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カサ・ミラ(Casa Milà)徹底解説|ガウディ最後の完成作品

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ガウディが54歳のときに設計し、1910年から1912年にかけて建設されたのがカサ・ミラです。

実業家のペレ・ミラと、その妻ロゼール・セギモンの依頼により、邸宅兼集合住宅として建てられました。

カサ・ミラの最大の特徴は、建物の外観にほとんど直線が見られないことです。

波打つような石造りのファサードは、まるで砂丘や溶岩が固まったかのような独特の雰囲気を持ち、見る角度によってさまざまな表情を見せてくれます。

そのあまりにも斬新な姿は当時の人々を驚かせ、やがて「ラ・ペドレラ(石切り場)」という愛称で呼ばれるようになりました。

周囲の整然とした建築が並ぶグラシア通りの中にあっても、その存在感は圧倒的です。一般的な建築様式とは一線を画し、まるで自然が作り上げた巨大な彫刻作品が街中に置かれているかのような印象を与えます。

醜悪な建物と呼ばれ

建設当時のバルセロナ市民は、その斬新すぎる外観を理解できず、カサ・ミラを「石切場(ラ・ペドレラ)」と揶揄しました。

しかし現在では、バルセロナを代表する歴史的建造物として高く評価されており、1984年にはユネスコの世界遺産にも登録されています。ただし、ガイドブックなどではあまり語られていませんが、カサ・ミラには少々複雑な背景があります。

1909年にバルセロナで発生した「悲劇の一週間(Semana Trágica)」を境に、ガウディはサグラダ・ファミリアへ傾倒していきます。また、施主であるペレ・ミラ夫妻との対立や予算超過問題も重なり、建築の最終段階では当初の構想通りに進まなかった部分があったとされています。

そのため、現在私たちが目にするカサ・ミラは、ガウディの構想が完全な形で実現した建物というよりも、さまざまな制約の中で完成へと至った作品と見ることもできます。

実際、規模や建築技術の面では同じグラシア通りに建つカサ・バトリョを上回るとも言われていますが、一般的な人気や評価ではカサ・バトリョに一歩譲る傾向があります。

その理由の一つとして、ガウディが当初思い描いていた構想の一部が実現されなかったことを指摘する研究者もいます。

 

【ミラ夫妻】 施主ペレ・ミラは名高い繊維業者の父を持ち、叔父はバルセロナ市長を務めると言うカタルーニャの名家出身。また、その妻ロゼ・セジモンは22歳年上の前夫の膨大な遺産を引き継いだ未亡人で、どちらもセレブ中のセレブ。二人は当時のバルセロナでは「目立つ家」が富豪のステイタスシンボルだったこともあり、巨額な費用を投じてガウディにカサ・ミラの建築を委ねました。

 

デザインの起源

ガウディは、作品を生み出す際に常に自然界を手本としていました。植物や動物はもちろん、山や岩、波といった自然の造形からも多くの着想を得ています。

カサ・ミラについても、その独特な外観は自然界の景色からインスピレーションを受けたものと考えられています。

ただし、ガウディは生前、自らの作品について多くを語らなかったため、「何をモデルにしたのか」という点については現在も確かな答えがありません。

そのため、以下に挙げる説はいずれも研究者による推測の域を出ませんが、有力な候補としてしばしば紹介されています。

まず一つ目は、カタルーニャの聖地として知られる モンセラット山。ギザギザとした岩肌が連なる独特の山容は、波打つようなカサ・ミラの外観を連想させます。

二つ目は、バルセロナ近郊の渓谷地帯である サン・ミケル・デル・ファイ。浸食された岩壁や自然が作り出す曲線が、ガウディの造形感覚に影響を与えた可能性が指摘されています。

三つ目は、トルコの カッパドキア。奇岩群が織りなす幻想的な風景はカサ・ミラを連想させますが、ガウディが実際に現地を訪れた記録はなく、類似性から語られることが多い説です。

そして四つ目が、日本人として特に興味を引かれる説です。それは、葛飾北斎の浮世絵です。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパでは「ジャポニスム」と呼ばれる日本美術ブームが起こり、クロード・モネポール・セザンヌフィンセント・ファン・ゴッホをはじめ、多くの芸術家が浮世絵に魅了されました。

ガウディもまた、その存在を知っていた可能性は十分にあります。特に北斎が描いた波や自然のダイナミックな曲線を見ると、カサ・ミラとの共通点を感じる人がいても不思議ではありません。

もちろん証拠はなく、あくまでも一つの仮説です。しかし、もしガウディが北斎の作品から何らかの刺激を受けていたのだとしたら、日本人としては少しうれしい気持ちになります。少なくとも、その可能性を完全に否定することはできないでしょう。

 

IMG_1897 【モンセラット】★★★★☆
カタルーニャの聖地として巡礼が訪れ、また黒いマリア信仰のの地として…

 

 

特異な外観

 

波打つ壁

カサ・ミラを訪れてまず目を奪われるのは、その圧倒的な存在感です。

周囲には19世紀から20世紀初頭に建てられたクラシックな建物が並んでいますが、その中にあってカサ・ミラだけはまるで別の世界から現れたかのような異質さを放っています。

外壁には、バルセロナ近郊のエル・ガラフで採れる石灰岩が使用されています。その荒々しく波打つような姿は、当時の市民から「石切場(ラ・ペドレラ)」と呼ばれたのも納得できるほどです。

ここで注目したいのは、徹底的に直線を排除したファサードです。建物全体が流れるような曲線で構成されており、自然界の岩肌や波のうねりを思わせます。また、各バルコニーを飾る鉄製の欄干にも注目です。

一見すると無造作に組み合わされた鉄の塊のようですが、実は一つとして同じデザインがありません。海藻や植物、あるいは風に吹かれる枝を連想させるその造形は、職人による手作業で作られた芸術作品でもあります。

さらに、ガウディらしい工夫がよく表れているのが、グラシア通り側の角にあるバルコニーです。よく見ると床の一部がガラスになっており、光を下階へ届ける仕組みが採用されています。ガウディは装飾だけでなく、建物内部の採光まで徹底的に考えていました。限られた都市空間の中で、少しでも自然光を取り入れようとした工夫が見て取れます。

また、カサ・ミラは見た目のインパクトだけでなく、その規模も驚異的です。敷地面積は同じグラシア通りに建つカサ・バトリョの2倍以上に及び、地下から屋根裏まで8階層で構成されています。さらに、当時のバルセロナでは極めて先進的だった地下駐車場まで備えていました。

建物全体の窓は約150か所に及び、集合住宅としては当時としても異例の大規模建築だったのです。

建築費も桁違いでした。諸説ありますが、その総工費はカサ・バトリョを大きく上回ったとされます。加えて、この建物が建つグラシア通りの一等地は、当時からバルセロナ屈指の高級エリアでした。

こうしたことからも、建築を依頼したペレ・ミラとロゼール・セギモン夫妻が、当時のバルセロナでも指折りの資産家だったことがうかがえます。

カサ・ミラは単なる豪邸ではありません。ガウディの創造力と、当時のブルジョワ階級の経済力が結びついて生まれた、バルセロナを代表する建築作品なのです。

1-IMG_2730 【カサ・バトリョ】 ★★★★★
1877年にEmilio Sala Cortésによって建てられた建物を1903年から繊維業で…
palauguell 【グエル邸】★★★★☆
アントニ・ガウディの良き親友であり、最大のパトロンであった実業家エウセビ・グエル。

 

 

鉄を駆使した欄干

カサ・ミラの外観でぜひ注目していただきたいのが、バルコニーを飾る鉄製の欄干です。

ガウディは、今でこそ当たり前となったリサイクルという考え方を100年以上も前から建築に取り入れていました。

彼の作品でよく見られるモザイク装飾「トレンカディス」では、不要になったタイルや食器、瓶などを再利用していますが、カサ・ミラではバルコニーの欄干にも同じ発想が用いられています。

材料となったのは、さまざまな種類のくず鉄でした。鉄板、鎖、鉄網、鉄管、さらには鍋など、用途を終えた金属類を集め、それらを切断したり曲げたりしながら新たな形へと生まれ変わらせています。

また、現在のように溶接技術が一般化していなかった時代のため、多くの部分は鋲(リベット)で接合されています。そのため制作には膨大な手間と高度な職人技が必要でした。

さらに驚かされるのは、その数です。大小を含めると約100か所近くある欄干は、よく見ると一つとして同じデザインがありません。

海藻や波を思わせる有機的な形が特徴ですが、眺めているうちに抽象彫刻や現代アートのようにも見えてきます。中にはリボンのような形や鳥を思わせるモチーフ、人の顔のように見えるものまであり、何を表現しているのか分からない不思議な造形も数多く隠れています。

こうした欄干のデザインと制作を担当したのは、ガウディの右腕とも呼ばれた ジュゼップ・マリア・ジュジョール です。

ジュジョールは、サグラダ・ファミリアやグエル公園など数々のガウディ作品にも関わった重要人物で、その自由奔放な発想力はガウディ自身からも高く評価されていました。

カサ・ミラの欄干は、ガウディの自然観とジュジョールの芸術性が融合して生まれた傑作です。遠くから全体を眺めるだけでなく、一つひとつの欄干をじっくり観察してみると、新たな発見があるかもしれません。

【ジュゼップ・マリア・ジュジョール】
建築家でアントニ・ガウディの協力者として家具デザインや絵画などの分野で才能を発揮した総合アーティスト。「彼はあなたの助手か?」と聞かれた際に「助手ではない兄弟だと」答えたと言う逸話も残るほどガウディの信頼が厚く正に右腕と言う存在でした。ガウディの裏方とし、顔に似合わずその天才的な色彩感覚はこのグエル公園のモザイクに遺憾なく発揮され、非常に大きな役割を果たしました。

 

 

見学スタート

カサ・ミラの入口は2か所あり、正面入口が「PREMIUM Tiket Office」プレミアムチケット入場口そして、正面右手の先に「With Ticket」オンライン予約済と「Without Ticket」当日券、それぞれのレーンから入場します

上の写真を見ての通り、優先入場のプレミアチケットは一切待つ必要がありません。また、通常チケットでもオンラインで既に予約済みの方は、指定の時間に行けば待たずに入場できます。

当日券に関しては春から秋、年末年始などのシーズン中は長い行列に並ぶことになり、貴重な時間をむやみに浪費するだけですので、できるだけ事前に予約するようにして下さい。

オンライン購入のうち、プレミアと一般チケットの違いは、プレミアには日時の指定がなく開館時間ならいつでも入れて、時間に全く縛られないのが利点。ご自分の旅程に合わせて選ばれるとよろしいかと思います。

 

2016-04-25 (6) 【カサ・ミラ予約方法】
オンラインによる事前チケット予約購入についてできる限り分かり易く説明しました。

 

 

入場受付

入場したら、まず受付でオンライン予約の確認書(予約画面やQRコード)を提示します。

その後、隣にあるオーディオガイド貸出カウンターへ向かい、「Japanese(ジャパニーズ)」と伝えれば日本語のオーディオガイドを受け取ることができます。オーディオガイドの利用料金は入場料に含まれていますので、別途支払う必要はありません。

続いて荷物検査があります。空港のような厳重なものではなく簡易的な検査ですが、手荷物をX線検査機に通す必要がありますので、係員の指示に従って進んでください。

荷物検査を終えれば、いよいよカサ・ミラの見学スタートです。

 

建物の見取り図

カサ・ミラは、同じガウディ作品であるカサ・バトリョの2倍以上の敷地面積を持つ大規模な建物です。そのため入口も2か所あり、中庭(パティオ)も2つ設けられています。

右側の②のパティオは横長の楕円形、左側の①のパティオは円形に近い形をしています。

先ほど入場方法の項目で説明したように、プレミアムチケット利用者は建物左側の専用入口から入場します。一方、それ以外の方は建物右側にある「オンライン予約済み・当日券」利用者向け入口から入場します。

そのため、最初に目にするパティオはチケットの種類によって異なります。なお、カサ・ミラは建物全体を見学できるわけではありません。現在一般公開されているのは主に次のエリアです。

・1階のパティオ(中庭)
・屋上
・屋根裏の回廊
・住居スペース(当時の借家人の住居を再現した部屋)

※実際には見学ルート上で階段や共用部分も通りますが、主要な見学ポイントは上記のエリアとなります。

それでは、いよいよカサ・ミラの見学をスタートしましょう。

 

吹き抜けの中庭

ここからは、通常チケットで入場した場合を想定して見学ルートを進んでいきます。

荷物検査を終えて建物の中へ入ると、まず最初に目にするのがパティオ(中庭)です。

石切り場と揶揄された荒々しい外観とは対照的に、内部空間はどこか幻想的な雰囲気を漂わせています。同じ曲線を多用しているにもかかわらず、その印象はまったく異なり、まるで深い海の底にいるような感覚を覚えます。

そして上を見上げると、無数の窓が垂直に積み重なった独特の景観が広がります。そのさらに先には、楕円形に切り取られた空がぽっかりと浮かび上がり、初めて見る人には何とも不思議な光景に映るでしょう。

ヨーロッパの人々の中には、この空間に中世ゴシック建築の雰囲気を感じる方もいるようです。一方、日本人の私には、どこか九州の軍艦島を思わせる密集感や、映画『アルカトラズからの脱出』に登場する監獄建築のような印象も受けます。

頭上に広がる青空は幻想的で美しいのですが、見方を変えれば巨大な吹き抜けの壁に囲まれた閉鎖空間にも見え、その印象は人によって大きく異なるかもしれません。

このパティオには2つの階段があります。植物が配された螺旋階段は、まるでハワイやバリのリゾートホテルのような雰囲気を持っていますが、こちらは当時の家主であったミラ家専用の階段でした。

また、ガウディは建物内部への採光を非常に重視したため、このパティオには屋根が設けられていません。完全な吹き抜け構造となっており、雨の日には容赦なく雨が降り込みます。

そのため、居住者が利用する階段部分には個別に屋根が設置され、雨を避けられるよう工夫されています。このあたりにも、ガウディが単に奇抜なデザインを追求したのではなく、採光と実用性の両立を考えていたことがうかがえます。

 

建物の外観に比べると、このような内部のポーチや共用空間は人目に触れる機会が少ないため、一般的な建築では比較的簡素に仕上げられることが少なくありません。

しかし、ガウディはそうした場所でも一切手を抜きませんでした。階段の欄干や窓の格子、扉の細かな装飾に至るまで、それぞれにデザインが施され、高度な技術を持つ職人たちによって丁寧に作り込まれています。

実際に見学していると、つい屋上や外観に目が向きがちですが、こうした共用部分にも目を向けると、ガウディが建物全体を一つの作品として考えていたことがよく分かります。

表から見えない場所だから簡略化するのではなく、住む人や訪れる人が日常的に目にする空間だからこそ、美しくあるべきだという考え方が感じられます。

こうした細部への徹底したこだわりもまた、カサ・ミラが100年以上経った今でも人々を魅了し続ける理由の一つと言えるでしょう。

 

今度はパティオの下部へ目を向けてみましょう。先ほどの上部空間が石や光による幻想的な雰囲気だったのに対し、こちらは一転して華やかな世界が広がっています。

壁面には色彩豊かな装飾画が描かれており、その柔らかな色使いや光の表現は、どこか印象派の画家モネの作品を思わせる雰囲気があります。

この装飾画を手がけたのは、カタルーニャの画家シャビエル・ノゲスです。ただし、この部分には少々複雑な経緯があります。

もともとガウディは、この壁面を破砕タイルなどによる装飾で仕上げる構想を持っていたとされています。しかし、建築途中で施主のミラ夫妻との間にさまざまな対立が生じ、ガウディは最終段階を待たずに事実上このプロジェクトから距離を置くことになりました。

その結果、当初の計画は変更され、後になって現在見られる壁画が描かれることになります。したがって、この装飾画自体はカサ・ミラの一部ではあるものの、ガウディ自身が設計・監修した作品ではありません。

そのため見学の際は、「ここはガウディが作った空間」と「ガウディが離れた後に完成した部分」を見比べてみると、建物の歴史がより立体的に見えてくるでしょう。

 

屋上

屋上へ出ると、それまでの空間とはまったく異なる光景が広がります。

まず足元に注目してみてください。床面は平らではなく、まるで波のように高低差を持ちながらうねっています。これは単なる装飾ではなく、ガウディが自然界の山々や稜線から着想を得てデザインしたものと考えられています。

実際に歩いてみると、建物の屋上というよりも、小さな山の尾根を散策しているような感覚を覚えるかもしれません。そして、この屋上最大の見どころが、あちこちに立ち並ぶ奇妙なオブジェ群です。

一見すると現代アートの彫刻作品にも見えますが、その正体は階段の出入口や煙突、換気口など、建物に必要な設備です。

普通の建築であれば目立たないように処理される部分ですが、ガウディはそれらを隠すのではなく、建築デザインの一部として積極的に取り込みました。

その結果、屋上全体がまるで異世界の風景や、巨大な彫刻庭園のような空間になっています。機能と芸術を融合させるというガウディの発想が、最も分かりやすく表れている場所の一つと言えるでしょう。

 

奇妙なオブジェ群

ガウディ建築の真骨頂とも言えるのが、この屋上です。世界中を探しても、これほど奇妙なオブジェが立ち並ぶ建物はそうありません。

実際、日本人のお客様の中には、「巨大な抹茶アイス!」「タコ星人!」「ダルマみたい!」と思わず声を上げた方もいました。

もちろんガウディはそんなものを作るつもりはなかったのでしょうが、見る人によってまったく違うものに見えるのも、この屋上の面白さです。

では、ここからはカサ・ミラでしか見ることのできない、個性豊かなオブジェの数々を見ていきましょう。

一見すると現代アートの展示会のようですが、その正体は煙突や換気口、階段室など建物に必要な設備です。

ガウディは機能を隠すのではなく、芸術へと昇華させました。その結果生まれたのが、この不思議な屋上空間なのです。

 

まず、写真左上に見えるヘルメットのようなオブジェは、キリスト誕生の際に聖書に登場するローマ兵の兜をイメージしたものと言われています。

この特徴的なデザインは、後にガウディの死後に建設が進められた サグラダ・ファミリア の受難のファサードにも受け継がれています。

そして周囲に目を向けると、今から100年以上前に造られたとは思えないほど未来的でファンタジーあふれるオブジェが並んでいます。

まるでSF映画の登場人物や異世界の戦士のようにも見えますが、その多くは煙突や換気口といった建物の設備です。中にはリサイクルされたガラス瓶の破片で装飾されたものもあります。

ガウディは作品の中で不要になったタイルや食器、瓶などを積極的に再利用しており、この屋上でもその発想を見ることができます。

もちろん当時は「エコロジー」という言葉すら存在していませんでした。しかし、新しい材料だけに頼るのではなく、既存の素材に新たな命を吹き込むという姿勢は、現代のリサイクルやサステナビリティの考え方にも通じるものがあります。

こうした細部を見ていくと、ガウディが単なる建築家ではなく、素材そのものの可能性を追求したデザイナーでもあったことが分かるでしょう。

 

【トレンカディスとは】
カタルーニャ語で破砕タイル又は破砕仕上げ全般を指す言葉。ですのでカサミラの場合に使われているリサイクル瓶も、タイルではありませんが一種のトレンカディスと言えます。元々は降雨から壁を保護する目的に始まり、次第に装飾するために利用され一種のモザイクとして使われました。ガウディ以外にもこの時代に活躍した他の建築家も多用し、数多く残るモデルニスモ建築に見ることができます。

 

 

登場人物たち

屋上に並ぶオブジェをよく観察すると、大きく2つのタイプに分けられることが分かります。

一つは、素焼きの鉢やテラコッタを思わせる防水モルタル仕上げのもの。もう一つは、ガウディ作品でおなじみの「トレンカディス」と呼ばれる破砕タイルで全面を覆ったものです。

では、この奇妙な住人たちとも言えるオブジェを見ていきましょう。まず目を引くのが、総数30本にも及ぶ煙突です。

その中には、ガラス瓶の破片をモザイク状に貼り付けたものがあります。光を受けると独特の輝きを放ち、100年以上前の作品とは思えないほどモダンな印象を与えます。

そして、もう一つが「ローマ兵」と呼ばれる煙突です。聖書に登場するローマ兵の兜を連想させることからそう呼ばれていますが、まるで無言の兵士たちが屋上を警備しているようにも見えます。

単独で立つものもあれば、2本、5本、6本、7本とグループになって並ぶものもあり、その配置は偶然なのか計算されたものなのか分かりません。しかし実際に歩いてみると、その絶妙なバランス感覚に驚かされます。

続いて、屋上には2つの通気塔があります。一つ目は、メビウスの輪を組み合わせたような独特のフォルムを持つ巨大な通気塔です。

その存在感は圧倒的で、見る人によってはダリのシュールレアリスム作品を連想したり、日本人であれば岡本太郎の彫刻作品に似ていると感じるかもしれません。

もう一つの通気塔は、どこか愛嬌のある姿をしています。日本人には『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する妖怪を思わせるかもしれませんが、そのデザインはキノコから着想を得たとも言われています。また、開けられた穴には女性性を象徴する意味が込められているという説もあります。

最後に紹介するのが、6か所ある階段出口です。どれも鐘を逆さにしたような独特の形をしており、一つは焼き菓子のメレンゲを思わせる姿をしています。それ以外は抽象化された人の顔のようにも見え、見る人によってさまざまな印象を受けます。

その中でも特に人気なのが、サグラダ・ファミリアを背景に撮影できるフォトスポットにある階段出口です。通称「笑うブッダ」と呼ばれ、確かに正面から見ると、お釈迦様が満面の笑みを浮かべているようにも見えます。

さて、この屋上には長年語り継がれている都市伝説のような話があります。それは、風の強い日に煙突から不思議な音が聞こえるというものです。

長年この建物に住む住人たちの間では知られた話だそうですが、一説によると、煙突の螺旋形状によって屋上を吹き抜ける風が加速し、内部に負圧が生まれることで煙や空気を効率よく吸い上げる仕組みになっていると言われています。

実際にガウディがそこまで計算して設計したのかは分かっていません。しかし、自然界の法則を徹底的に観察し建築へ応用した人物ですから、もし本当にその効果を狙っていたのだとすれば、100年以上前の建築としては驚異的と言うほかありません。

 

煙突に込められた意味

ガウディ建築の特徴の一つに、独創的な煙突があります。

本来であれば煙突は建物の中では脇役とも言える存在ですが、ガウディはそうした設備にも徹底的にこだわりました。そのため、彼の建築では煙突が単なる機能設備を超え、まるで彫刻作品のような存在感を放っています。

特にカサ・ミラの屋上に並ぶ煙突群は、兵士が兜をかぶっているようにも見え、建物を見守る番人のような印象を与えます。

中世ヨーロッパには、煙突は家の中と外をつなぐ特別な場所であり、悪霊や魔物が侵入する通り道になるという民間伝承がありました。そのため、煙突には単なる換気設備以上の意味が与えられることもあったようです。

ただし、ガウディ自身がそのような伝承を意識して煙突を設計したという確かな証拠は残っていません。しかし、こうした背景を知ったうえで眺めると、ローマ兵の兜を思わせる煙突が、まるで建物を守る守護者のように見えてくるから不思議です。

実際のところはガウディにしか分かりませんが、見る人それぞれが自由に想像を膨らませることも、この屋上の楽しみ方の一つと言えるでしょう。

 

MAH000931 【カサ・バトリョ】 ★★★★★
1877年にEmilio Sala Cortésによって建てられた建物を1903年から繊維業で.…
IMG_2489 【グエル公園】 ★★★★★
ガウディの大スポンサーでもあり、理解者でもあったグエル伯爵が計画した…
IMG_0126 【グエル邸】★★★★☆
アントニ・ガウディの良き親友であり、最大のパトロンであった実業家エウセビ.…
201501140624364fb 【カサ・ビセンス】★★★☆☆
ガウデイの初期の作品で他との違いは、直線的な構造の煙突が見れ…

 

 

屋上の歩き方

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エレベーターを降りたら、基本的には赤線の矢印に沿って屋上を一周する見学ルートとなります。

下の360°画像をご覧いただくと、煙突や通気塔、階段出口などの大まかな配置が分かると思いますので、見学前に一度確認しておくとイメージしやすいでしょう。

また、屋上に並ぶオブジェは見る角度によって印象が大きく変わります。特に通気塔①はその代表例で、正面から見るのと横から見るのとではまったく別の作品のように見えることもあります。ぜひ一方向だけでなく、さまざまな角度から眺めてみてください。

さらに、屋上からの眺望にも注目です。目の前にはバルセロナを代表する大通り、パセジ・ダ・グラシアが伸び、その周囲には歴史的な建物や近代的なオフィスビルが並びます。

また、カサ・ミラの裏手に目を向けると、碁盤の目状に整備されたアシャンプラ地区の街区内部を見渡すことができます。

通りからは見えない中庭や住民の庭園、テラス、洗濯物の干された生活空間などが垣間見え、観光スポットとしては地味かもしれませんが、実際に暮らす人々の日常を感じられる興味深い風景です。

観光名所を見るだけでは分からない、バルセロナのもう一つの顔を発見できる場所と言えるでしょう。

 

まずは屋上360°画像

*画像は指、マウスでぐりぐり回せます。(コロナ期間中にカミムラ撮影、なので誰もいない)

 

三つのパティオ

屋上の開口部から下を覗き込むと、建物の内壁に沿って無数の窓が並び、そのはるか下には1階のパティオ(中庭)が見えます。

ここでぜひ注目していただきたいのが窓の大きさです。よく観察すると、上階よりも下階の窓の方が大きく作られていることに気付くはずです。

これはガウディが意図的に採用した工夫で、上から差し込む自然光をできるだけ下層階まで届けるための設計です。同様の手法は、同じくガウディ作品であるカサ・バトリョでも見ることができます。

また、屋根裏部屋に並ぶ巣箱のような窓にも工夫があります。上下2列に並んでいるように見えますが、実際には下側の窓の方がわずかに大きく設計されています。これも屋根裏空間へより多くの自然光を取り込むためです。

さらに、それらの窓は開閉可能になっています。夏場には上下合わせて約160枚の窓を開放することで、建物内部に自然な空気の流れを生み出し、効率よく熱気を逃がすことができます。現在で言う自然換気や省エネルギー設計を、100年以上前に実現していたことになります。

余談ですが、この建物のオーナーだったロゼール・セギモン夫人は、建築中から費用やデザインを巡ってガウディとたびたび対立したことで知られています。そして皮肉なことに、完成したカサ・ミラそのものをあまり気に入っていなかったとも言われています。

夫ペレ・ミラの死後には、屋上の一部を独自の判断で改装してしまったという話も残っています。今日では世界的な名建築として称賛されるカサ・ミラですが、完成当時は施主ですらその価値を十分に理解していたとは言えなかったのかもしれません。

 

撮影スポット

屋上全体がフォトスポットと言えるカサ・ミラですが、歩き回っていると、やがてこんな景色(写真左下)に出会うはずです。

奥に見える白いタイル張りの階段出口のオブジェは、通称「笑うブッダ」と呼ばれています。正面から見ると、まるでお釈迦様が穏やかに笑っているようにも見え、その愛嬌のある姿から人気の撮影スポットとなっています。

そして、このオブジェの左手方向へ目を向けると、その向こうにガウディ最大の傑作とも言われる サグラダ・ファミリア の姿を見ることができます。

カサ・ミラの屋上のオブジェとサグラダ・ファミリアを一緒に撮影できる場所として知られており、多くの人が足を止める人気のフォトスポットです。

さらに、日本のガイドブックではあまり紹介されていませんが、その奥にはバルセロナの背後にそびえる ティビダボ の山も見えます。

そして、その頂上に建つ サグラット・コル教会 も、ちょうど階段出口のオブジェの手の先あたりに姿を現します。

場所は簡単です。エレベーターで屋上へ上がると、最初に目に入る大きな白いオブジェがそれです。

多くの方は煙突や奇妙なオブジェに目を奪われて通り過ぎてしまいますが、ぜひ少し立ち止まって周囲の景色も眺めてみてください。ガウディの代表作を二つ同時に眺められる、カサ・ミラならではの特別な場所です。

 

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建物内部

屋上の見学を終えた後は、屋根裏部屋、そして住居スペースへと進みながらカサ・ミラの内部を見学していきます。

外観や屋上の奇抜なデザインに目を奪われがちなカサ・ミラですが、実は建物内部にもガウディならではの工夫が数多く隠されています。

自然光や風を最大限に活用する設計、住みやすさを追求した空間構成、そして細部までこだわり抜かれたデザインなど、内部を見学することでガウディが単なる芸術家ではなく、優れた建築家であったことがより実感できるでしょう。

それでは、まず屋根裏部屋から見ていきます。

 

屋根裏部屋

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屋上の見学を終えた後は、屋根裏部屋へと降りていきます。

現在は展示スペースとして利用されていますが、もともとは洗濯物を干したり、使用人たちが作業をしたりする実用的な空間でした。また、建物全体の温度調整という重要な役割も担っていました。

中へ足を踏み入れると、まず連続して並ぶアーチに目を奪われます。私には、この空間が巨大なクジラの肋骨の中に入り込んだようにも見えます。あるいは恐竜の骨格標本の中と言った方が近いかもしれません。

もちろんガウディが本当にクジラを意識したのかは分かりません。しかし自然界を最高の教師と考えていた彼のことですから、生き物の骨格のような構造を見て何らかの着想を得ていたとしても不思議ではありません。

また、屋上との違いも印象的です。屋上は奇妙な煙突や通気塔が並び、まるで空想の世界のような空間でした。それに対し、この屋根裏部屋には華やかな装飾はほとんどありません。しかし、だからこそ建物を支える構造そのものの美しさが際立っています。

そして、ここで少し想像してみてください。現在は世界中から観光客が訪れ、「美しい」「芸術的だ」と感嘆する空間ですが、100年以上前、この場所では住人たちの日常が営まれていました。

洗濯物を抱えたおばちゃんたちが階段を上り、「今日はよく乾きそうだね」「下の奥さんは元気?」などと世間話をしながら洗濯物を干していたかもしれません。そこにはモデルニスモ建築も、世界遺産も関係ありません。

建築史に残る傑作の中であっても、人々は毎日の生活をたくましく続けていたのです。そう考えると、この空間は単なる展示室ではなく、ガウディが設計した建築と、そこで暮らした人々の日常が交差する場所のようにも感じられます。

 

しかし、この空間の魅力は単に雰囲気だけではありません。少し立ち止まって見上げると、連続して並ぶレンガのアーチが、この広大な屋根裏空間を支えていることが分かります。

先ほど「クジラの肋骨のよう」と表現しましたが、実際にこのフロア最大の見どころは、このアーチ構造そのものです。

一見すると薄く頼りなく見えるレンガですが、実はカタルーニャ地方で古くから使われてきた薄いレンガを何層にも重ねる工法が採用されています。

そして、このアーチは単なる半円ではありません。「カテナリーアーチ」と呼ばれる特殊な構造が用いられており、力が最も効率良く地面へ伝わる形状となっています。

ガウディは、この構造を数式からではなく、鎖を逆さに吊るした実験によって導き出しました。そのため、この空間は単なる屋根裏部屋ではなく、ガウディが追い求めた『自然の法則を建築へ取り込む』という思想が最も分かりやすく表れた場所の一つとも言えるでしょう。

展示されている模型を見ると、屋根裏のアーチがどのように建物全体を支え、さらに屋上の波打つ床の起伏まで生み出しているのかが理解できます。

華やかな屋上に比べると地味な空間ですが、建築好きにとってはむしろこちらの方が興味深いかもしれません。

カテナリー・アーチとは

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二本のポールに張られた鎖のたわみがカテナリーアーチ ロープのたわみ通りに切った型に積み木を載せる

カテナリーとは、ロープや鎖の両端を持って垂らしたときに自然にできる曲線のことです。一見すると単なるたるみのように見えますが、この曲線を上下逆さにすると、力を最も効率よく地面へ伝えることができる理想的なアーチになります。

実際にガウディは机の上で計算するのではなく、ロープや鎖を吊るして模型を作り、その形を逆さにすることで建築に応用しました。屋根裏部屋で見た連続するアーチも、その考え方から生まれたものです。

ガウディがこの構造を好んだ理由は、丈夫だからというだけではありません。自然界に存在する形であり、美しく、そして経済的でもあったからです。

少ない材料で大きな空間を支えることができるため、カサ・ミラの広大な屋根裏部屋も柱のない開放的な空間として実現することができました。

ちなみに、この考え方はカサ・ミラだけではなく、カサ・バトリョやサグラダ・ファミリアなど、ガウディの代表作にも数多く用いられています。

 

展示室を周る

屋根裏の回廊には、カサ・ミラの模型をはじめ、ガウディ建築に関するさまざまな資料が展示されています。中でも興味深いのが、サグラダ・ファミリア地下の博物館でも有名な「逆さ吊り模型」を再現した展示です。

サグラダ・ファミリアでは糸と錘を使った模型が知られていますが、ここでは細いチェーンを用いて同じ原理を再現しています。さらにその下には鏡が置かれており、鏡に映った姿を見ると、まるでサグラダ・ファミリアの塔や身廊を見ているかのようです。

もちろん、これらは後世に作られた展示模型です。しかし、ガウディが実際に行っていた設計手法を理解するには非常に分かりやすい展示と言えるでしょう。

ガウディは一般的な建築家のように図面だけで建物を設計したわけではありません。むしろ彼は模型を重視した建築家でした。

頭の中で考えたものを模型として形にし、それを眺めながら修正を加え、時には新しいアイデアを思いつき、さらに模型を作り直す。そうした試行錯誤を何度も繰り返しながら作品を完成へと導いていきました。

私たちは完成した建築ばかりに目を奪われがちですが、ガウディ自身は完成品よりも、その途中にある実験や試行錯誤の時間を大切にしていたのかもしれません。

ですから、この展示を見る際は単なる模型として眺めるのではなく、「もし自分がガウディだったら、ここから何を思いつくだろう」そんな気持ちで見てみるのも面白いと思います。

完成した建物を見るだけでは分からない、ガウディの思考の過程が少しだけ見えてくるかもしれません。

 

このフロアには、ガウディがデザインした家具も展示されています。

ガウディというと建築家としてのイメージが強いのですが、実は家具デザイナーとしても非常に優れた才能を持っていました。

展示されている椅子を見ると、その独創性と実用性の両方に驚かされます。例えば写真②の椅子は、カサ・バトリョのためにデザインされたものです。

一見すると二人掛けのベンチのようですが、中央にひじ掛けが設けられ、それぞれの座面は微妙に異なる方向を向いています。

仲良く並んで座ることもできれば、少し距離を置いて座ることもできる。その絶妙な関係性は、ガウディらしい遊び心なのかもしれません。

また、写真①の椅子にも面白い工夫があります。背もたれの上部には自然な凹みが設けられており、椅子を引く際にちょうど指が入るようになっています。

言われてみれば当たり前なのですが、実際に使う人の動作を細かく観察していなければ思いつかない発想でしょう。

派手さはありませんが、こうした細かな気配りを見ると、ガウディは単なる芸術家ではなく、実用品のデザイナーとしても優れていたことが分かります。

ちなみに、ガウディがデザインした家具には、野球のバットにも使われることで知られるトネリコ材が多く用いられています。

耐久性に優れ、適度なしなやかさも持つ木材で、100年以上経った現在でも多くの家具が良好な状態で残されています。

奇抜な建築ばかりに目が行きがちですが、こうした家具を見ると、ガウディが日常生活そのものにも強い関心を持っていたことが感じられるでしょう。

 

椅子だけでなく、ガウディは家具全般のデザインにも深く関わっていました。テーブルや扉はもちろんのこと、取っ手や蝶番、照明器具、金具類に至るまで細かな部分にも徹底してこだわっています。

こうした作品に共通しているのは、自然界を手本としている点です。植物の葉や花、動物の骨格や殻など、私たちが普段何気なく目にしている自然の形が、ガウディの手によって家具や装飾のデザインへと生まれ変わっています。

そのため、一見すると奇抜に見えるデザインであっても、不思議と違和感を感じさせません。自然界に存在する形だからこそ、無意識のうちに人は心地よさや美しさを感じるのかもしれません。

また、カサ・ミラを見学した後に建物の外へ出たら、ぜひ足元にも注目してみてください。

建物の前を通るパセジ・ダ・グラシアの歩道には、ガウディがデザインした六角形の敷石が使われています。よく見ると、そこには海藻やヒトデ、貝殻など海の生き物をモチーフにした模様が刻まれています。

多くの人は気付かずに通り過ぎてしまいますが、ガウディは建物だけでなく、足元の石にまで自然界のデザインを取り入れていました。見学を終えたら、ぜひ最後にその敷石も確認してみてください。

 

住居部分は平凡

カサ・ミラは、現在も実際に住民が暮らしている世界でも珍しい世界遺産の集合住宅です。

現在も数世帯が居住しており、それ以外のスペースは事務所やショップ、カフェテリアなどとして利用されています。

また、かつて家主であったミラ夫妻が住んでいた2階部分は現在エキシビションスペースとなっており、時期によってさまざまな特別展示が開催されています。

そのため、一般見学で見ることができる住居部分は、屋根裏部屋の一つ下にある借家人用のフロアのみとなっています。

 

室内にはサロン、寝室、キッチン、浴室のほか、当時使用されていた家具や生活用品などが展示されており、20世紀初頭のバルセロナの暮らしぶりを知ることができます。

ただ、多くの見学者がここで同じような感想を抱きます。「あれ? 思ったより普通だな」と。

石切場と呼ばれた大胆な外観、空へ向かって伸びる吹き抜けのパティオ、そして奇妙なオブジェが並ぶ屋上を見た後だけに、住居部分は驚くほど落ち着いた空間に感じられます。

正直なところ、ここだけを見れば特別な豪邸という印象はあまりありません。むしろ、当時のバルセロナに住む裕福な中産階級の住まいを再現した空間と言った方が近いでしょう。

しかし、これには理由があります。すでに触れたように、カサ・ミラの建設中、ガウディは施主のミラ夫妻とたびたび対立し、最終的には建築の仕上げ段階まで深く関わることはありませんでした。

そのため、この住居部分には屋上や外観ほど強烈な「ガウディらしさ」が感じられないのです。さらに、このフロアは家主の住居ではなく賃貸住宅でした。

つまり、豪華さを競うための空間ではなく、実際に借家人が暮らすための住居だったのです。その点は、オーナー一家が使用した空間を見学できるカサ・バトリョとの大きな違いと言えるでしょう。

派手さという点では少々物足りないかもしれません。しかし、ここはガウディの芸術作品というよりも、「当時のバルセロナの人々が実際にどのような家で暮らしていたのか」を知ることができる場所として見ると、また違った面白さが見えてきます。

 

もう一つのパティオ

見学ルートの最後は、グラシア通り側のパティオへと降りてきます。一見すると最初に見たパティオとよく似ていますが、注意して見ていくといくつかの違いがあることに気付くはずです。

まず一つ目は、頭上に見える空の形です。最初に見学したパティオでは空が楕円形に切り取られていましたが、こちらはほぼ円形になっています。

また、形だけでなく大きさにも違いがあります。こちらの方が開口部が小さいため、同じ吹き抜け空間でも全体的に少し落ち着いた、やや暗めの印象を受けます。

ガウディは建物全体を単調にするのではなく、同じように見える空間にも微妙な変化を加えていました。

そしてもう一つの違いが、2階へ続く螺旋階段です。見た目は最初のパティオにあったものとよく似ていますが、よく観察すると屋根の形状が異なっています。

この階段は、当時この建物のオーナーであったミラ夫妻が利用していた専用階段です。現在では見学者の目にはどちらも似た螺旋階段に見えますが、細かな部分を比較していくと、それぞれに違ったデザインや工夫が施されていることが分かります。

カサ・ミラは遠くから見ると大胆で豪快な建築ですが、近づいて見るとこうした細部へのこだわりが随所に隠されています。見学ルートの終盤で少し疲れている頃かもしれませんが、ぜひ最後まで足を止めて眺めてみてください。

 

最後に、このパティオでは建物正面の門扉を間近で見ることができます。遠くから眺めるだけでは気付きにくいのですが、近寄ってみるとその細工の見事さに驚かされるはずです。

ガウディ建築の特徴の一つに、鍛鉄を使った装飾があります。カサ・ミラでも、手すりや欄干、門扉などに熟練した職人たちの技術が惜しみなく投入されています。

機械による大量生産が当たり前の現代と違い、当時は一つひとつが職人の手作業によって作られました。そのため同じように見える部分でも微妙に形が異なり、どこか人の手の温もりを感じさせます。

外観や屋上の煙突に目を奪われがちですが、こうした細かな部分にもぜひ目を向けてみてください。

以上でカサ・ミラ内部の見学は終了です。

ただし、見学はまだ終わりではありません。

入場チケットには、かつてミラ夫妻が住んでいた2階部分で開催されるエキシビション(特別展示)も含まれています。

展示内容は時期によって変わりますので当たり外れはありますが、時間に余裕があれば立ち寄ってみるのも良いでしょう。

建物そのものを見学した後に展示を見ることで、また違った角度からカサ・ミラを楽しめるかもしれません。

 

エキシビション

なお、2階で行われているエキシビションは、ガウディとは直接関係のない写真展や現代アートの展示が中心です。そのため、時間が限られている方であれば無理に見る必要はありません。

ただし、このフロアへ来ることで一つ分かることがあります。それは、この広大な空間にオーナーであるミラ夫妻が実際に暮らしていたという事実です。

現在は家具も取り払われ、壁もほとんど残されていませんが、その床面積は約1,323平方メートル。坪数にすると約400坪、畳に換算すると約800畳にもなります。

数字だけでは実感が湧きませんが、実際に歩いてみると、その広さに驚かされるはずです。しかも、これが集合住宅の一室ではなく、オーナー夫妻だけの住居でした。

カサ・ミラは同じグラシア通りに建つカサ・バトリョを大きく上回る建築費が投じられた建物です。その資金力を考えると、このフロアも当時は相当な贅を尽くした空間だったのでしょう。

残念ながら現在は当時の内装がほとんど残っていないため、その様子を知ることはできません。しかし、もしオリジナルの家具や装飾が残されていたなら、先ほど見学した借家人の住居とはまったく異なる印象を受けたに違いありません。

そう考えながら空っぽの空間を眺めると、かえって当時のミラ夫妻の暮らしを想像する楽しみがあるかもしれません

 

【プレミアチケットの注意点】

プレミアムチケットで入場した方は、見学の最後に入場時と同じパティオへ戻ってくるため、もう一方の横長の楕円形パティオを見ないまま帰ってしまうことがあります。

もちろん、二つのパティオに決定的な違いがあるわけではありません。しかし、空の形や明るさ、階段のデザインなど細かな部分には違いがあり、それぞれに異なる雰囲気があります。

せっかくカサ・ミラを訪れたのであれば、両方見ておいて損はないでしょう。行き方も簡単です。

見学終了後、売店へ入る手前を左へ進むと、もう一つのパティオへ行くことができます。

ほんの数分で見られますので、時間に余裕があればぜひ立ち寄ってみてください。むしろ建物全体を見学した後だからこそ、二つのパティオの違いもより分かりやすく感じられるかもしれません。

 

売店

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最後に、お土産を扱う売店についてです。カサ・ミラには売店が2か所あります。

一つは住居部分を見学するフロア内にある小さなショップ。もう一つは建物1階、プレミアムチケット入場口の右側にあるメインショップです。

品揃えという点では1階のショップの方が充実しており、店内も広いためゆっくり買い物をすることができます。

ガウディ関連の書籍やポストカード、模型、雑貨類などが並んでいますので、お土産を探している方はこちらを利用するのがおすすめです。

見学中はつい先を急ぎたくなりますので、買い物は最後にまとめて見るのが効率的でしょう。なお、カサ・ミラの見学ルートは情報量が多く、気が付けばかなりの距離を歩いています。

見学を終えたら、少し腰を落ち着けてお土産を眺めながら、先ほどまで見てきたガウディの不思議な世界を振り返ってみるのも悪くありません。

 

なお、売店にはカサ・ミラ限定の商品だけでなく、バルセロナ市内の観光スポットやデパートなどでも販売されている定番のお土産も数多く並んでいます。

そのため、お土産を購入するのであれば、ここでしか手に入らないカサ・ミラ関連の商品を選ぶ方が記念になるでしょう。特に屋上の煙突や通気塔をモチーフにした置物や雑貨、ガウディ建築に関する書籍などは、カサ・ミラを訪れた思い出としてもおすすめです。

逆にオリーブオイルやお菓子、一般的なバルセロナ土産などは市内のデパートやスーパーでも購入できますので、無理にここで買う必要はありません。

せっかくカサ・ミラの売店に立ち寄るのであれば、この建物ならではの商品を探してみるのも面白いと思います。

 

その他

ここからは通常の見学コース以外の楽しみ方についてご紹介します。

カサ・ミラと言うと、どうしても内部見学や屋上の煙突群に注目が集まります。しかし、それ以外にも建物をより深く楽しめるポイントがいくつかあります。

例えば、観光客のほとんどが訪れない建物裏側からの眺め。また、見学途中や見学後に利用できるカフェ。さらに昼間とはまったく違う雰囲気を味わえるナイトツアーなどです。

特にカサ・ミラは外観だけでなく、時間帯や見る場所によって印象が大きく変わる建築です。もし時間に余裕があれば、通常の見学コースだけで終わらせず、少し寄り道をしてみるのも面白いでしょう。

それではまず、あまり知られていない建物裏側からの眺めを見ていきます

 

無料で裏から眺める

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カサ・ミラに入場しても、実はどうしても見られない場所があります。それが建物の裏側です。

見学ルートは屋上やパティオ、住居部分を中心に構成されているため、意外なことに建物全体を外から眺める機会はありません。

しかし、あまり知られていませんが、実はカサ・ミラから2軒ほど離れたビルの中庭テラスから、その裏側を眺めることができます。しかも入場料は不要。観光客のほとんどが知らない場所なので、人混みを避けながらゆっくりと建物を観察することができます。

表のグラシア通り側とはまた違った表情を見ることができ、建築好きの方なら意外とこちらの方が面白いかもしれません。

せっかくカサ・ミラを見学したのであれば、帰りに少し足を延ばして覗いてみてはいかがでしょうか。詳しい場所や行き方については、下のリンクで紹介しています。

 

1-img_0740 【カサ・ミラを裏から眺めれる穴場スポット】
日本人で知っている人はいないカサ・ミラを裏から無料で見える場所がここ….。

 

 

お勧めカフェ

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カサ・ミラ1階のプレミアムチケット入場口の左側にはカフェテリアがあります。中へ入って階段を上がると、頭上にはガウディらしい波打つ天井が広がります。

観光客で賑わうグラシア通りのすぐ横にありながら、中は意外なほど静かで落ち着いた空間です。

世界遺産の建物の中で、少し休憩しながらコーヒーを楽しむのも悪くありません。

気になる値段ですが、特別高いわけではなく、日本のスターバックスとそれほど変わらない印象です。むしろ、この界隈の一等地という立地を考えれば良心的と言えるかもしれません。

また、このカフェの面白いところは観光客だけでなく近所の人も利用していることです。

実際に座っていると、ご近所のマダム達がおしゃべりを楽しみながらコーヒーを飲んでいる姿を見かけることがあります。周囲には有名なカフェが数多くありますが、静かさという点ではここが一番かもしれません。

見学で歩き回った後に一息つく場所としては、なかなかおすすめの穴場です

 

1-img_9393 【カフェテリア訪問記】
実際に中のカフェテリア「El Cafè de la Pedrera」でお茶をしてみました!

 

 

ナイトツアーとは

カサ・ミラは昼間の通常見学だけでなく、夜に行われるナイトツアーに参加して見学することもできます。

昼間は建築そのものの形や構造をじっくり観察できますが、夜になると照明によってまったく違う表情を見せてくれます。

特に屋上の煙突や通気塔は、昼間のユーモラスな雰囲気とは一変し、まるで異世界の彫刻群のような幻想的な姿へと変わります。

また、夜のグラシア通りやライトアップされたバルセロナの街並みを屋上から眺められるのも大きな魅力です。もちろん、通常の見学だけでも十分満足できる内容ですので、無理に参加する必要はありません。

ただ、ガウディ建築が好きな方や、昼間とは違うカサ・ミラを体験してみたい方であれば、一見の価値はあるでしょう。

以下では、実際に参加したナイトツアーと食事付きツアー、それぞれの内容や感想について詳しく紹介します。

 

 

カサ・ミラのトリビア

ここからは、見学コースではあまり触れられないカサ・ミラにまつわる裏話や雑学をご紹介します。

ガイドブックには載っていない話から、知っていると見学が少し面白くなる話まで内容はさまざまです。もちろん、これらを知らなくてもカサ・ミラの見学は十分楽しめます。

ただ、建物が完成した当時の人々が何を考え、どのように受け止めていたのか。あるいはガウディがどんな人物だったのかを知ることで、目の前にある建築が少し違って見えてくるかもしれません。

では、カサ・ミラにまつわる小ネタや裏話をいくつか見ていきましょう。

 

なぜか最安家賃

カサ・ミラは現在も実際に人が暮らしている世界でも珍しい世界遺産マンションです。

しかし、さらに驚くべきなのは、その家賃です。建設当時、この建物はバルセロナでも最高級クラスの賃貸住宅として建てられました。しかし家賃は非常に高額で、当時の一般労働者の月収の何倍にも達していたと言われています。

さらに問題だったのが、その見た目です。現在では世界中から観光客が訪れる名建築ですが、完成当時の評判は散々でした。

「石切場(ラ・ペドレラ)」と揶揄され、多くの人が醜悪な建物だと考えていたため、なかなか入居者が集まらなかったのです。

その結果、一部の住戸では長期契約を条件に賃貸契約が結ばれ、現在でもその流れを引き継ぐ住民が暮らしています。

そして、その家賃は驚くほど安いと言われています。諸説ありますが、300平方メートルを超える広さの住戸でありながら、現在でも月額1,200ユーロ前後とも言われています。もちろん通常では考えられない金額です。

場所はバルセロナのど真ん中、パセジ・ダ・グラシア沿い。しかも世界遺産の建物です。もし現在の市場価格で賃貸に出されたなら、同じ広さの高級物件は月額1.5万ユーロを超えても不思議ではありません。

もっとも、この話を聞くと羨ましく感じるかもしれませんが、考えてみれば住人たちは何十年も観光客に囲まれながら生活しています。

毎日、自宅の窓の外では何百人もの観光客が写真を撮り、建物の見学ツアーが行われています。そう考えると、世界遺産に住むというのも案外楽ではないのかもしれません。

 

斬新だった鉄骨構造

ガウディの建築というと、レンガを積み上げて造る伝統的な組積造(そせきぞう)を思い浮かべる方が多いかもしれません。

実際、グエル教会やサグラダ・ファミリアをはじめ、多くの作品ではレンガや石を積み上げる中世以来の工法が用いられています。しかし、カサ・ミラには当時としては非常に先進的だった鉄骨構造が積極的に採用されています。

その結果、それまで建物を支えていた厚い耐力壁の多くが不要となり、室内の間取りを比較的自由に変更できる構造が実現しました。

現在では当たり前となったオフィスビルやマンションの考え方ですが、20世紀初頭としてはかなり先進的な発想でした。

つまり、建物を支えるのは壁ではなく骨組み。そのため住人の入れ替わりや時代の変化に応じて、部屋の区切り方を変更することも可能だったのです。

私たちはつい奇抜な外観や煙突に目を奪われがちですが、実はカサ・ミラの本当の革新性はこうした見えない部分にもあります。

外見は自然界の岩山のように見えますが、その内部には当時最先端だった技術が取り入れられていました。

そう考えるとカサ・ミラは、「最後の伝統建築」であると同時に、「最初の近代建築」の一つとも言えるのかもしれません。

 

初の地下駐車場

カサ・ミラには、現在では当たり前となった地下駐車場が備えられています。しかし建設当時の1910年前後を考えると、これは非常に先進的な設備でした。

その背景には、オーナーであるペレ・ミラの趣味があったと言われています。

ミラは大の自動車好きとして知られ、叔父でバルセロナ市長を務めた人物と共に自動車レースを主催するほどの熱心な愛好家でした。

まだ自動車そのものが珍しかった時代に、自宅の建物へ専用の地下駐車場を設けるという発想はかなり先進的だったと言えるでしょう。

残念ながら現在この地下駐車場は一般公開されていません。現在はイベントや会議などに利用されるスペースとなっており、約200人を収容できる広さがあります。

また、地下へ続くスロープも設けられており、2つあるパティオのどちらからでもアクセスできるようになっています。

現在の私たちから見ると地下駐車場は特別な設備には感じられません。しかし100年以上前に、馬車がまだ普通に走っていた時代を考えると、自動車のために専用スペースを設けるという発想そのものが驚きです。

奇抜な外観や煙突ばかりが注目されるカサ・ミラですが、その内部には当時最先端だった設備や技術も数多く取り入れられていました。そうした点からも、この建物が単なる芸術作品ではなく、未来を見据えた実験的な住宅だったことが分かります。

 

ガウディ最後の住宅

ガウディは生涯を通じて数多くの建築を手掛けましたが、住宅建築としてはこのカサ・ミラが最後の作品となりました。

それまでにも、カサ・ビセンス、グエル邸、カサ・カルベット、カサ・バトリョなど、バルセロナを代表する住宅建築を次々と生み出してきましたが、カサ・ミラを最後に彼は住宅建築から離れていきます。

そして、その後の人生を捧げることになるのがコロニア・グエル教会とサグラダ・ファミリアでした。もっとも、コロニア・グエル教会は地下聖堂部分のみで工事が中断され、ガウディが当初構想していた壮大な教会は完成することなく終わります。

そのため、カサ・ミラはガウディ最後の完成した住宅であると同時に、彼が世俗的な建築から宗教建築へと大きく舵を切る転換点となった作品でもあります。

実際、カサ・ミラ完成後のガウディは徐々にサグラダ・ファミリアへ生活の中心を移していき、晩年には他の仕事をほとんど引き受けなくなりました。

そう考えると、この建物は単に「最後の住宅作品」というだけではありません。若き日の華やかな成功を収めた建築家ガウディと、後年すべてをサグラダ・ファミリアへ捧げたガウディ、その二つの時代をつなぐ節目の建築とも言えるでしょう。

 

屋根裏に作られたワンルームマンション

カサ・ミラは完成後も、その姿を少しずつ変えながら現在まで使われ続けてきました。

オーナーであったペレ・ミラの死後、建物は売却されます。その後、新たな所有者となった不動産会社によって大規模な改装が行われ、屋根裏部屋には13戸のワンルームマンションが新たに増設されました。

現在私たちが見学している広々としたアーチ空間からは想像しにくいかもしれませんが、かつてこの場所には壁が設けられ、人々が実際に生活していたのです。

もっとも、ガウディが設計した本来の空間は大きく損なわれていました。そのため、1980年代から1990年にかけて行われた修復工事によって、それらの増築部分はすべて撤去されます。

そして現在では、連続するアーチが生み出す本来の屋根裏空間が再び姿を現し、見学者が楽しめるようになっています。

もし増築されたワンルームがそのまま残されていたなら、私たちは今日見ているあの壮大なアーチ空間を見ることはできなかったでしょう。そう考えると、この屋根裏部屋が現在の姿に復元されたことは、カサ・ミラにとって非常に大きな出来事だったと言えます。

 

大ファンだったダリ

現在では世界的な名建築として知られるカサ・ミラですが、完成当時の評価は決して高いものではありませんでした。

多くの市民からは「石切場(ラ・ペドレラ)」と揶揄され、その奇抜な外観は理解されなかったのです。

しかし、そんなガウディを高く評価した人物がいました。それがスペインを代表する画家、サルバドール・ダリです。

ダリはカサ・ミラの屋上に並ぶ煙突や通気塔の大ファンだったと言われ、屋上の写真を常に持ち歩いていたとも伝えられています。

確かに改めて見てみると、あの奇妙なオブジェ群はダリの描くシュールレアリスムの世界とどこか共通するものを感じさせます。

また、ダリはインタビューの中で、「数多くの芸術家の中でも、ガウディとピカソは特別な存在だ」と語っています。

さらに、「彼らこそ本当の天才だ」とも述べており、その評価の高さがうかがえます。

完成当時には理解されなかったガウディですが、後の時代を代表する芸術家たちは、その価値を誰よりも早く見抜いていました。

そう考えると、カサ・ミラの屋上に立った時に感じる不思議な違和感こそが、ガウディの才能の証だったのかもしれません。

 

筋金入りの頑固者

カサ・ミラの建設期間中、施主のミラ夫妻とガウディの関係は決して良好とは言えませんでした。

その原因の一つが、ガウディの徹底した完璧主義です。彼は設計途中であっても納得がいかなければ変更を加え、時には出来上がった部分をやり直すことさえありました。

当然、そのたびに工期は延び、建設費も増加します。

さらに建物の一部が敷地境界を越えてしまったため、市役所との間でも問題が発生しました。

こうしたトラブルの積み重ねによって、特にミラ夫人との関係は悪化していったと言われています。しかし、それでもガウディは妥協しませんでした。

施主の意向であっても、自分が正しいと思うことは曲げない。良く言えば信念の人。悪く言えば、かなり扱いにくい人物だったのでしょう。

そして最終的には、ガウディは建設の途中で事実上このプロジェクトから離れることになります。

そのため、現在私たちが見ているカサ・ミラは、ガウディが当初思い描いた姿と完全に同じとは言えません。もっとも、もしガウディが妥協していたなら、今日のカサ・ミラもまた存在しなかったはずです。

施主や行政との衝突を繰り返しながらも、自分の理想を押し通した。その頑固さこそが、カサ・ミラという唯一無二の建築を生み出した原動力だったのかもしれません。

 

時代最後の建築家

ガウディが生きた19世紀末から20世紀初頭は、建築の世界が大きく変わろうとしていた時代でした。それまで何百年にもわたって主流だった石やレンガによる組積造に代わり、鉄や鉄筋コンクリートが建築材料として急速に普及し始めます。

やがてその流れは、装飾を排し機能性を重視する近代建築へと発展し、後にバウハウスなどに代表される新しい建築思想を生み出していきました。

そうした大きな時代の変化の中で、ガウディは少し特殊な立場にいた建築家だったと言えるでしょう。

彼は鉄骨やコンクリートといった新しい技術を積極的に取り入れながらも、建築そのものは中世の職人たちの世界に強く根差していました。

実際、彼の建築には石工、鍛冶職人、陶芸家、木工職人など数多くの職人たちの技術が投入されています。

現代の工業製品のように均一な部材を組み立てるのではなく、一つひとつを人の手で作り上げていく世界です。その意味では、ガウディは最先端の技術を使いながらも、中世の大聖堂建築家に近い存在だったのかもしれません。

そして彼の死後、建築界の主流は大きく変わります。装飾は否定され、直線と機能性を重視する近代建築の時代が到来しました。

そう考えるとガウディは、近代建築の入口に立ちながらも、最後まで職人の時代の価値観を貫いた建築家だったとも言えるでしょう。

ある意味では、ガウディは未来を見ていた建築家であると同時に、中世から続く建築文化の最後の継承者でもあったのです。

 

見所ムービー

 

アクセス方法一覧

【カサ・ミラ ➡ グエル公園シャトルバス乗り場】
【カサ・ミラ ➡ カサ・バトリョ】
【カサ・ミラ ➡ サグラダ・ファミリア】
【カサ・ミラ ➡ カタルーニャ音楽堂】

 

まとめ&アドバイス

カサ・ミラはガウディの代表作の一つですが、一般的な建築物というより巨大な彫刻作品と表現した方が近いかもしれません。

完成当時は「石切場(ラ・ペドレラ)」と揶揄され、その奇抜な姿は多くの人に理解されませんでした。しかし100年以上経った現在でも、その圧倒的な存在感を否定できる人はほとんどいないでしょう。

一方で、カサ・ミラは決して完璧な建築ではありません。私は、ガウディが途中でこの建築から離れてしまったことが非常に惜しまれると思っています。

外壁、パティオ、そして屋上はまさに傑作と言える出来栄えですが、建物全体を見ると未完成感や不統一さを感じる部分も残されています。

もっとも、その不完全さも含めてカサ・ミラなのかもしれません。

建築にあまり興味がない方でしたら、外観だけ眺めて満足という考え方もあるでしょう。しかし、ガウディに興味がある方や建築が好きな方であれば、入場する価値は十分にあります。

特に屋上は必見です。

そこには天才建築家としてだけではなく、一人の芸術家としてのガウディの姿があります。屋上に並ぶ煙突や通気塔を見ていると、サルバドール・ダリが熱狂した理由も少し分かるような気がします。

なお、ライトアップについてはサグラダ・ファミリアほどの迫力はありません。近くに夜訪れる機会があれば眺める程度で十分でしょう。

見学時間の目安は約1時間。

建築好きの方やガウディに強い関心がある方であれば、さらに30分から1時間ほど見ておくと安心です。

また写真が好きな方は少し苦労するかもしれません。近年は監視カメラや防災設備が増え、思うような構図で撮影できないこともあります。

世界遺産の保存管理上やむを得ないこととはいえ、もう少し目立たない配置にできないものかと思う場面もあります。

とはいえ、それも現在のカサ・ミラの姿。ぜひ色々な角度から建物を眺めながら、自分だけのお気に入りの一枚を探してみてください。

 

 


お勧め度18点/20点
★★★★★(4.5)


 

住所 Paseo de Gracia, 92 【地図はこちら】
URL https://www.lapedrera.com/en/home
開館時間 ~3/3  9:00~18:30、 3/4~11/1 9:00~20:30 ナイトツアー 21:00~23:00
*入場は閉館15分前まで
休館日 12/25, メンテナンスのため2024年1月15日~1月21日 
料金 公式サイトにてご確認ください。
最寄駅 地下鉄 L3 L5 号線Diagonal(ディアゴナル) 駅から徒歩1分
所要時間 1時間~1時間半

 

記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。

この長文変態記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。。 記事最終更新 2026.06.04

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