリの作品上の重要なキーワードを解説していきます。

 

シュルレアリスム

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日本語に直訳すると「超現実主義」。

夢や無意識の力を借りて作品を生み出す芸術運動であり、現実にはありえない世界を表現するアートです。20世紀の芸術界へ与えた最大の影響の一つとも言われており、その影響は絵画だけでなく、文学や映画など様々な分野へ広がっていきました。

しかし1930年代、ヨーロッパでは アドルフ・ヒトラー 率いるナチス・ドイツが台頭します。そしてシュルレアリスムは、一般人には理解し難い芸術として、ナチスから「退廃芸術」とみなされ弾圧の対象となりました。

その後、ナチスによるフランス侵攻の時期に、ダリを含むパリで活動していた多くのシュルレアリストたちは、アメリカへ亡命することになります。そして結果的に、それまでヨーロッパ中心だった前衛芸術の流れはアメリカへ移り、後に現在へ続く抽象表現主義の土台が築かれていくことになります。

なおシュルレアリスムは、その発展の過程で「今まで誰もやったことのない表現」を追求し続けた結果、実に多様な表現手法を生み出していきました。

 

フロイトの精神分析論

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オーストリアの精神科医、ジークムント・フロイトが提唱した理論で、人間の言葉や行動、空想、夢、さらには心理的症状の背後にある「無意識」の意味を理解しようとする方法論です。

その中で用いられた代表的な手法が「自由連想法」でした。これは、ある言葉(キーワード)を与えられた際に、頭に浮かぶまま自由に言葉や考えを連想していき、その関連性を分析することで、潜在意識を顕在化し、心理的抑圧の原因を探ろうとするものです。

一方、それまでの芸術は表面的なものに過ぎず、人間の本当の深層心理を表現していないと考えていた芸術家たちの多くが、このフロイトの理論に強く共鳴しました。そして精神分析学を思想的支柱として誕生したのが、前項で述べたシュルレアリスム(超現実主義)です。

なお、ダリ自身もフロイトから非常に強い影響を受けており、後年にはフロイト本人を訪ね、直接面会したほどでした

 

偏執狂的批判的方法

黄昏の隔世遺伝ん

「偏執狂的」とは、文字通り、何かへ異常なほど執着し、精神が正常ではない状態を意味します。

一方「批判的方法」の“批判”とは、ここでは単に否定的に考えることではなく、頭を使って対象を分析し、評価・判断することを指しています。具体例として、ダリが作品の中で繰り返し取り上げた、フランス人画家 ジャン=フランソワ・ミレー の《晩鐘》を見てみましょう。

この作品は、本来、農作業中の夫婦が夕方の教会の鐘を聞き、手を止めて祈りを捧げている場面を描いた絵画です。しかしダリは、この作品を全く異なる視点で解釈しました。彼によれば、夫婦の間の地面には死んだ子供が埋められており、二人はその死を悼んでいるというのです。

もちろん一般的解釈ではありませんが、「そう言われると、そう見えなくもない」。これこそが、ダリの言う「偏執狂的」な見方でした。さらにダリ自身の作品を見ると、《晩鐘》の構図をそのまま引用しながら、夫婦の身体には杖が突き刺さり、夫は骸骨のような姿へ変化し、帽子を腰の前へ置いています。

この骸骨や身体へ突き刺さった杖は、強烈な“死”のイメージを感じさせます。一方、帽子についてダリは、勃起した股間を隠しているものだと解釈しました。

つまり彼は、この作品の中で、「死」と「性欲」が同時に存在する人間の理不尽さを表現していたのです。このように、たとえそれが自分自身の妄想や偏った解釈であったとしても、それを客観的なイメージとして作品化し、他者へ伝達すること。

それが、ダリの「偏執狂的批判的方法」の核心なのです。

 

ダブル・イメージ(だまし絵)

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次に、「偏執狂的批判的方法」の中でよく使われたのが、「ダブル・イメージ」と呼ばれる、いわゆる“だまし絵”の手法です。

これは、あるイメージを別のイメージへ重ね合わせ、一つの作品の中で複数の意味を成立させる表現方法です。例えば上の作品《水面に象を映しだす白鳥》では、一見すると三羽の白鳥が静かに水辺へ佇んでいるように見えます。

しかしよく見ると、水面へ映った白鳥の姿は象にも見え、さらに白鳥の後ろに描かれた枯れ木は、水面へ反映することで象の脚の部分になっています。つまり鑑賞者は、ダリが現実に見ていた白鳥と、夢想状態の中で見えていた象、その二つの異なるイメージが交差する境界を見ることになります。

そして、その曖昧な境目から、もう一つ別の“現実”が立ち上がってくるのです。この錯覚を利用した手法は、観る者に“だまし絵”ならではの面白さを与えてくれます。

ただ一方で、その仕掛けを見抜けないと、正直かなりイライラします。特にダリ作品の中には非常に難解な“だまし絵”も多く、もしかすると「自分の頭が硬いのでは?」と少し落ち込むかもしれません。

 

作品に多用される象徴

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次に、ダリの作品には繰り返し登場する様々な象徴(アイコン)があります。

作品を鑑賞する前に、それぞれが何を象徴しているのかをある程度知っておくと、作品理解の助けになります。ただし注意が必要なのは、全てのアイコンに明確な意味があるわけではないという点です。

中にはダリ自身が特に意味もなく使っていたものや、本人にしか理解できない極めて観念的なイメージも数多く含まれています。

その中でも比較的分かりやすい象徴としては【蟻】【卵】【引き出し】【ガラ】【ライオン・虎】などがあります。

なお、上記の中には、実際にはダリ本人から明確な説明がされておらず、現在でも何を象徴しているのかよく分かっていないものがあります。

代表的なのが【溶ける時計】や【宇宙象】です。一般的には「時間の消滅」「時空の歪み」などと言われていますが、実際のところ、その多くは後世の専門家たちによる解釈に過ぎません。

また逆に、本人による説明は残されているものの、その説明自体が意味不明で理解し難いアイコンもあります。代表的なのが【サイの角】や【カタツムリ】です。

例えばサイについてダリ本人は、「自然界には、サイの角の曲線ほど完璧な対数螺旋構造のモデルは存在しない」と語っています。またカタツムリについては、「フロイトを訪ねた際、彼の家の外にあった自転車へ張り付いていたカタツムリが、フロイトの頭のつむじに見えた」と説明しています。

正直、本人以外には何を言っているのかさっぱり分かりません。また【バッタ】は、子供の頃から気持ち悪くて大嫌いだったから。逆に【ロブスター】や【ウニ】は、単純にシーフードが大好物だったから。

ダリは、それくらいの感覚で作品へ登場させていることもあります。ですので、あまり難しく考え過ぎず、分かり難いアイコンや、ダリ本人ですら説明しきれていない感覚まで無理に理解しようとしなくても大丈夫です。

むしろ、それぞれが自由な感覚で観て、感じることの方が重要なのかもしれません。実際ダリ本人も、「作品は観る者が自由に感じれば良い」と語っています。

それでは次に、ダリの代表作品を年代順に紹介していきます。

 

主要作品(年代順)

学生時代 1920 – 1928

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ジュリー(沢田研二)にも似た自画像 1921年

裕福な家庭に生まれたダリは、幼い頃から素描や絵画に強い関心を示していました。

やがて両親も息子の才能に気付き、その支援を受けながら、ダリは本格的に絵を学んでいきます。そんなダリが最初に強い影響を受けたのが、地元フィゲラス出身の画家 ラモン・ピチョット でした。

ダリは彼から、点描法や表現主義、フォービズムなどの影響を受け、《父の肖像》や、《ラファエロ風の首をした自画像》などを描いています。特に当時のダリは、ルネサンスの巨匠 ラファエロ に強く心酔していました。

そして1922年、父親の勧めに従い、ダリは パブロ・ピカソ も学んだ、マドリッドの名門美術学校《サン・フェルナンド王立アカデミー》へ入学します。ここで出会った映画監督 ルイス・ブニュエル と、詩人 フェデリコ・ガルシア・ロルカ は、その後のダリの人格形成へ決定的な影響を与える存在となりました。

王立美術アカデミー在籍中の数年間、ダリはキュービズム、未来派、形而上絵画など、当時の様々な前衛芸術手法を積極的に取り入れていきます。

また前衛芸術だけでなく、新古典主義の画家たちからも影響を受け、まるで写真のように精密な作品も描いています。その代表作の一つが、左下の《窓辺の人物》です。ちなみに、この絵で窓辺から海を見つめている女性は、ダリの妹アナ・マリアです。

そんな美術学校在籍中の1926年4月、ダリは旅行で パリ を訪れます。パリでは パブロ・ピカソ 本人に会い作品を見せてもらった他、若い芸術家たちが集うカフェへ通い、強い刺激を受けました。

また ルーブル美術館 では、レオナルド・ダ・ヴィンチラファエロアングル などの作品を、毎日何時間も眺めながら過ごしています。そうしたカルチャーショックとも言える刺激を受けてマドリッドへ戻ったダリは、これまで学んできた王立美術アカデミーの保守的な姿勢へ真っ向から反発するようになります。

そして教授たちに対して、「彼らには自分を評価する能力すらない」と言い放ち、ついには退学処分となってしまいます。こうして完全に自由となったダリは、その後、新たな表現方法の模索へ没頭していきます。

そして辿り着いたのが、後に彼の代名詞ともなるシュルレアリスムでした。その初期作品の一つが、1928年に描かれた《鶏肉の始まり》です。

 

シュルレアリスムの勃興 1929 – 1935

1929年4月、ダリは王立アカデミー以来の友人である映画監督 ルイス・ブニュエル と共に、映画《アンダルシアの犬》を制作するため、再び パリ を訪れます。

この時、ダリと同じカタルーニャ出身で、以前から彼を支援していた画家 ジョアン・ミロ の紹介により、画商カミーユ・ゲーマンと作品の独占購入契約を結ぶことに成功。

こうしてダリは、パリで活動するための経済的基盤を確立していきます。

さらにこの頃、画家 ルネ・マグリット や、詩人 ポール・エリュアール など、シュルレアリスムの中心人物たちを紹介され、その思想へ強く惹かれていきました。

特にエリュアールは、後に妻ガラを連れてスペインのダリを訪れることになります。しかし、この出会いこそが、ダリの人生を大きく変える転機となるのでした。

 

さて、一旦パリからスペインへ戻ったダリは、いよいよ本格的にシュルレアリスム作品の制作へ取り組み始めます。

その最初期の代表作の一つが、《陰鬱な遊戯》です。

この作品の中では、ダリ自身が抱えていた性的嫌悪感、妄想、羞恥心、そして家族との葛藤がむき出しの形で表現されています。またこの頃から、後のダリ作品を象徴する、

  • 眠る頭部
  • バッタ
  • ライオン

などのアイコンが登場し始めます。続く作品《欲望の謎 ― 母よ、母よ、母よ》では、曲面体の右上にライオンの顔が描かれています。

ライオンはダリにとって“恐怖”の象徴であり、さらに顔へ群がる蟻は、彼自身の実体験に基づいた“死”を象徴しています。そして、こうした作品を通して露わになっていく家族との葛藤は、やがて現実の家族関係そのものを崩壊へ向かわせていきます。

その決定的な存在となったのが、次に登場するガラでした。

 

ガラの出現 1929

1929年夏、パリで知り合ったフランスの詩人 ポール・エリュアール が、妻ガラを連れて、ダリの住む カダケス を訪れました。

当時ガラはエリュアールの妻でしたが、二人は出会って間もなく強く惹かれ合い、その後、夫エリュアールの了承のもとで恋愛関係を始めることになります。またガラは、パリに集う若い芸術家たちの不安や葛藤を理解し、彼らの作品を全力で称賛し支え続けたことで、多くの芸術家たちにとっての“ミューズ”のような存在となっていました。

そんなガラの存在によって、長年抱えていた精神的葛藤から解放され始めたダリが制作したのが、《大自慰者》です。作品中央に描かれている、下を向き目を閉じた巨大な顔はダリ自身の横顔であり、その形は、ダリが暮らしていた クレウス岬 の岩から着想を得たと言われています。

そしてこの作品は、ダリがガラへ抱いていた性的欲望を表現しているとも考えられています。しかしキャンバスには、単なる性的欲求だけではなく、

  • 「恐怖」の象徴であるバッタと蟻
  • 「葛藤」を象徴する三人の人物
  • 「生」を象徴する卵

なども同時に描かれています。

つまりこの作品は、「快楽」「恐怖」「葛藤」という三つの緊張関係の中にありながら、それでもなお、ガラによって救われている自分自身を表現した作品とも言えるのです。《記憶の固執》と並び、初期ダリの代表作とも言われるこの作品は、フロイトの「夢分析」の考え方――すなわち、人間の無意識に閉じ込められた欲望が夢を通じて現れるという理論――を強く応用したものでもあります。

そして、この手法は以降のダリ作品の中で、様々な形へ発展していくことになります。

 

ポルトリガット

元々、ダリとガラの関係に強く反対していた家族ですが、1934年11月、ダリのパリ滞在中に起きたある事件をきっかけに、その関係は完全に崩壊します。

事の発端は、ダリがスペインから持ってきたキリストの心臓のリトグラフを、仲間のシュルレアリストたちへ見せていた際、「私は面白半分で母の肖像につばを吐くことがある」と発言したことでした。

その言葉を伝え聞いたスペインの美術評論家 エウヘニオ・ドルス が、その内容を バルセロナ の新聞記事として掲載。当然ながら、それを知った父親は激怒します。

そして父親はダリへ謝罪を求めますが、ダリはそれを拒否。結果として、ダリは財産の相続権を放棄させられ、家から追放されることになります。

実際のところ、この発言は、幼少期から愛し続けていた亡き母への本心というより、仲間内で調子に乗って口にしてしまった側面が強かったとも言われています。しかし、たとえ軽率な発言だったとしても、一言謝罪することができなかった。そこには、どこか幼さを残したダリの性格も見えてきます。

だからなのか、勘当された後もダリは遠くへ去ることはなく、実家から山を越えた先にある小さな入り江、ポルトリガット の漁師小屋を購入し、そこで暮らし始めました。そして後に、その家は現在の《ダリの家美術館》、通称「卵の家」として一般公開されています。

また、ダリの代表作《記憶の固執》に描かれている、溶ける時計の背後に広がる風景を見比べてみると分かりますが、このポルトリガット周辺の景色こそが、その舞台となっています。

IMG_5934 【ダリの家(卵の家)】
フランス国境に近い漁港のカダケスに程近い入り江にダリがが晩年を過ごした家….

 

偏狂的批判的方法の確立

ダリは1930年代前半を通じて、シュルレアリスムへ自身の「偏執狂的批判的方法」を取り入れ、独自の世界観を発展させていきます。

既に【作品の元をなすキーワード】の項でも述べましたが、例えば ジャン=フランソワ・ミレー の《晩鐘》では、本来、農民夫婦が手を休め祈りを捧げる敬虔な場面として描かれていたにも関わらず、ダリはそこへ全く異なる、どこか不気味で汚らわしいイメージを見出しました。

つまりダリは、「誰もが正しいと思っている見方」を疑い、その裏側に潜む欲望や死、恐怖を暴き出そうとしたのです。

またこの頃からダリは、作品の中へ日常的な食べ物を、妄想や欲望の象徴(アイコン)として繰り返し登場させるようになります。

例えば《カタルーニャのパン》では、パンは男根を思わせる形で描かれ、性的欲求の象徴として扱われています。さらに《肉片を肩にのせたガラの肖像》では、ガラの肩へ乗せられたスペアリブが、エロティシズムの象徴、あるいは“愛する相手をむさぼり尽くしたい”という幻想のアイコンとして機能しています。

 

戦争と無意識 1936 – 1940

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ナルシスの変貌 1937

1930年代後半、ダリは ジークムント・フロイト に代表される精神分析学をさらに深く作品へ取り入れることで、新たな象徴表現を次々と生み出していきます。

そして、それまでの作品にも見られた謎めいた雰囲気は、この頃からさらに強まっていきました。特にこの時期を代表する象徴が、《燃えるキリン》に描かれた、女性の身体へ埋め込まれた「引き出し」です。

この引き出しは、人間が潜在意識の奥に、本人すら気付いていない秘密や欲望を幾重にも隠し持っていることを意味していると言われています。そして、その背後で燃えるキリンは、人間の愚かさや破滅を象徴しています。

また、ダブル・イメージの手法を用いた代表作としては、《ナルシスの変貌》や、《水面に象を映す白鳥》があります。特に《ナルシスの変貌》は、1938年、ダリがロンドンでフロイト本人と面会した際、大きな意味を持つ作品となりました。

ダリの卓越した表現力を目の当たりにしたフロイトは、その才能を高く評価したと言われています。そしてダリは、それによって自身が追求してきた「偏執狂的批判的方法」が認められたと感じ、ますます自信を深めていくことになるのです。

 

市民戦争の怪物たち

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茹でたインゲン豆のある柔らかい構造 1936

1930年代後半、ヨーロッパでは ナチス・ドイツ が台頭。

さらにスペインでは軍の一派が反乱を起こし、後に数十万人もの死者を出すことになる スペイン内戦 が勃発します。そんな混乱と不安に包まれた時代の中で、ダリは政治的立場を明確に示すことを避け続けていました。

しかし、その曖昧な態度は、緊迫するスペインやヨーロッパ情勢の中で、多くの批判を招く原因ともなっていきます。そんな中、内戦が始まる数か月前に発表された作品が、《茹でたインゲン豆のある柔らかい構造》です。

この作品には、人間の身体の断片が組み合わさった巨大な怪物が、自分自身を締め上げ、踏みつけながら苦しむ姿が描かれています。その姿は荒々しく猛々しい一方で、同時に苦悶し、自らを破壊していく存在でもあります。

そしてそこには、同じスペイン人同士が殺し合う内戦の虚しさが強烈に表現されています。

この作品は、《記憶の固執》と並び、ダリの最高傑作の一つとも言われています。また、《戦争の顔》では、苦悶する顔の瞳や口の中へ骸骨が描かれ、さらにその骸骨の中にも、小さな骸骨が無限に続くように配置されています。これは、“終わりのない死”、そして戦争によって連鎖し続ける死の恐怖を表現した作品です。

ただし、こうした反戦的な作品を描く一方で、ダリは、アドルフ・ヒトラー や、内戦の勝者で後にスペインの独裁者となる フランシスコ・フランコ を支持しているのではないかとも見られていました。そのため、《ヒトラーの謎》を発表した際も、作品自体はヒトラーへ疑問を投げかける内容だったにも関わらず、ダリはシュルレアリストのグループから除名処分を受けてしまいます。

 

米国へ亡命 1940 – 1948

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目覚めの一瞬前に柘榴の周りを蜜蜂が飛びまわったことによって引き起こされた夢 1944

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ は、前衛的あるいは非ドイツ人的な芸術表現を「退廃芸術」と呼び、激しい弾圧を始めます。

そんな中、誰の目にも“退廃芸術”の画家と映るダリは、ドイツ軍によるフランス侵攻から2か月後の1940年8月、スペイン内戦を避けて滞在していた パリ を離れ、ガラと共にアメリカへ移住します。当時、既にニューヨークを二度訪れていたダリは、アメリカ国内でも高い知名度と人気を確立していました。そして、この亡命生活を通じて、彼はさらに活動の幅を広げていきます。

  • バレエ舞台の演出
  • 台本制作
  • 衣装・舞台美術
  • 雑誌や広告のイラスト
  • 書籍
  • 小説執筆

など、多方面で精力的に活動しました。また、ウォルト・ディズニーアルフレッド・ヒッチコックアンディ・ウォーホル など、各界の著名人とも交流を持つようになり、アメリカ時代のダリは極めて多忙な日々を送ることになります。

この時期は活動範囲の広さもあり、純粋な絵画作品の数自体はそれほど多くありません。しかし、その中で生み出された代表作の一つが、《目覚めの一瞬前に柘榴の周りを蜜蜂が飛びまわったことによって引き起こされた夢》です。

この作品の後方に描かれている、細い脚を持つ異様な象は、その後のダリ作品へ繰り返し登場する新たなアイコンとなっていきます。また、広島への原子爆弾投下 や、ビキニ環礁核実験 に強い衝撃を受けて描かれた《ビキニ 3つのスフィンクス》も、この時期の代表作の一つです。

さらに興味深い作品として、同じスペイン出身で20世紀を代表する画家 パブロ・ピカソ の肖像画も描いています。ちなみに、アメリカ亡命の際には、ピカソ本人がダリへ資金援助をしていたとも言われています。

そしてこの頃のダリは、シュルレアリスムだけでなく、極めて写実的な油彩画も制作しています。代表作としては、バロック絵画の巨匠たちを思わせる《パンの籠》や、完成までに6か月を費やした妻ガラの肖像画《ガラリーナ》などがあります。

 

原子核秘密主義時代 1949 – 1957

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ポルトリガットの聖母 1949

1940年代末、第二次世界大戦が終結し、ダリは亡命先のアメリカから、ついに祖国スペインへ帰国します。

しかし、彼を待っていたのは、前衛芸術を認めない独裁者 フランシスコ・フランコ が支配する、極めて保守的なスペイン社会でした。そんな中ダリは、一旦それまでの前衛的作品の制作から距離を置き、その関心を、イタリア・ルネサンス美術や、十字架の聖ヨハネ などの神秘思想研究へ向けていきます。

さらに、広島への原子爆弾投下長崎への原子爆弾投下 に大きな衝撃を受けたダリは、当時強く興味を抱いていた原子力理論と、古典芸術・キリスト教思想を融合させ、新たに「原子核神秘主義(核神秘主義)」を提唱するようになります。

そして、その思想を本格的に反映した最初期の作品が、《ポルトリガットの聖母》です。この作品には二つのバージョンが存在し、一つはアメリカ、もう一つは 福岡市美術館 に所蔵されています。

また、この頃から新たな幻想的アイコンとして、「サイの角」が頻繁に登場するようになります。ダリによれば、サイの角は“対数螺旋状に成長する、自然界における完璧な幾何学芸術”でした。その考え方は、《炸裂したラファエロ風頭部》や、《自分自身の純潔に獣姦される若い処女》などの作品へ応用されています。

なお、《自分自身の純潔に獣姦される若い処女》は、初期作品《窓辺の人物》を思い起こさせる構図でも知られています。そして当時、妹のアナ・マリアは、「自分と家族がダリによって何度も傷つけられてきた」という内容を赤裸々に綴った伝記を出版していました。そのため、この作品は、そうした妹へのダリなりの“報復”ではないかとも言われています。

 

最後のこだわり 1958 – 1989

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幻覚剤的闘牛士 1968-1970

円熟期へ入ったダリは、それまでの作品が既に高い評価を得ていたにも関わらず、さらに芸術表現の限界を超えようと、様々な実験的作品へ挑戦していきます。

その代表作の一つが、《幻覚的闘牛士》です。この作品では、ダリ自身が生み出した「偏執狂的批判的方法」の主要手法であるダブル・イメージが多用され、幾つもの ミロのヴィーナス の像が組み合わされながら、一人の闘牛士の姿へ変化していきます。

さらに画面には、無数に飛び回るハエや、球体状に描かれた原子核なども配置されており、数あるダリ作品の中でも特に難解な作品として知られています。

また、《18メートル離れるとアブラハム・リンカーンの肖像に変容する、地中海を見つめるガラ》では、アメリカの科学雑誌 Scientific American に掲載されていた視覚認識に関する記事を参考に、それまでのダブル・イメージをさらに発展させました。

ダリはその中で紹介されていた、デジタル解析された アブラハム・リンカーン の肖像データを利用し、距離によって全く異なる像が見える視覚錯覚を生み出しています。さらに1970年代半ばに描かれた《ペルピニャン駅と世界の中心》では、ダリがスペインから列車でパリへ向かう際、必ず通過したフランス最初の駅、ペルピニャン駅 への特別な想いが描かれています。

孤独と静けさに満ちた ポルトリガット の生活。一方で、熱気と喧騒に包まれたパリでの生活。その両極端な世界の境目に位置するペルピニャン駅は、ダリにとって、神聖と俗を分ける“結界”のような場所だったのかもしれません。

そしてダリは、この駅へ近づくたびに、天才的なアイデアが次々と湧き上がる体験を何度もしたと語っています。画面中央には、天から放たれる光の中を下界へ落ちてくるダリ自身の姿も描かれています。

ちなみに、作品の左右両端に描かれているのは、「偏執狂的批判的方法」で何度も登場した、晩鐘 の農民夫婦です。なお、個人的には、この作品はダリ作品の中でも特に印象深い一枚です。

 

晩年、最後の作品

天才、そして奇人とも呼ばれたダリ。そして、その生涯を通して彼のミューズであり続けたガラ。

作品《六つの本当の鏡に映るダリ》に描かれる、年老いた二人の姿。そこには、かつての激動の日々がすでに過去のものとなったような、何とも言えない哀愁が漂っています。

1982年、ガラの死後、ダリはほとんど絵を描かなくなります。その晩年に完成させた最後の作品が、《ツバメの尾》でした。

最晩年のダリは数学にも強い関心を示し、数学者 René Thom の「カタストロフィ理論(破局理論)∫f(x) dx\int f(x)\,dx」を「世界で最も美しい数学理論」と絶賛します。

そして《ツバメの尾》では、燕の尾の曲線と、数学の積分記号にも似たフォルムを重ね合わせながら、芸術と数学を一つの作品の中に融合させました。

 

オブジェとジュエリー

シュルレアリスム的オブジェ

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回顧的な女性の胸像 1933

1930年代に入ると、ダリは絵画だけでなく、立体オブジェの制作にも取り組むようになります。

シュルレアリスムの前身とも言えるダダイスムの時代にも、既に多くのナンセンスなオブジェ作品が生み出されていました。しかしダリは、それをさらに発展させ、「無意識」を現実世界の物質へ反映させようと試みました。

彼は、一見まったく関連性のない日常的な物同士を組み合わせることで、制作における理性的な判断を意図的に排除し、偶然性や意外性に満ちたオブジェを作り出そうとします。代表作としては、ロブスターと電話を組み合わせた《ロブスター・テレフォン》や、女優メイ・ウェストの唇をモチーフにした《メイ・ウェスト・リップス・ソファ》などがあります。

またダリは、こうした作品を単なる美術作品として終わらせるのではなく、デパートなどを通じて一般商品として流通させることも考えていました。実際、後年には家具やジュエリー、食器など、デザイン分野にも活動を広げています。

ただし当時は、制作コストの高さや市場規模の小ささもあり、大量商品化には至りませんでした。しかし現在では、ダリの死後に復刻・商品化された作品も存在し、《メイ・ウェスト・リップス・ソファ》などは、デザイン家具として購入することも出来ます。

「芸術」と「商品」の境界を曖昧にしようとした点もまた、ダリらしい発想だったのかもしれません。

 

ダリ ジュエリー

アメリカに亡命中に、ダリはニューヨークで活躍したイタリア人ジュエリーデザイナーのフルコ・ディ・ヴェルドゥーラと共に宝石を発表し、ジュエリーアートの分野にデビュー。

アメリカ亡命中のダリは、ニューヨークで活躍していたイタリア人ジュエリーデザイナー Fulco di Verdura と協力し、宝石作品を発表します。これをきっかけに、ダリはジュエリーアートの分野へも活動を広げていきました。

その後1949年には、アルゼンチン生まれのジュエリーデザイナー Carlos Alemany との共同制作によって、再び本格的に宝石作品を手掛けます。作品数自体は決して多くありませんが、ルネサンス期の芸術家たちから影響を受けた独創的なジュエリー作品群は、現在 Dalí Theatre-Museum に併設されている宝石美術館で見ることが出来ます。

その中でも最大の見どころが、1953年制作の《王家の心臓(Royal Heart)》です。ハート型をした黄金のジュエリーで、内部には46個のルビー、42個のダイヤモンド、4個のエメラルド、さらにサファイアや真珠が散りばめられています。

そして最大の特徴が、中央に配置されたルビーの心臓部分。この心臓は電気仕掛けによって実際に鼓動し、“ドクン、ドクン”という音まで響かせます。宝石で作られた心臓が脈打つという、どこか不気味で幻想的な光景は、まさにダリらしい発想と言えるでしょう。

他にも、プラチナの台座にダイヤモンドを並べて「瞼」を表現し、その中央に青い文字盤の時計を配置した作品もあります。そのデザインは、ダリの代表作《記憶の固執》、いわゆる“溶ける時計”を思わせます。


 


ダリ美術館 フイゲラス

ここまで、ダリの生い立ちや、幼少期のトラウマが彼の創作にどのような影響を与えたのかを見てきました。

また、フロイト の思想に強く影響を受けたこと、そしてガラとの運命的な出会い。さらに、時代と共に変化していく作品を時系列で追ってきましたので、ダリに関する予備知識としては、ひとまず十分かと思います。もしさらに深く知りたい場合は、ぜひご自身でも調べてみて下さい。

ここからは、実際に 美術館を訪れた際の見どころについて解説していきます。

注意が必要なのは、その名が「劇場美術館」である通り、ここは一般的な美術館とはまったく異なる空間だという点です。まず、美術館そのものが、巨大なダリ作品となっています。

建物の上に並ぶ巨大な卵、鮮やかな赤い外壁、そして壁一面に取り付けられたパンの装飾。その時点で既に、「普通の美術館」とは違う、ダリ独特の世界観が始まっています。

しかもこの建物は、もともと19世紀の劇場跡を改装したもので、スペイン内戦で焼失した廃墟を、ダリ自身が「自分の最後の巨大作品」として再生した場所でもあります。

 

外観

美術館に到着して、まず目に飛び込んでくるのが、眩しいほど鮮烈な赤色の建物です。

その壁一面には、このフィゲラス周辺で食べられている典型的なパン「クロストン」が無数に貼り付けられ、さらに屋根の上には卵やマネキンのオブジェが所狭しと並んでいます。既に触れましたが、卵はダリにとって「希望」や「愛」、そして生命の象徴でもありました。

そして、立っているもの、横たわっているものなど、いくつもの巨大な卵を載せた円形の塔が「ガラテアの塔」です。ダリは1989年、84歳でこの場所にてその生涯を終えました。

また、塔の後方に見える巨大なガラスのドームは、「ジオデシック・ドーム」と呼ばれる構造物で、美術館中央ホールの天井を覆っています。このドームは、アメリカの建築家 Buckminster Fuller の構造理論に影響を受けたもので、ダリ晩年の科学や数学への関心とも重なっています。

さらに、美術館正面入口の上、バルコニーに立つ潜水服姿の人物も見逃せません。これは1936年、London で開かれた国際シュルレアリスム展の講演会で、ダリ自身が潜水服姿で登壇した有名な逸話を元にしています。「人間の無意識の深海へ潜る」という演出だったとも言われていますが、実際には酸欠状態となり、危うく窒息しかけたという、いかにもダリらしい騒動として知られています。

また、その左右に立つ女神像の頭上に載せられた巨大なフランスパンも、ダリの奇抜なパフォーマンスに由来します。ダリはかつて、“リーゼントヘア”と称してフランスパンを頭に括りつけた姿で報道陣の前に現れ、世間を騒がせました。

こうした装飾の一つ一つが、単なるデザインではなく、ダリ自身の人生や逸話と結びついている点も、この劇場美術館の面白さと言えるでしょう。

http://kamimura.com/wp-content/uploads/2020/08/dali33-001.jpg 【1936年ダリ潜水服事件 】
ロンドンの国際シュルレアリスム展での講演で、ウケを狙おうと潜水服に身を包み手にはビリヤードのスティックとロシアのボルゾイ犬を2匹引き連れ登場します。

ダリの狙い通り最初はウケはしましたが、水中ヘルメット越しのトークは結局のところ聴衆には殆ど声が届かず、本来の意味をなしませんでした。更に悪いことに、想定外の事故がおきます。ダリの着ていた潜水服には欠陥があって、その為うまく空気を通さず次第にダリは窒息状態に陥ってしまいます。

しかし助けを呼ぼうにも、ヘルメット越しでは声は届きません。そこで、ダリはヘルメットを外してくれ!と、ジェスチャーで必死にアピールしますが、そういう新たなパフォーマンスかと勘違いした聴衆には、これまた大ウケ。結局のところ、誰もダリが死にかけていることに気が付きませんでしたが、しばらくして運よく聴衆のひとりがダリの異変に気付いたおかげで、ダリは九死に一生を得ました。

 

美術館の外にも作品

また、美術館正面にある、肖像画とオブジェが一体化したような奇妙なモニュメントは、ダリが敬愛していたカタルーニャの哲学者フラセスク・プジョルスの像です。

ガウディ が世に現れた当初、その建築はあまりにも異質であったため、多くの批判や嘲笑を浴びていました。そんな中、早い段階からガウディの才能を理解し、擁護した人物の一人がフラセスク・プジョルスだったことで知られています。

ダリ自身もまた、世間から「奇人」「狂人」と見られ続けた芸術家でした。そのため、自分と同じように、時代に理解されなかったガウディ、そしてその価値を見抜いたプジョルスに、強い共感を抱いていたのかもしれません。

なお、このモニュメントの台座には、プジョルスの有名な言葉も刻まれています。「いつか世界の人々は、カタルーニャ人であるというだけで全て無料になるだろう」かなり誇張されたユーモア混じりの言葉ですが、どこかダリの世界観とも通じる、現実と幻想の境界が曖昧な感覚があります。

 

ダリ美術館は入場時間指定制となっているため、少し早めに到着して、周辺で時間調整をしておくのがおすすめです。

待ち時間には、美術館右横の広場に並ぶダリ作品のオブジェを先に見学しておくと良いでしょう。その中でも特に目を引くのが、額にテレビが埋め込まれ、さらに目の中に子供の人形が入った奇妙なオブジェです。

制作当時、既に70歳を超えていたにもかかわらず、その発想力には驚かされます。まさに、“目から人形”です。

また、右下にある金色の丸いオブジェも、ダリ晩年の科学への関心を象徴しています。これは、水素原子の構造をモチーフにした作品と言われており、ダリが後年強い興味を示した原子物理学や数学の世界とも深く関係しています。

第二次世界大戦後、ダリは「これからの芸術は原子の時代を避けて通れない」と語り、物質が極小の粒子によって成り立っているという考え方に強く惹かれていきました。実際、彼の晩年作品には、空中に浮かぶ物体や、分裂・浮遊するモチーフが数多く登場します。

こうした作品を見ると、ダリは単なる「変わった芸術家」だったのではなく、晩年になってもなお、現実と無意識、科学と幻想、ユーモアと不気味さを自在に行き来していたことが伝わってきます。

 

ダリ美術館 10のみどころ

ダリ劇場美術館は、全部で22の部屋と6つのスペースから構成されており、基本的には番号順に1〜22まで巡りながら見学していきます。

館内には絵画、彫刻、オブジェなど様々な作品が展示されていますが、一般的な美術館とは違い、ここでは空間そのものを使った“大仕掛け”の展示が非常に多いのが特徴です。また、美術館そのものがダリ自身の巨大作品でもあるため、「作品を見る」というより、“ダリの頭の中に入り込む”ような感覚に近いかもしれません。

なお、平均的な見学時間は約1時間45分ほどと言われています。ただし、22の部屋すべてが強烈に面白いかと言うと、正直そこまででもない展示もあります。

例えば、他の芸術家の作品を展示している8番や12番の部屋。また14番の部屋も、ダリ自身が集めていたプライベートコレクションの展示が中心です。

もちろん興味のある方には面白いのですが、限られた見学時間の中では、そこをじっくり見る必要性はそれほど高くないかもしれません。このあと、特に見どころとなる展示を絞って解説していきます。

 

その1 雨降りタクシー

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入場して、まず目が奪われるのがこれ「雨降りタクシー」
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マネキンの運転手が中に コイン投入口

ダリ劇場美術館の館内に入って、まず目の前に現れるのが、《雨降りタクシー 》です。この作品は、美術館の中心的存在とも言える巨大インスタレーションで、ダリのシュルレアリスム的世界観が凝縮されています。

中央に置かれている①黒いキャデラックは、ダリがアメリカ亡命生活を終え、スペインへ帰国した際にニューヨークから持ち帰ったものとされています。また一説には、かつてギャングの アル・カポネ が所有していた車とも言われています。

その上に立つ②女性のブロンズ像は、オーストリアの画家・彫刻家 Ernst Fuchs による「エスター女王」の像です。また、この像はダリの妹、アナ・マリアを象徴しているという説もあります。

次に③は、古タイヤを積み重ねて作られた柱。ダリ劇場美術館には、このような廃材やリサイクル素材も数多く使われています。さらに、その柱の先には④小さなボートと、そこから垂れ下がる雫のオブジェがあります。杖によって支えられたこの小舟は、ダリが Portlligat に暮らしていた頃、実際に舟遊びで使用していたものです。

なお、作品右前方にはコイン投入口があり、1ユーロを入れると、作品名通りタクシーの車内に雨が降り始める仕掛けになっています。ガラス越しに見る車内には、運転席のドライバー、後部座席の2人の乗客、さらに大量のカタツムリが乗せられています。

このカタツムリは、ダリが好んでいたブルゴーニュ産のエスカルゴをモチーフにしたものと言われています。しかも、ただ奇抜なだけではなく、「豪華な車内なのに雨漏りしている」という不条理さそのものが、現実と夢を混ぜ合わせるダリらしいシュルレアリスムの発想になっています。

 

その2 中庭の壁

半円形になった中庭の壁面には、ダリ自身が選び抜いた様々なオブジェが埋め込まれています。まず、壁の最上部に見える①ローマ字の「T」のような形をした白いオブジェ。
実はこれは洗面台で、最上段に並ぶ“天使の合唱団”を表現しています。本来なら日常生活で使われるはずの洗面台が、宗教的で幻想的なモチーフへ変化しているところに、ダリらしい感覚が表れています。

次に、無機質で冷たいレンガ壁の印象を吹き飛ばすように、②金色のマネキンたちが並び、来館者を迎えています。よく見ると、それぞれ微妙に手の挙げ方やポーズが違っており、同じように見えて完全には統一されていません。

その少し不気味で不揃いな感じが、逆にこの空間独特の空気を作り出しています。さらに③怪物の顔の下には、ダリ作品ではおなじみとなる「引き出し」のモチーフや、カタツムリ、小さな噴水などが配置されています。特に“引き出し”は、人間の無意識や内面を象徴するアイコンとして、ダリ作品に何度も登場する重要なモチーフです。

なお、この怪物の大きく開いた口は単なる装飾ではなく、ガーゴイル、つまり排水口の役割も兼ねています。そのため雨の日には、この口から実際に雨水が勢いよく吹き出してきます。

そして最後に、④中庭入口に立つアーチ。これは、かつて Paris の地下鉄入口を照らしていた街灯2本を利用して作られたものです。こうした古い実用品を、美術作品の一部として再利用してしまうあたりにも、ダリの「現実」と「幻想」を自在に混ぜ合わせる感覚が表れています。

【ガーゴイルとは?】

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雨水を吐くガーゴイル サグラダファミリア

ガーゴイルとは、西洋建築の屋根などに設置される、怪物の姿をした雨どい彫刻のことです。

雨が降ると、屋根を流れてきた水が樋を通り、最後に怪物の口から外へ排水されるよう設計されています。その意味については諸説ありますが、一般的には「魔除け」の役割を持つと考えられています。

つまり、「聖なる場所には怪物や悪魔は入れない」ということを象徴的に示しているわけです。例えば Park Güell では、敷地内に設置された33個のライオンの頭が、悪魔の侵入を防ぐ意味を持つとされています。

また、Sagrada Família 後陣側ファサードに並ぶ、蛇やトカゲのような不気味な爬虫類型のガーゴイルも、同じく魔除けとして配置されています。ある意味では、日本建築における「鬼瓦」に近い存在と言えるかもしれません。

人間は文化が違っても、「恐ろしいものを使って悪を防ぐ」という発想は、意外と共通しているのが面白いところです。

 

その3 大広間

中庭から大広間へ入ると、まず正面に現れるのが①巨大な絵画です。これは1941年、Metropolitan Opera House で初演されたバレエ公演のために、ダリが制作した舞台背景画で、作品名は《迷宮》と呼ばれています。巨大な空間を覆うようなスケール感もあり、まるで劇場の舞台世界が、そのまま美術館の中へ入り込んできたような印象を受けます。

そして②天井を覆う巨大なガラスドーム。これは、三角形の金属フレームを組み合わせて構成された「ジオデシック・ドーム」と呼ばれる構造です。一見すると未来的な建築にも見えますが、実はダリはこのドームを、“蠅の目”をイメージして作らせたと言われています。

蠅の目は「複眼」と呼ばれ、数万もの小さな目が集まって構成されています。ダリは、この自然界の異様な構造に強い魅力を感じていました。

単なる昆虫としてではなく、自然が作り出した精密さや、不気味さの中に存在する美しさに、強い衝撃を受けていたのです。そのためダリ作品では、蠅や蟻、カタツムリなど、一見すると不快にも思える生き物が繰り返し登場します。

普通の人が嫌悪感を抱くものの中に、美しさや神秘を見出そうとした点も、ダリ独特の感性と言えるでしょう。

 

その4 リンカーンのだまし絵

ダリ劇場美術館の見どころの一つとなっているのが、この③《リンカーンの肖像画》です。正式名称は、《18メートル離れるとアブラハム・リンカーンの肖像に変容する、地中海を見つめるガラ》という非常に長いタイトルの作品です。

この作品は、ダリが得意としていた「ダブル・イメージ」、つまり“見る距離や視点によって別のものに見える”技法を、さらに発展させた代表作として知られています。制作のヒントとなったのは、アメリカの科学雑誌 Scientific American に掲載されていた、「視覚認識」に関する記事でした。

その中に掲載されていた、アメリカ大統領 Abraham Lincoln のデジタル解析肖像画を見たダリは、それを芸術作品へ応用します。近くで見ると、後ろ向きに立つガラの裸体と幾何学的な色彩にしか見えません。

しかし、この作品は近くで普通に見ると、ガラの後ろ姿や細かな色彩に目の焦点が合ってしまい、リンカーンの顔が分かりにくくなっています。ところが、少し距離を取ったり、目を細めたりすると、細かな情報が弱まり、全体の明暗のパターンが見えやすくなります。

その結果、人間の脳が全体を「顔」として認識し、リンカーンの肖像が浮かび上がって見えるという、視覚認識の錯覚を利用した作品となっています。

ちなみに制作手順としては、まずキャンバスに、後ろ姿のガラと背景を描きます。その後、その上からデジタル解析されたリンカーン画像の色彩パターンを格子状に重ねていくという、かなり計算された方法で制作されました。

「無意識」や「夢」の世界を描いていたダリですが、晩年になると、数学、光学、デジタル技術など、“科学そのもの”にも強く惹かれていきます。ただ、ここからは私カミムラの解釈ですが、ダリが興味を持っていたのは、単なる科学技術ではなく彼は、この世界は人間が普段見ている“ひとつの現実”だけで出来ているのではなく、実際には幾つもの層が重なって存在していると考えていたようにも見えます。

この作品でも、近くではガラの後ろ姿、離れるとリンカーンの肖像が現れます。つまり、一つの空間の中に、複数のイメージが同時に共存しているのです。そしてダリは、その「見えている世界の裏側」に、更に別の層が存在している可能性すら感じていたのかもしれません。

 

その5 超難解作品、墓、幼少の思い出

④のオブジェのタイトルは、《シラミとノミ》というカタルーニャの民謡に由来しています。作品全体は、ダリ自身の幼少期の記憶や、どこか不気味で幻想的な子供時代の情景をイメージしたものと言われています。

ちなみに、この民謡の内容は、「シラミとノミが結婚する」という、かなり意味不明でシュールなストーリー。しかし、こうしたナンセンスさや、不条理なユーモアこそ、ダリが好んだシュルレアリスム的感覚とも重なっています。興味のある方は、ぜひ実際に歌も検索してみて下さい。

そして⑤、大広間の壁に掛けられている巨大作品が、《幻覚闘牛士》です。これはダリ晩年の代表作の一つであり、数ある作品の中でも特に難解な絵として知られています。一見するとバラバラなイメージの集合体に見えますが、少し距離を取って眺めると、画面全体から闘牛士の姿が浮かび上がってきます。

ここでもダリ特有の「ダブル・イメージ」の技法が使われており、見る人の脳が無意識に形を補完することで、別の像が現れる仕組みになっています。さらに作品の中には、ガラ、闘牛、地中海、古典絵画など、ダリ自身の人生やスペイン文化に関わるモチーフが複雑に組み込まれています。

そして⑥が、この美術館の地下にあるダリの墓です。ダリは1989年、この劇場美術館で84歳の生涯を閉じ、そのまま大広間の床下へ埋葬されました。つまり今、来館者が歩いているこの場所の真下に、ダリ本人が眠っていることになります。

なお2017年には、自らをダリの娘だと主張した Pilar Abel による父親認知訴訟を受け、ダリの遺体が一時掘り起こされました。DNA鑑定の結果、親子関係は否定され、約8か月後に再び埋葬されています。ちなみに、その際に報じられた「死後28年経っても口ひげがほぼ崩れていなかった」というニュースも、どこか最後までダリらしい逸話として語られました。

 

その6 宝と魚屋の2つのギャラリー

大広間の見学を終えたら、次は2つある展示スペースで絵画作品を鑑賞していきます。

まず最初に向かうのが、「宝の展示場」です。ここは元々、劇場だった頃の舞台袖の楽屋として使われていた場所でした。

中へ入ると、床や壁一面に赤いベルベットが張られており、その名の通り、まるで宝石箱のような空間になっています。実際、スペース自体はそれほど大きくありませんが、この部屋には、ダリ自身が特に気に入っていた作品、つまり彼にとって“宝”とも言える作品群が展示されています。

次に向かうのが、大広間の反対側、半地下に位置する「魚屋の展示場」です。かなり奇妙な名前ですが、これにもちゃんと理由があります。

この場所は、かつて魚市場が開かれていた一角で、その歴史に由来して「魚屋の展示場」と呼ばれています。なお、「宝の展示場」「魚屋の展示場」ともに、展示作品は定期的に入れ替えられます。そのため、ここでは一つ一つを細かく紹介するのではなく、この後、代表的な作品をまとめて解説していきます。

 

その7 メイ・ウエストの部屋

この、アメリカ人女優 メイ・ウエストの顔が、一部屋のアパート空間として再現された作品は、ダリ劇場美術館の中でも特に人気の高い展示となっています。

人気の理由は、何と言っても、その大胆な“仕掛け”にあります。半円形のフローリングの室内には、いくつかのオブジェが配置されていますが、実はそれぞれが「顔のパーツ」として意味を持っています。

まず、赤い壁に掛けられた二枚の風景画。これが“目”です。次に中央に置かれた、二つの焚口を持つ暖炉。これが“鼻”。そして手前に置かれた、真っ赤な唇の形をしたソファー。
これが“口”となっています。

しかし、部屋の中を普通に歩いているだけでは、その意味はよく分かりません。そこで、ラクダの観賞台へ上り、決められた位置から室内全体を見下ろすと――

突然、それまでバラバラだったオブジェが一つにつながり、巨大なメイ・ウェストの顔が出現します。つまりこの作品は、「部屋」でありながら、同時に「肖像画」にもなっているのです。

これもまた、ダリが得意としていた「ダブル・イメージ」の発想を、空間そのものへ応用した作品と言えるでしょう。

ところで、普通に考えると、部屋にソファーと暖炉だけでは生活空間として不完全です。そこでダリは、なんと天井に浴槽まで取り付けてしまいます。しかも、その浴槽はメイ・ウェストの金髪を表現する一部にもなっており、実用性と幻想、家具と肖像画の境界が、完全に曖昧になっています。

まるで、「人間の顔の中に住む」という、夢の中のような空間です。

ところで、この作品のモデルとなったアメリカ人女優 メイ・ウエストと言っても、日本では知っている人はかなり少ないかもしれません。

しかし、アメリカ亡命時代のダリは、彼女の熱烈なファンでした。そんなこともあり、1935年、ダリはメイ・ウェストの顔写真にグワッシュで加筆し、《メイ・ウェストの顔、シュルレアリストのアパルトマンとして使える》というコラージュ作品を制作します。

そして翌1936年、その作品を ロンドンでの催し に出展しました。ちなみに、ダリが潜水服姿で登壇し、酸欠で危うく死にかけたのも、この時の展示会です。

話を戻すと、たまたまこの展覧会を訪れていたイギリスの富豪であり、美術コレクターでもあった Edward James が、この「メイ・ウェストの顔の部屋」を非常に気に入ります。そして、自らの豪邸に実際にこの部屋を作りたいと考え、ダリへ制作を依頼しました。

ダリは同年、エドワード・ジェイムズ邸に滞在しながら、この“人の顔の中に住む部屋”を実際に完成させます。その後、ダリ劇場美術館の開館に合わせて再現されたものが、現在ここで展示されている作品です。つまりこの空間は、単なる「美術館の展示」ではなく、かつて実際に存在した、ダリによる本物の室内空間でもあるのです

 

エドワード・ジェイムズ(1907-1984)は、イギリスの詩人であり富豪。シュルレアリスム最大級のパトロンとして知られています。ダリやマグリットをはじめ、多くのシュルレアリストたちの作品を収集し、特にサルバドール・ダリの熱心な支援者として有名でした。

1938年にはダリの作品をまとめて購入。その後も絵画やオブジェなどを継続的に収集し、彼のシュルレアリスム・コレクションは、個人所有としては世界屈指とも評価されています。さらにジェイムズは、作品を買うだけでなく、芸術家たちの生活や制作活動そのものも支援していました。ダリには約2年間にわたり、画材費などの制作資金を提供。シュルレアリストたちを経済的にも支え続けた人物でした。

 

その8 風の宮殿

この展示室は、かつて劇場だった時代には幕間の休憩室として使われていた場所です。ここで最大の見どころとなっているのが、美術館オープンに合わせてダリ自身が描き上げた、縦5.7メートル、横14メートルにも及ぶ巨大な天井画です。

題材となっているのは、地元カタルーニャの詩人ジョアン・マラガイ(Joan Maragall)の作品『L’Empordà』。

この作品で特に面白いのが、まるで見学者たちを踏みつけているかのように描かれたダリの足元です。さらに、ダリの身体には二つの引き出しが埋め込まれており、その引き出しは大きく開かれ、中は空になっています。

ダリにとって引き出しは、潜在意識やトラウマの象徴。しかし、その中身はすでに捨て去られ、ダリとガラはこれから天国、そしてミケランジェロの《最後の審判》が描かれたシスティーナ礼拝堂へと上昇していく――そんな姿が、この天井画には描かれています。

また、この天井画のあるメイン展示室と隣接して3部屋があり、一つにはダリ晩年の部屋が再現されています。ダリの暮らしぶりがほんの少し垣間見える空間です。特に目を引くのが、独特なデザインのベッドと浴槽。これらは、かつてイギリス皇太子も通ったと言われる、パリの超VIP向け高級娼婦館で実際に使用されていたものとも言われています。

他にも、後期ダリ作品の中でも重要作の一つ、原子分裂理論を着想源とした『球体のガラテア』も展示されていますので、お見逃しなく。

 

その9 主な所蔵絵画

*作品名は左から順番にスペイン語の原題で表記しています

【Satirical composition】1923
ダリが19歳の時に描いたもので、この当時のダリは、印象派キュービスム点描がなど色々な手法を試すと共に実験しています。
この絵は、美術好きなら誰もが知っているマティスの「ダンス」を模したもので、ダリは他にも、ピカソボナールスーラなどの絵も模して研究を重ねます。

【Autorretrato blando con bacon frito】1941
日本語タイトル「焼いたベーコンのある自画像」は、アメリカで描かれたもので、ベーコンは柔らかな状態であったものが、焼くことによって固くなり、そして崩れていくことを意味します。
杖によって支えられた自画像は生身の存在の崩壊を示し、はかない存在でしかないと表現しています。

【Retrato de Pablo Picasso】1947
同じスペイン人の先輩としてダリはピカソを尊敬していましたが、ピカソの作品が次第に芸術の審美性を失い、醜くなっていくことを非常に嫌悪したと言われています。
尚、本作品はダリの意向により、この上の「グリルド・ベーコンのある柔らかな自画像」の横に陳列されています。

 

【Cabeza de Behetoben】1973
大広間から魚屋のギャラリーに行く階段にあるこの絵(左)は、ベートーベンの肖像ですが生きたタコを地面に置いたキャンバスに乗り投げつけて、そのタコの墨で描くと言う非常にユニークな方法。
ダリ曰く、これは足で描いた作品だと言う事で実際、絵の下の方にはダリの靴の跡も見えます。

【Retrato de mi padre】1920
ダリの年表でも紹介しましたが、これはダリが16歳の時に描いたお父さんの肖像画です。ダリが最初に傾倒した有名な地元画家で、また家族の親友でもあったラモン・ビチョットに教わった点描画法を取り入れて描いています。この後の、ダリの絵の変化を知る上で貴重な作品です。

【Galatea de las esferas】1952
日本語「球体のガラテア」。ダリは晩年、化学や物理、数学に傾倒。
作品についてダリは「各球体は亜原子粒子であり、絵画全体としては、ルネサンス美術と原子理論と物質の究極の不連続性を融合した表現である」と言う事で、いつもの通りダリのみが分かる世界を表現しています。

 

【Poesía de América】1943
日本語タイトル「アメリカの詩」。ここで描かれている人物は、黒人、およびアメリカ先住民系のスポーツ選手と言われ。また、後方に見える塔はアメリカにおけるアフリカ系の人々が置かれている厳しい状況を表すために、涙を流すアフリカを、建物に描いたとダリは言っています。

【Galarina】1944-1945
ダリが尊敬するイタリアのルネサンス期の巨匠ラファエルが、自らの愛人を描いた絵「ラ・フォルナリーナ」。その絵に敬意を捧げつつ、6か月もかけて描いたのがこの、日本語タイトル「ガラリーナ」。ダリには珍しく、写実的にきっちり描き上げています。

【Fantasma de la atracción sexual 】1934 *大きい画像
日本語タイトル「セックス・アピールの亡命」。クッションの形をした岩を腹に結び、胸の代わりにふたつの袋を持った頭のない女の巨人。見上げているのはダリ少年。手のひらサイズの小さなキャンバスに、幻想が見事に収まり描かれた作品で発表時、ニュヨークタイムスで絶賛されました。

 

【La piedad】1982
この作品はガラが亡くなった年に描かれたもので、特色としては作品の部分部分に別の表現を入れているところです。尚、ガラを失ったことに落ち込んだダリは、翌1983を最後に絵を描くのを止めてしまい、そしてガラの住んでいたプボール城に籠ることになります。

【La cesta de pan】1945
日本語タイトルは『パン籠』。ダリが第二次世界大戦末期の1945年に描いた作品です。一見すると、ただパン籠が置かれているだけの静かな作品ですが、よく見るとテーブルの端ぎりぎりという非常に不安定な位置に配置されており、どこか張り詰めた緊張感があります。

この危うい均衡から、戦争末期の不安定な世界情勢や、“崩れる寸前の静けさ”を重ねて解釈する人もいます。ダリ自身も、静止と崩壊の境界線のような状態に強い関心を持っていたことで知られています。派手さはありませんが、静かな不気味さと緊張感が印象に残る、ダリらしい作品の一つと言えるでしょう。

【Busto de mujer retrospectivo】1933
日本語タイトル「回顧的女性胸像」。この女性胸像の頭に乗っているパンは、男性器を意味し、その上にはダリ作品に度々使われるミレーの「晩鐘」のミニオブジェ。首飾りは「ゾートロープ」とよばれるアニメーションで、そのモデルはダリ。また、額に集る蟻は死を表しています。

 

その10 ダリ ジュエリー

美術館の最後は、ダリのジュエリーアートの見学になります。

すでに作品解説でもご紹介しましたが、これらはダリがアメリカ亡命時代に制作したもので、作品数自体はそれほど多くありません。中でも最大の見どころが、1953年に制作された『王家の心臓(Royal Heart)』と呼ばれる作品。黄金で作られたハート型のジュエリーです。

本来、この作品はルビーで作られた心臓部分が実際に脈動する仕組みになっています。ただし、現在展示されている本物は動かしておらず、その様子は横のモニター映像で見ることができます。

また、なぜここに展示されているのか少し不思議なのですが、晩年の作品『ドルの神格化』も、この宝石館に展示されています。なお、この宝石館の見学時間は15〜20分ほどです。

 

ここは軽く見流す

展示作品も多く、全てをじっくり見て回るとかなり時間が掛かります。それ以上に、後半になると集中力が切れてくる人も多いでしょう。また、正直なところ、全ての展示が特別面白い訳でもありません。ですので、大きな見どころ以外は、ある程度さらっと流して見てしまうくらいで丁度良いと思います。

例えば、廊下に展示されている作品はダリ以外の物も多く、そこまで印象に残るものではありません。また、18番の部屋や「風の宮殿」の窓側の展示、魚のギャラリー向かいの部屋なども、軽く見る程度で十分でしょう。

さらに、鏡を利用した立体的な展示や、ボトルに絵が映り込む作品などもありますが、現代では映像やデジタル表現に慣れている人も多く、そこまで強い驚きを感じる人は少ないかもしれません。それよりも、この美術館にはダリの代表作や有名作品が数多く展示されていますので、そちらを時間を掛けて観賞する方がお勧めです。もちろん、混雑している日は周囲が気になって集中しづらいこともあるとは思いますが。

 

バルセロナからの行き方

・フィゲラス駅でバスに乗る際、ドライバーへ伝える行き先は「Plaza del Sol(プラサ・デ・ソル)」です。日本人のカタカナ発音でもほぼ確実に通じますので、そのまま「プラサデソル」で問題ありません。

・バスは路線バスの日もあれば、大型の観光バスの日もあり、車両は統一されていません。ただし、到着する電車に合わせて、必ず駅前の決まった場所に停車しています。尚、バスは電車到着のおよそ10分後には出発します。そこまで極端に慌てる必要はありませんが、トイレは出来れば電車内で事前に済ませておくと安心です。

よりダウンロードしてください。
・帰りのバス乗り場は以下の場所になります。美術館から徒歩で5分程ですが、心配な方はストリートビューでバス停を事前に確認できます。 https://goo.gl/maps/N31GNh8VjMCyoPj88

 

ダリ御用達のレストラン

ダリが生前によく利用していた、いわゆる“御用達”のレストランが、ダリ美術館から徒歩4分ほどの場所にあります。

現在も営業しており、フィゲラスの街でランチを予定されている方には、雰囲気も含めてなかなかお勧めのレストランです。ダリゆかりの写真や装飾なども残っており、美術館見学後の流れで立ち寄ると、より余韻を楽しめるでしょう。


場所:https://goo.gl/maps/JjUvHEhyYUzdrwdD8
営業時間:12:45 ~ 16:00

レストランを実際に訪れ食べた、ジョランダ辛口レポートも↓ご覧ください

dalidali (5) 【Restaurante Duran】★★★★☆
ダリがいつも利用していたレストランはダリ美術館から徒歩4分程に位置し…。

 

まとめ&アドバイス

バルセロナから高速列車(AVE・Avlo・iryoなど)が開通したことで、以前に比べると日帰りでもかなり行きやすくなりました。感覚としては、近郊観光の モンセラット修道院 へ行くのと、そこまで大きく変わらない印象です。

また、ダリ劇場美術館 は、ダリ本人が設計・演出に深く関わった美術館ということもあり、普通の美術館とはかなり雰囲気が異なります。館内にはアトラクション的な仕掛けも多く、作品数も非常に多いため、満足感は高いと言えるでしょう。

ただ、その“面白さ”や演出のインパクトが強いため、ぼんやり流して見ていると、テーマパークを回っただけで終わってしまうこともあります。ですので、主要作品だけでも事前に軽く予習しておき、「この作品はしっかり見る」と決めておくと、かなり印象が変わります。

混雑ですが、春〜秋のシーズン中はかなり人が多く、当日券で大丈夫だろうと思って行くと、数時間待ちということも珍しくありません。そのため、チケットはネットでの事前購入がほぼ必須です。

移動については、高速列車を利用するのが間違いなくベストでしょう。料金差は在来線とそこまで大きくなく、所要時間・快適さに加え、日本の新幹線のように専用線を走るため、在来線より遅延リスクもかなり少なくなります。

よくある質問として、「予約した入場時間に遅れたら入れないのでしょうか?」というものがあります。基本的には、予約時間から30分以内であれば入場可能です。例えば10時予約なら、10時〜10時30分までに入場すれば問題ありません。

ただし、それ以上遅れると、当日窓口で時間変更の手続きが必要になります。そして、その日のチケットが完売している場合は、そのまま無効になることもあります。運良く変更できても、空いている時間帯しか取れないため、数時間待ちになることもあります。ですので、現地には30分前到着くらいを目安に動くのがお勧めです。

2023年秋には、フィゲラス市内に Casa Natal Salvador Dalí(ダリ生家博物館)もオープンしました。ただ、内容としては、ダリの生涯説明や映像展示が中心で、正直そこまで特別感はありません。この記事を読んでいれば分かるような内容も多く、個人的には「絶対行くべき」というほどではないと思います。

あと、「ダリ美術館を見た後、そのまま サルバドール・ダリの家美術館(通称・卵の家)にも一日で行けますか?」という質問も非常によくあります。

これについては、フィゲラスを14時前に出るバスがあり、それに乗れば約1時間でカダケス方面へ到着します。そこから徒歩20分ほどでダリの家に行くことができます。見学後は、カダケスから17時頃発のバルセロナ行きバスに乗れば、20時頃にはバルセロナへ戻れます。

ただし、季節や曜日によっては午後便が無いこともあるため注意が必要です。また、このルートは間違いなく体力的にかなりきつく、最後は相当くたくたになると思います。

どうしても一日で二ヶ所回りたい方は、Barcelona Walker のオリジナルツアーを利用する方が、かなり楽ではあります。

ちなみに、さらに上級編として、ガラ=ダリ城 を含めた“ダリ・トライアングル三ヶ所巡り”もあります。普通に個人で回ると、かなり修行に近い行程になりますが、ツアーなら一日で回ること自体は可能です。ちゃっかり宣伝でした。

 

2-c4-grand-picasso--644x362 【バルセロナウォーカーツアー】
ホテルまでの送迎がついているのでドアツードアで安心、そして楽ちんツアー。

 

 


お勧め度:14点/20点
★★★☆☆ (3.50


 

住所 Plaça Gala i Salvador Dalí, 5, 17600 Figueres, Girona 【地図はこちら】
URL https://www.salvador-dali.org/en/museums/
開館時間 7/1~8/31 : 9:00-18:00  無休
1/1~3/30, 5/13~6/29, 10/1~12/31: 10:30-18:00
4/1~5/11, 9/1~9/30 9:30~18:00
月曜休み 但し、1/6, 4/14, 21, 6/9, 23, 11/10, 12/8, 29は除く
料金 公式HPで確認ください
行き方 Figueres駅より徒歩12分。高速鉄道(AVE)、Avantを利用してFigueres Vilafant駅に到着した方は、バスでフィゲラスの町まで移動(所要時間10分)
所要時間 1時間半

 

 


記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。

この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。。 記事最終更新 2026.06.06

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http://blog-imgs-75.fc2.com/r/i/b/ribochan/IMG_9557-001.jpg 【グルメ】
美食の街バルセロナで買うべきグルメ食品を一堂に集めた、お土産選びの参考書!
http://blog-imgs-75.fc2.com/r/i/b/ribochan/20150424012603e73_20150524225601e5c.jpg 【マーケット・デパート・モール】
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http://blog-imgs-75.fc2.com/r/i/b/ribochan/IMG_1259_20150524221731b84.jpg 【サッカー情報】
バルサ。世界屈指の人気チームを中心に解説します。
http://blog-imgs-75.fc2.com/r/i/b/ribochan/tablao-flamenco-sevilla.jpg 【フラメンコ情報】
本場アンダルシアに負けず劣らずのレベルの高いフラメンコがここでも見れます。
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