目次
概要
ガウディが作った最初の家として知られるカサビセンス。
カサ・ミラ、カサ・バトリョのようなバルセロナのメイン通りにあるのと違い、細い路地が続く庶民的なグラシア地区の中にひっそりと佇んでいます。
他のガウディ作品と違い、長年個人の住居として使用されていたこともあり、これまで一般開放されておらず訪れる人も殆どありませんでした。
そんな旅行者から半分忘れられた建物が、スペインとフランスの間にある小国「アンドラ公国」の「MoraBanc」銀行が2014年にカサ・ビセンスを購入、観光客向けに開放(有料)し2017年11月より遂に見学できるようになりました。
ガウディの初期の作品と知られている建物は当時まだ建築資格を取って5年目、31歳だったアントニオ・ガウディにとって初めて設計・建築を手掛けた個人宅の建築プロジェクトでした。
尚、この建物はレンガやタイル工場(⋆)の社長であったマヌエル・ビセンスと、その家族の夏の別荘として建設され直線的な構造を多用した物で他の作品と比べイメージが大きく違う異色のガウディ建築です。
建築様式はバルセロナの他の建物、例えば「ラス・アレナス闘牛場」(現ショッピングモル)などでも見ることができる、当時に流行したネオムデイハル様式の影響を強く受けた作品となっています。
*レンガやタイル工場の社長であったかについては、株ブローカーだったなどの諸説があり定かではありません。
【ムディハル様式】 スペインの建築様式の一つで、中世にキリスト教徒とイスラム教徒が共存するという環境下でイスラム建築様式とキリスト建築様式が融合したスタイル。 |
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特徴としては建物の壁面に幾何学文様の装飾を施しているなどがあります。 |
夏の別荘
カサ・ビセンスが19世紀後半はスペインでもいち早く産業革命に成功したバルセロナはバブル景気に沸き返っていました。
そんな中で新たに出現したブルジョア(新興成金)達で流行したのが夏を別荘で過ごすと言う新たな習慣が生まれます。
これは過密化した都市環境からの退避と、庶民とは違うと言う特権階級意識の2つの点に由来しています。
当時バルセロナ郊外には多くの別荘が建てられ、今でこそ狭い路地に集合住宅が立ち並び別荘地の面影は皆無となっていますが、当時は市内から近い自然あふれ静かなエリアで人気がありました。
ちなみにガイドブックよってはレンガやタイル工場の社長であったかと書かれていますが、この建物は株のブローカーだったマヌエル・ビセンスと、その家族の夏の別荘としてガウディにより建設されました。
建設当時の様子
ただ、別荘と言っても建設当時と比べると敷地の殆どは売却され、残っているものは屋敷のみ。
また、周りはカサ・ビセンスより更に数メートル高いマンションに囲まれていて、別荘の面影は何もありません。
ちなみに、広大な敷地を持った当時は屋敷の前にはガウディがデザインしたレンガで作った滝。
敷地の端には、バルセロナの裏山から地中20メートルを流れる病気に効くと言う湧水が出たこともあり、そこには、サンタ・リタ礼拝堂が建てられていました。
また、敷地の塀の上のシュロの葉をデザインした鉄柵が並んでいましたが、敷地が売却されて塀が取り壊された際に、グエル公園の移されました。現在、グエル公園の正面入り口でそれを見ることが出来ます。
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玄関の変更と増築
以前は夏の別荘と言うに相応しい庭がありました | ①が以前の玄関②が現在の玄関③ |
この後の邸内の解説でも言いますが、ガウディは外から屋敷の中まで庭が連続して続くと言うイメージで建てたので、庭が無くなり周りをマンションの壁で囲まれた現在のカサ・ビセンスはその点では翼の取れた鳥。
もし庭が残っていたら今とはまた違った印象になったはずでしょう。
あと、カサ・ビセンスの前の通りが拡張された際に、その分敷地が削られ写真の①の玄関が②に作り替えられました。
また、カサ・ビセンスの後方にあった女性修道院③が取り壊された際に、その空いた部分に拡張されました。
直線的デザイン
ムディハル様式を模し直線的なタイルを貼り付け外壁が印象的ですが、近くでよく見ると細部は雑さも多少目立ちます | |
ペルシアナと呼ばれる窓の遮光は独特のデザイン | 岩で作られた壁の部分とタイルとレンガとの組み合わせ |
いかにもアラビア風という感じの入り口 | 外観で最もガウディらしさを感じるのがこれ |
建物のデザインはガウディの他の作品を既にみた方には、間違いなく違和感があるはずと思います。
まず一つ目は、サグラダ・ファミリアを初め、カサ・ミラで見られる徹底的に直線を排したデザインとは逆に直線を基調とした外観。
ガウディ自身が生前に言っていた言葉としてよく引用される「自然界には直線は存在しない」。
それからすると辻褄が合わない訳ですが、このカサ・ビセンスの制作後にガウディが更に進化し、最終的に彼が求めていた真理に到達したとも言えます。
ムディハル様式を模したと言われる部分も、その当時の建築家達がよく使った言わばありきたりの手法で特筆するものは何も無く、またその後に「自然が作りあげたものこそ美しい。私たちはそこから発見するだけ」と言ったガウディの言葉とも合致せず。
そういう意味で私たちが知っている天才ガウディ、その成長過程の中でも初期作品と言うのがよく分かる建物です。
あと、もう一つ他のガウディ作品との大きな違いとしては岩石風の壁にタイルが一部張り付けられていますが、それはガウディ建築の定番と言えるトレンカディス(破砕タイル)ではなく、同じ大きさ同じ柄のタイルで構成されています。
また、濃い朱色のように塗られたレンガの部分は少し雑にも見え、ガウディの最初の作品ということもあるのでしょうが、これもガウディらしさがあまり感じられず。
そんな中で敢えてこのカサビセンスでガウディらしさを探すなら、グエル公園の正門にも見られるシュウロの鋳鉄の門が唯一と言えるのかもしれません。
1階部分
入場して直ぐガイドさんから説明があり | また各フロアー毎にもそれぞれガイドがいます |
ここが食堂として使われた部屋 | テラスの日覆いは初めて見る独特のデザイン |
天井の細かな装飾を見ると、まるでカタルーニャ音楽堂を彷彿させます |
見学は一般入場とガイド付きツアーがありますが一般入場でも建物の外、また中の各フロアーにはそれぞれ専属のガイドがいて英語で説明をしてくれます。
建物の外観でも触れましたが、中もまたガウディ建築と言えるものは殆ど無くむしろガウディの建築学校時代の先生、カタルーニャ音楽堂で知られるドミニク・モンタネールの作品風と言えるかもしれません。
あと、建物の後方部分は1899年に所有者が変わり無名の建築家により増築された部分で、それらの部屋については特に見るものはありません。
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この後のガウディ作品に通じる部分は、当時男性の間と呼ばれる小部屋で天井の装飾は青を基調とした緻密の空間。 | |
イスラム建築の影響が強く感じらます | 当時ここで男性達がタバコをふかし雑談していました |
昔は今と違い、男性と女性とが同じ家の中でも別々の生活空間を持っていてその代表がこの男部屋で、当時は喫煙室として使われました。
天井にはグラナダのアルハンブラ宮殿へ行かれた方でしたら直ぐにピンと来る、あの緻密なイスラム建築様式を彷彿させる青を基調とした細かな装飾の造り。
尚、ここがカサビ・センスの中での一番の見どころなので、ベンチに腰をおろし時間をかけてじっくり見てください。
2階部分
1階にある男性の間の上、2階にあるのが女性の間。その天井には女性らしい絵が描かれています。 | |
夫婦の寝室。1階のダイニングと基本構造は変わらず | 壁に施された植物のデザイン |
パステルカラーのタイルの浴室 | これが昔使われていたトイレ |
邸宅の主のビセンス家は子供がおらず夫婦と養子に迎えた子供1人のわずか3人住まいだったこともあり、建物の内部はそれほど大きくなく、また部屋数も少ない造りとなっています。
さて、2階部分を見てみるとここがかつての生活空間で寝室を初め浴室などがあります。
注意してみると面白いのは、一番広い寝室の床のモザイクや壁の絵が左右別になっているのは夫婦の寝室が別々だったためです。
ところで日本から来られた方がよく勘違いされることですが夫婦仲が悪く別室になっていたと言う訳でなく、当時は夫婦の寝室がそれぞれ別なのが当たり前の時代背景によるもので、ガウディの初期作品の傑作と言われるグエル邸も同じ。
またこのフロアには1階の喫煙室、男部屋の代わりと言うべき女性部屋があり、それぞれの違いを見比べてみるのも面白いでしょう。
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3階は常設展示
常設展示ではガウディ直筆の手紙や建物の図面、使われたタイルなどが展示されています。 | |
模型で建設当時にあった門がここで再現されています | ガウディが描いた図面 |
スペイン語以外に英語による動画解説が見れます | 色々な資料が見れる液晶タッチパネルも完備 |
3階部分は、完全にリフォームされていて過去にはどんな感じであったか想像できませんが、ここは常設展示のフォロアーとなっていて、ガウディ自筆の手紙や建物の図面があります。
ただし、ここで展示されてものは全てコピーで、オリジナルは別の場所で保管されています。
あと、建設当時の模型からは今は無い門などがあり、現在の倍以上の広さだったことが分かります。
それ以降、ビセンス家の衰退と共に土地を切り売りしていくのですが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったブルジョアが後には時代変化に取り残され衰退していったその歴史と重なります。
尚、ここに展示物自体は少なく残念ながらそれほどに見応えはありません。
見学の最後は屋上
階段を上りつめると屋上 | 屋上の半分は歩いてみて回れます |
周りは建設当時無かった高いビルに囲まれてしまいました | 屋上から前の通りを見下ろす |
ネオムディハル様式と言えばそうですが、他の作品に比べるとガウディらしさが感じられない |
建物内の見学の最後は、階段を登り切った上にある屋上。
その半分は入ることは出来ませんが残りの部分を見て回ることができます。
カサ・ミラのあの煙突郡には程遠くまたグエル邸にも及ばない、別段見応えあるものではなく非常にシンプルなものです。
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ギフトショップ
見学最後はお決まりのショップ、地下へ行ってみましたが、このカサ・ビセンスならではと言うものは殆ど何もなく、デザインされた小物などは市内の他のショップで売られている物ばかりで見るのに10分もかかりません。
アクセス
旅行者には、これと言って何も他に見るものがない地区ですが最寄りのFontana駅ですが、アクセスは悪くありません | |
地下鉄駅は、出口が一つだけなので分かり易い | 駅の前の横断歩道を渡ってそのまま真っ直ぐ進むと |
100メートルほど先にT路地のココを右に曲がる | すると通りの先にカサ・ビセンスが見えます |
周りにはカサ・ビセンス以外には全く観光するスポットが無いグラシア地区。
最寄りの地下鉄はFontana駅①ですが、駅から徒歩ですぐと言うこともあり、市内の主な観光スポットからのアクセスは中心から外れてはいますが案外と悪くありません。
バルセロナの中心のカタルーニャ広場③からは3駅で約7分。
また、カサ・ミラ、カサ・バトリョがあるパセジ・ダ・グラシア駅②からは2駅で約4分。サグラダ・ファミリア駅④からは、一度乗り換えますが約10分。
グエル公園の最寄りとなるレセップス駅⑤までは一駅で2分といったぐあいで、他の観光スポットと併せて予定を組む上では便利と言えます。
チケットと入場
入り口は建物の裏になり、通りから見て右側の門がそうです | 入る際にチケットチエックがあります |
この通路を先に進むと | 係員がチケットのコードを読み込み、そして中へ進みます |
地下鉄駅からカサ・ビセンスへ着くと、建物の側面が目に入ります。
入り口が少し分かりにくいですが、右をみると小さな門がありそこから入場します。
事前にネットで購入した人はここで一度チケットを見せて下さい。
また、予約の無い人はそのまま奥へ進み、通路を曲がったところにレセプションの入り口があるので、中でチケットを購入します。
チケットはサグラダ・ファミリアなどの人気スポットに比べると、いつも空いているので余程のハイシーズンでなければ特に事前に買わなくても問題ありません。
事前予約は、かえって旅の日程時間に縛られるます。
なのでいつも空いているにも関わらず予約、それも公式サイトで無い業者サイトでの予約を勧める旅行ブログなどは、ただクリックで得られる小銭稼ぎに無責任に勧めているだけです。
もし予約されるなら、トラブル回避の意味からも必ず次のカサ・ビセンスの公式サイトでして下さい➡https://casavicens.org/
訪問動画
まとめ&アドバイス
未公開のガウディ建築と知られていたカサ・ビセンス。
長期に渡るリフォームを終え遂に一般公開が始まり早速訪れてみましたが感想としては、サグラダ・ファミリアを初めとするガウディ建築とは大きく異なります。
エキゾチックな外観こそ、それなりに見応えありますが特に建物の内部のインパクトが他のガウディ作品に比べ弱く、もし事前にガウディの作品と全く知らずに行ったとしたら
「これはドミニク・モンタネール?それともプッチ・イ・カダファルク?それとも?」
と思い兼ねない、誰の作品なのか正直分かりずらいものです。
もちろんガウディの初期作品を知ると言う意味での価値はありますが、ガウディ建築好きの誰もが認める主要作品の順位付けとして以下の様に最後の選択となります。
①サグラダファミリア
②グエル公園
③カサバトリョ
④カサミラ
⑤グエル邸
⑥コロニアグエル教会
⑦カサビセンス
特に初めてバルセロナに来られる方でしたら、短い滞在日数で時間を掛けてまで正直なところ別に来なくても良いでしょう。
ただし、既に他のガウディ作品を全て見たと言う方でガウディ好きな方にはお勧めです。
最後に。。
ネガティブな感想に終始した感がありますが、この建物に関してはピカソ美術館にある青の時代のピカソ作品と同じと考えることもできます。
皆が既に持っているイメージのピカソの代表作品と、バルセロナのピカソ美術館で見る彼の青の時代の作品とはなり作風が違います。
偉大な天才達も、人生の過程の中で作品の完成度高めていったことを知る機会を与えてくれるはずです。
また、カサ・ビセンス近く徒歩6分程にはMercat de la Llibertat(リベルタト市場)があり、周りは庶民的な地区。
観光スポットを追いかけるだけで、なかなか地元市民の生活を知る機会の無い日本からの旅行者には、散歩がてらに帰りに立ち寄ってみるのも面白いかと思います。
更に近くには、地元人気のレストランを始め、天皇陛下、アメリカ大統領も訪れたVIP御用達の海鮮レストランもあり、ランチに訪れてみるのもいいでしょう。
【リベタト市場】 庶民的なエリア、細い道が入り組んだグラシア地区にある市場は… |
【ピカソ美術館】 スペインが生んだ偉大な芸術家パブロ・ピカソ。1881年に… |
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【La Pubilla】レストラン 地元スペイン人に大人気にの定食屋さんは、ちょっと量が多いですがランチは常に.. |
【Botafumeiro】レストラン 天皇陛下、アメリカ大統領も訪れたことがあるバルセロナ屈指の高級海鮮は… |
お勧め度:★★★☆☆(2.9) |
住所 | Carrer de les Carolines, 18-24, 【地図はこちら】 |
URL | https://casavicens.org/ |
開館 | 10:00~20:00 (12月25日、1月1日、1月6日休館、それ以外はHPで確認) |
料金 | 一般:16,00 € (19.50€) 学生25歳まで : 14,00 € (17.50€) 66歳以:14,00 € (17.50€) 7~18歳:14,00 € (17.50€) 7歳未満無料 (無料) *()カッコ内はガイド付きの料金 |
最寄駅 | 地下鉄 L3 号線 Fontana(フォンタナ) 駅より徒歩4分(280メートル) |
記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。
この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。 記事最終更新 2022.12.08+ |
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