ガウディが54歳の時に設計し、1910年から2年かけ実業家のペレ・ミラとその妻ルゼー・セギモンの邸宅兼、集合住宅として建設されました。
カサ・ミラは他では見られない直線部分をまったく持たない建造物になっていて、壮麗で非常に印象的な建物です。
それはあたかも砂丘か溶岩の波のような雰囲気をもっており、一般的な現代建築の様式とは隔絶し、目抜き通りに建つ石切り場となっています。
目次
醜悪な建物と呼ばれ
建設当時のバルセロナ市民はカサ・ミラを醜悪な建物と考え「石切場(ラ・ペドレラ)」というニックネームをつけましたが、今日ではバル セロナを代表する歴史的建造物となっており1984年にユネスコの世界遺産にも登録されました。
尚、ガイドブックなどでは、あまり語られていませんが「サグラダ・ファミリア」同様にカサ・ミラはガウディ作品と完全には言い切れないところがあります。
それは1909年に起きた「悲劇の一週間」の事件を境にガウディがこの建築から手を引いてしまったことにより本来と違う形で完成され、規模、予算では同じグラシア通りに建っガウディ作の「カサ・バトリョ」を遥かに上回るにも関わらず評価が微妙に劣る大きな理由となっています。
【ミラ夫妻】 施主ペレ・ミラは名高い繊維業者の父を持ち、叔父はバルセロナ市長を務めると言うカタルーニャの名家出身。また、その妻ロゼ・セジモンは22歳年上の前夫の膨大な遺産を引き継いだ未亡人で、どちらもセレブ中のセレブ。二人は当時のバルセロナでは「目立つ家」が富豪のステイタスシンボルだったこともあり、巨額な費用を投じてガウディにカサ・ミラの建築を委ねました。 |
デザインの起源
ガウディは作品の中で常に自然界の動物や植物を手本にしていました。このカサ・ミラの場合もやはり、自然界の景色からインスピレーションを得たものと言われています。
ただ、ガウディは生前に多くを語らなかったこともあり、一体何にインスピレーションを得たとは未だに誰も確かなことは分からずじまいとなっています。
現在、推測の域を出ませんが専門家達によると上記4つあるうちの、多分どれかではないかと言われています。その一つは、バルセロナ近郊にあるカタルーニャの聖地のモンセラットの山。
二つ目はこれもバルセロナ近郊にある渓谷、サン・ミケル・デ・ファイ。あと、スペイン国外になりますがトルコのカッパドキア。そして最後は、その当時ヨーロッパで流行していた葛飾北斎の版画。
この4つのうち、日本人としては北斎であって欲しいと思いますが、当時モネ、セザンヌ、ゴッホなど名だたる巨匠が熱狂した浮世絵、当然ガウディも知っていたはずで、もしかしたらその可能性もゼロではないでしょう。
【モンセラット】★★★★☆ カタルーニャの聖地として巡礼が訪れ、また黒いマリア信仰のの地として… |
特異な外観
波打つ壁
カサ・ミラに来て最初に目に入るその姿は、周りに立ち並ぶクラシックな建物の中にあっては全く異質。
バルセロナ郊外のエル・ガラフで取れる石灰岩を使った外観は、石切り場と称されたのもうなずけるほど個性を発しています。ここでの見どころは直線を徹底的に排し曲線だけで構成される壁面と、一つ一つが異なり同じものが一つとしてないバルコニーの鉄の欄干、そのデザインです。
また、外壁部分でガウディらしさがよく表れているものとして、建物の正面にあたるグラシア通りの角にある幾つかのバルコニー。よく見ると、床に穴を開けてガラス床にすることで可能な限り自然光を下に通し明るさを保ちました。
尚、カサ・ミラは、同じガウディ作となる、カサ・バトリョの2軒分以上に相当する敷地面積があり、地下から屋根裏部屋まで8フロアー、更に当時バルセロナ初となる地下駐車場を備え合計の窓数は150、住宅としては他に類をみない大規模な建物でした。
また、建築費に至ってはカサ・バトリョの10倍にも達し、この場所がバルセロナで一番と言える一等地を占める事でも分かるように、建物のオーナーのミラ夫妻は当時バルセロナのブルジョワの中でも、トップクラスの資産家だったというのが分かります。
【カサ・バトリョ】 ★★★★★ 1877年にEmilio Sala Cortésによって建てられた建物を1903年から繊維業で… |
【グエル邸】★★★★☆ アントニ・ガウディの良き親友であり、最大のパトロンであった実業家エウセビ・グエル。 |
鉄を駆使した欄干
次の見どころとなる欄干を見ていきます。既に100年以上前に現在を先取りするかのごとくリサイクルが大好きだったガウディ。
彼の多くの作品の中で特に壁面を飾るモザイク、その制作に不要となったタイルや生活食器の皿やコップ、瓶などをよく利用しましたが、ここではバルコニーの欄干をリサイクル材料を使い制作しました。
欄干の制作においてリサイクルの材料となったのは、くず鉄でした。その内容は鉄板、鎖、鉄の網、鉄管、鍋などあらゆる種類のくず鉄を材料とし、裁断したり曲げたりして使用しました。
また、それらは溶接ではなく鋲止めと言う職人技術で膨大な手間が掛けられ、更に驚くべきは小さなものまで含めると合計で100近くある欄干が、どれ一つとして同じ物がないと言うことです。
欄干は海藻とよく例えられますが見ていくと抽象的な現代アートの様な装飾で、中に鉄で出来たリボンや鳩、人の顔、また一体何を表しているのか分からない物までさりげなく埋め込まれています。
これらはガウディ主導のもと実際のデザインや制作を行ったのは右腕と称され、ガウディ作品にはなくてならないジュゼップ・マリア・ジュジョールでした。
【ジュゼップ・マリア・ジュジョール】 建築家でアントニ・ガウディの協力者として家具デザインや絵画などの分野で才能を発揮した総合アーティスト。「彼はあなたの助手か?」と聞かれた際に「助手ではない兄弟だと」答えたと言う逸話も残るほどガウディの信頼が厚く正に右腕と言う存在でした。ガウディの裏方とし、顔に似合わずその天才的な色彩感覚はこのグエル公園のモザイクに遺憾なく発揮され、非常に大きな役割を果たしました。 |
見学スタート
カサ・ミラの入口は2か所あり、正面入口が「PREMIUM Tiket Office」プレミアムチケット入場口そして、正面右手の先に「With Ticket」オンライン予約済と「Without Ticket」当日券、それぞれのレーンから入場します
。上の写真を見ての通り、優先入場のプレミアチケットは一切待つ必要がありません。また、通常チケットでもオンラインで既に予約済みの方は、指定の時間に行けば待たずに入場できます。
当日券に関しては春から秋、年末年始などのシーズン中は長い行列に並ぶことになり、貴重な時間をむやみに浪費するだけですので、できるだけ事前に予約するようにして下さい。
オンライン購入のうち、プレミアと一般チケットの違いは、プレミアには日時の指定がなく開館時間ならいつでも入れて、時間に全く縛られないのが利点。ご自分の旅程に合わせて選ばれるとよろしいかと思います。
【カサ・ミラ予約方法】 オンラインによる事前チケット予約購入についてできる限り分かり易く説明しました。 |
入場受付
入場すると、まずネットで予約した控えを受付に見せます。そのあと隣にあるオーディオガイドの貸し出しカウンターへ行き「ジャパニーズ(日本語)」と言ってオーディオガイドが借りますが、これはもちろん料金に含まれています。
次に荷物検査が一応形だけですがあるので荷物を機械に通して前に進んでください。
建物の見取り図
カサ・ミラは同じガウディ作となるカサ・バトリョの2軒分以上に相当する広い敷地面積があるため入り口が2つあり、またパティオも2つ存在します。
右の②のパティオは横長の楕円形、左の①のパティオは丸に近い形になります。既に入場の項で述べましたが、プレミアムチケット保持者は上の地図の左角から入場。
それ以外は右の建物入り口の更に右に「一般予約・当日券」専用入り口があってそこから入ります。なので最初に見るパテイオはチケットの種類によって異なります。
尚、カサ・ミラは建物内の全てが見学できるわけではなく次の5ヶ所だけが一般公開されています。
・1階の中庭
・屋上
・屋根裏の回廊
・屋根裏の一つ下の階の住居スペース(借家人の家)
では、カサ・ミラの見学をスタートします。
吹き抜けの中庭
ここからは通常チケットでの入場と仮定して、進めていきます。
まず、荷物検査を済ませて中へ入ると、石切り場と揶揄された外観とは同じ曲線でもそこはまったく違った雰囲気をかもしだし、それはまるで深い海底にいるような感じ。
次にパティオから上を見上げると垂直にぎっしりと並んだ窓の集合体に圧倒され、更に上を見ると楕円に切り取られた空がぽっかりのぞいていると言う何とも不思議な光景です。
ヨーロッパ人の多くは、このポーチを中世のゴシック様式と感じるようです。日本人の私には九州の「軍艦島」の様な密集感を感じたり、映画「アルカトラズからの脱出」などをイメージしてしまいます。
また、上のぽっかり空いた穴から望む青い空は不思議な世界を醸し出していると言えば聞こえは良いのですが、見方によれば刑務所と紙一重と言えなくもありません。
このパティオには2つ階段があり、ハワイやバリのリゾートホテルのよな植物の生えている螺旋の階段が家主のミラ家専用。
また、パティはガウディが採光をより重視した為に屋根は取り付けられず完全な吹き抜けとなっていて、雨の日は容赦なくポーチを濡らします。なのでガウディによって階段の上には専用の屋根が取り付けられました。
建物の外に比べ中のポーチは人の目に留まらないこともあり普通は簡単に仕上げられているものですが、さすがガウディだけあって一切手抜きなし。
階段の欄干や窓の格子なども、きっちりと職人に作らせています。
今度はパティオの下部を見ていくと、そこは上部とは一転して華やかな世界が広がります。
シャビエル・ノゲスの絵はまるで印象派のモネが描いた絵を彷彿させます。
ただし、この部分は元々は破砕タイルを張る予定でした。それが、ガウディと施主のミラ夫妻との間に起きたトラブルによりガウディが途中でこのカサ・ミラの建築から手を引いてしまい計画が変更。その後にこの壁に描かれた絵に関しては、ガウディ作品ではありません。
屋上
屋上に出ると、光景が一転。山の稜線をイメージした床は高低差のある波打つ構造になっているのが分かるでしょうか?
これらは山の峰をイメージしています。
また、奇妙なオブジェのように見えるのは階段出口や煙突、換気口です。
奇妙なオブジェ群
ガウディの真骨頂、世界で一つしかない奇妙なオブジェが建つ並ぶ屋上。
左から巨大抹茶アイス、タコ星人、ダルマ!と思わず呟いた日本人いました。
では、ここでしか見れないユニークなオブジェを見ていきます。
まず、写真左上はキリスト誕生の際に聖書に出てくる兜を被ったローマ兵をイメージしたものと言われ、このデザインはガウディの死後に作られたサグラダファミリア受難の門にも使われています。
次に今から100年以上前に作られたと思えないファンタジーなオブジェが並び、その一つはリサイクルされた空ビンで装飾されています。ここでも、ガウディのエコ意識の高さがうかがえます。
【トレンカディスとは】 カタルーニャ語で破砕タイル又は破砕仕上げ全般を指す言葉。ですのでカサミラの場合に使われているリサイクル瓶も、タイルではありませんが一種のトレンカディスと言えます。元々は降雨から壁を保護する目的に始まり、次第に装飾するために利用され一種のモザイクとして使われました。ガウディ以外にもこの時代に活躍した他の建築家も多用し、数多く残るモデルニスモ建築に見ることができます。 |
登場人物たち
屋上に並ぶオブジェはよく見ると2つの種類が見てとれます。その一つは素焼きの鉢、テラコッタ風の防水モルタルで作ったオブジェ、そしてもう一つはトレンカディスと呼ばれる破砕タイルを全面に張り付けたオブジェです。
ではこれらの奇妙な像、登場人物とも言える面々を解説します。
まず煙突の総数30本、①ガラス瓶の破片を煙突の上にモザイクとして貼り付けたものと、もう一つは②鎧を被ったローマ兵とも呼ばれる煙突。
ローマ兵の煙突は単体で立っているものもあれば、2,5,6,7本とグループになっているものもあって、その配置も偶然なのか意図的なのか分かりませんが絶妙なバランスで立っています。
次に通気塔が2つあり、そのうち①はメビウスの輪を合わせたとも呼ばれるもので存在感は絶大。ダリのシュールレアリスムを彷彿させ、日本人には岡本太郎の作品に似ていると言う意見もあります。
②はゲゲゲの鬼太郎に出てくるお化けのようですが、キノコをインスピレーションしたもので開いている穴は女性を表しているとも言われています。最後は6つある階段出口のオブジェ。
どれも釣り鐘状になっていて①は焼き菓子のメレンゲ、それ以外は抽象的な人の顔で、その中でもこの後に述べますがサグラダ・ファミリアが見えるフォトスポットのオブジェは、通称 ”笑うブッダ” とも呼ばれるもので実際お釈迦様が屋上で楽しそうに笑っているように見えます。
ちなみに、カサ・ミラの屋上にまつわる都市伝説とも言える話があって、実はこの屋上では風の強い日には煙突に風がぶつかり、不思議な音が聞こえると言われています。
それを知っているのは長年この建物に住む住人だけだそうですが、一説には煙突を螺旋状の形状にすることにより屋上に吹く風の上昇気流が加速、煙突内部はその為に真空状態になり煙や空気を吸い上げる効果を産み出していると言われます。
実際にガウディがそれを計算していたのか定かではありませんが、本当だとするとそれは正に驚異的。
煙突に込められた意味
ガウディ建築にみられる特徴として、その奇抜な煙突があります。建物の中では脇役でどうでもいい存在のはずが非常に凝った造りが多く、ガウディは煙突にかなりこだわりを持っていました。
一説には、魔物が家に侵入する際に煙突こそが一番の弱点と言う意識が中世の昔から人々にあり、ここを守る意味で荒々しく武器の様に尖った煙突にしたり、このカサ・ミラの場合では兵士の顔になっていたりするのもその為です。
屋上の歩き方
エレベーターを降りたら赤線矢印通りに屋上をぐるっと一周するオーソドックスなコースで回りますが、下の360°カメラ画像で大体の配置が分かると思います。
また、各オブジェですが特に通気塔①などは見る角度によって全く違う印象になりますので、色々な方向からオブジェを見ると更に楽しめるはずです。
あと、お勧めと言う程では無いですが屋上からはバルセロナの目抜き通りのパセジダグラシアや周りのビルに住む住人の庭、オフィスなどが見えます。
また、カサミラの裏から碁盤の目に都市整備された内側が見え、それらは観光には関係ないかも知れませんが街歩きでは見れないバルセロナの市民の裏の生活が垣間見れて案外と興味深いかと思います。
まずは屋上360°画像
*画像は指、マウスでぐりぐり回せます。
三つのパティオ
屋上の開口部から下を覗きこむと建物内壁にぎっしり並ぶ窓、その下には1階の中庭が見えます。ここでよく注意して並んだ窓を見ると、階下へ行くにつれて窓が大きなサイズとなっていることに気づくはず。
これは意識的に、より自然光が取り込めるようにと言うカサ・バトリョでも使われたガウディならではの手法です。
また巣箱のような形の屋根裏部屋の窓は上下2列に並んでいますが、それぞれ微妙に大きさが違います。下の方の窓は上より大きく、それは屋根裏部屋の空間にできる限り自然光を入れるためです。
それぞれの窓は開閉することが出来、夏場は合計160ある上下の窓を同時に開けることにより中の温度を効率的に下げることができます。
余談になりますが、オーナーのミラ夫人は建築中に何度も費用やデザインに関してガウディともめたのに加え、出来上がったこの建物が大嫌いで夫の死後、屋上の一部を勝手に改装しました。
撮影スポット
屋上全体がフォトスポットと言えるカサミラですが、歩き回っていればこんな景色(写真左下)に遭遇するはずです。
奥に立つ白いタイルの階段出口のオブジェが通称 ” 笑うブッダ ” ともいわれる像で、その左手(写真上)から向こうに、なんとガウディの代表作サグラダファミリアが見えます。ここは、人気のフォトスポットですのでお忘れなく!
日本のガイドブックには書かれていませんが、バルセロナの後ろにそびえるティビダボの山。そこに建つサグラダ・コラソン教会もやはり階段出口の像の手の向こうに見えます。
場所はエレベーターから屋上に登って来て、最初に見る白い大きなオブジェがそれです。
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建物内部
屋上見学の後は屋根裏部屋、そして住居へと順に内部を見て回ります。
屋根裏部屋
屋上から降りて今度は屋根裏を見学します。
バスケットコート2面の広さを持つ屋根裏部屋は洗濯物を干す場所、使用人の作業場、また建物の温度を調整する機能を担っていた空間です。
尚、広いアーチ状の回廊が続くこのフロアーは現在「エスパイ・ガウディ」と呼ばれるガウディ建築に関する展示場となっています。見学を始めると最初に目に飛び込む天井を支えるアーチ。
それはまるで動物のあばら骨にも見えますが、これこそがこのフロアーの最大の見どころです。また、注目すべきはカタルーニャ地方でよく使われる通常の半分ほどの厚みの蒲鉾板のような薄いレンガ。
一見、きゃしゃに見えますが「カテナリーアーチ」と呼ばれる、特異なリブ構造が屋上を安定的に支えています。
カテナリー・アーチとは
二本のポールに張られた鎖のたわみがカテナリーアーチ | ロープのたわみ通りに切った型に積み木を載せる |
ロープや鎖などの両端を持って垂らしたときにできる、曲線をカテナリーと呼びます。因みに上下逆向きにした形状にすると全ての部材に均等に圧縮力がかかることになり、力学的に最も安定するため現在でもアーチ橋などに多く用いられています。
では実際にガウディは工事現場でどうやったかと言うと、まずアーチの起点となる2点を定め、そこにロープを張ります。次に、アーチの高さを決め垂れ下がるロープの下の頂点がその位置に来るように調節します。
出来上がった曲線の後ろに板を置いて、その曲線を筆などでなぞって板に移すことによって、重力と張力のバランスが完璧に取れたカテナリーアーチをゲット。後はその曲線通りに板を切り抜き、その上下を逆転させれば職人達がレンガをアーチ状に積んでいく基本になる枠が完成となります。
尚、ガウディはこのカサ・ミラの他にカサ・バトリョの屋根裏、サグラダファミリアの身廊など様々な作品でカテナリーアーチを使用しました。その理由としては安定した構造に加え視覚的にも美しく更にレンガ積みの構造は制作しやすく、また経済的な方法でもあったからです。
展示室を周る
屋根裏の回廊にはカサミラの模型をはじめとして、それ以外のガウディの資料が展示されています。
例えばサグラダファミリア地下の博物館に錘と糸を利用した有名な逆さ吊り模型がありますが、それがここでは糸の代わりに細いチエーンを使った模型が展示されています。
またその下に鏡がおかれており、逆さに見えるその姿はあのサグラダ・ファミリアそっくり。
展示されている模型は後から作った、ただの模型と言えばそれまでですが、ガウディは建築に当たっては図面より模型を重視し実際に幾つもの模型を製作し実験を重ねながら細部を詰めていくと同時に、新たなアイデアを得たりしていました
ポイントとしては、ガウディになった気持ちになって眺めてみると、展示物もまた違った見方が出来るかと思います。
このフロアーには、ガウディが設計した椅子も幾つか展示されています。ガウディは建築のみならず、デザイナーとしても優れ個性的な家具を残しています。
写真の②椅子はカサ・バトリョの建設の際にデザインしたもので二人用の椅子の間にひじ掛けを設け、それぞれの椅子が違った方向を向いているという何とも意味深な組み合わせはガウディ流のジョークでしょうか。
また①椅子は、椅子を引く際にちょうどいい具合に指が入る凹みが背もたれにあると言う、まるで小林製薬の様な痒い所に手が届くそのアイデアには脱帽です。
ちなみに、ガウディが制作した椅子は全て耐久性に優れ野球のバットでも知られるトネリコの木が使われています。
椅子以外にも家具はもちろん、それに付ける金具なども非常に凝ったものを残しています。
ガウディ作品のそれらどれにも共通しているのは自然界にある日常の生活で普通に目にしている植物や動物などをモチーフとし、デザインに生かしている点です。
尚、カサ・ミラの前のグラシア通りに敷かれている敷石もガウディのデザインですので歩く際には是非確認してみて下さい。
住居部分は平凡
カサ・ミラは現在も4世帯が住む集合住宅と言う珍しい世界遺産です。それ以外の部分はどうなっているかと言うと事務所、ショップ、カフェテリアなどになっています。
また家主であるミラ夫婦が住んでいた2階はエキシビション(特別展示会場)となっていて、不定期で色々な展示がされています。なので、住宅部分の見学可能なのは屋根裏部屋の下の借家人が住んでいた1フロアーのみ。
中はサロン、ベッドルーム、キッチン、浴室、またその時代に使用された家具などが置かれていて当時の生活を垣間見れます。
ただし、見学した多くの人が受ける印象はと言うと、奇抜な外観や、空まで突き抜ける吹き抜けのポーチ、インパクトあるオブジェが並ぶ屋上に比べるとずいぶんと平凡。
そこにはガウディらしさが殆どなく芸術性は皆無で、またブルジョアが住んだ豪邸と言うには明らかに質素で、スペインのどこにでもある小金持ちの家と言うところです。
ただこれには理由があって、それは既に述べましたが施主のミラ夫妻との間に起きたトラブルによりガウディが途中でこのカサ・ミラの建築から手を引いてしまっていたので、この住居部分にはタッチしていませんでした。
更にそれに加えオーナーが住んでいた2階フロアーとは違い、あくまでもここは賃貸物件であったことからシンプルな造りになっており、建物のオーナー家主が住んでいたフロアーが見学出来る「カサ・バトリョ」との大きな差となっています。
もう一つのパティオ
見学の最後は、グラシア通り入り口のパティオに降りて来ます。最初に見たパティオと同じ様に見えますが、よく見ていくと幾つか違いが見受けられます。
まず一つ目は空。
上を見上げると最初に見たパティオの空が楕円だったのに、ここは丸い円。また形だけで無く、大きさにも違いがありこちらの方がより小さくその分暗くなります。
次の違いは、オーナーのミラ夫妻の住居となっていた2階への専用階段。よく似た螺旋階段ですが屋根に違いがあります。
あと、このポーチでは建物への入り口の門を間近で見ることが出来ます。
ガウディ建築の特徴の一つとして鍛鉄を使い職人が手間を掛けて作ったっ素晴らしい、手すり、欄干、オブジェ、それらが見れます。
以上で、カサ・ミラの内部の見学は終わりになりますが、入場チケットにエキシビション(2階の特別展示)も含まれていますので時間があれば見て下さい。
エキシビション
展示はガウディとは全く関係ない写真展などがおこなわれています、なのでわざわざ見る必要はありませんがここに来て分かるのは今では家具も無く壁も取り払われ何も残っていない床面積1,323平方メートル、坪換算で400、畳を敷き詰めると800畳と言うこの広大なスペースにオーナのミラ夫妻が住んでいたと言う事です。
カサバトリョの10倍の建設費をつぎ込むことが出来た資金力なら贅を尽くした邸だったはず、もしここが残っていたなら屋根裏の下の階で見た借家人の住居と印象はかなり違ったはずです。
【プレミアチケットの注意点】
プレミアチケットで入場した人は最後に入場した時と同じポーチに戻って来るので、もう一つの横長楕円のポーチを見ないままに終わってしまいます。
二つに大きな差は無いのですが、せっかく入場したんですから両方見てはどうでしょう。売店に入る手前を左へいくとそこがポーチです。
売店
最後に、お土産を売っている売店ですが、カサ・ミラ内には2軒あって1軒は住居の見学できるフロアー、もう一軒は建物の一階部分のプレミアチケット入場口の右にあります。
一階の方が広くて買いやすいので、見学が終わった最後にゆっくりみて下さい。
尚、ここではバルセロナ他の観光スポットやデパートで買える共通のお土産物も多くありますので、ここではカサ・ミラと関係した物を選ぶと良いでしょう。
その他
ここからは、カサ・ミラの見学コース以外の裏からの眺めやカフェ、夜間入場のナイトツアーについても解説します。
無料で裏から眺める
カサ・ミラにお金を払って入場しても、どうしても見れないのが建物の裏。ほとんど知られていませんが、実は2軒隣のビルの中庭のテラスから見ることが出来ます。
しかも無料なので、興味のある方は覗いてみてはどうでしょう?。詳細は下のリンクから。
【カサ・ミラを裏から眺めれる穴場スポット】 日本人で知っている人はいないカサ・ミラを裏から無料で見える場所がここ….。 |
お勧めカフェ
カサミラの1階のプレミアチケット入場口の左にはカフェテリアがあります。中へ入って階段を上がると、こんな波打つ天井。
世界遺産の中でゆっくりお茶はいかがでしょうか?
値段もそんなに高くなく日本のスタバと同じぐらい。この界隈のどのカフェテリアより静かで落ち着いて、それを知ってか、ご近所のマダム達がよく利用しています。
【カフェテリア訪問記】 実際に中のカフェテリア「El Cafè de la Pedrera」でお茶をしてみました! |
ナイトツアーとは
カサミラの見学は日中以外にも、夜にナイトツアーで観ることもできます。
昼とはまた違った幻想的な景色が見れるので、時間と予算が許せば是非ご覧ください。以下、ナイトツアーと食事付ツアーの2つを検証して来ました。
カサ・ミラのトリビア
ここからはカサ・ミラにまつわる様々な裏話、雑学を述べていきます…
なぜか最安家賃
マンションとして建てられたこの建物ですが高額な家賃(当時の平均的月収の約10倍)と見た目の悪さから、なかなか借り手が見つからず家賃は3世代に渡り値上げをしないという条件で賃貸契約がなされ現在でも4世帯が実際に居住しています。
家賃は当時からほとんど値上げされず1200ユーロほど。
バルセロナのド真中、300㎡以上の広さ、しかも世界遺産と言う事で現在の家賃の相場ならその10倍、日本円で100万以上するとも言われています。
斬新な鉄材
ガウディ作品の殆どがレンガを積み上げる中世からの手法、組積造により建てられていますが、このカサ・ミラには当時としては極めて斬新な鉄が建材として使われています
それにより建物の負荷を支えていた従来型の壁を全て取り払うことが出来、各階の間取りを自由に変えられるいわゆるカーテンウオールを可能としました。
初の地下駐車場
オーナーのミラ氏はバルセロナ市長を務めていた叔父と共に自分でレースを主催する程の車好きだったと言う事もあり、バルセロナでも最初となる地下駐車場が建物内に作られました。
観光客に公開はされていませんが、現在は会議スペースとして利用されていて200人が収容でき程の大きさを誇ります。地下駐車場へのスロープがあって、2つあるどのポーチからもアクセスできるようになっています。
ガウディ最後の住宅
ガウディは生涯に幾つかの住宅を建てましたが、このカサ・ミラが最後になります。これ以降は未完となったコロニア・グエル教会、そして生涯をかけたサグラダ・ファミリアのみ。
ワンルームマンション
カサ・ミラのオーナのペレ・ミラの死後7年後建物は売却されましたが、購入した不動産業者により屋根裏部屋に新たに13の賃貸用の部屋、ワンルームマンションが増設されました。尚、1990年にそれらは全て撤去され現在に至ります。
時代最後の建築家
ガウディが生きた時代は建築材に大きな変化が起きそれまでのレンガや石を使った組積造から、鉄の建築材への利用、更にセメントとの併用など、バウハウスに代表されるようなそれまでの建築の常識を覆す出来事がありました。
そうした時代変化の中で、ガウディは言わば前時代の最期にいた建築家でもありました。
大ファンだったダリ
ダリは、このカサ・ミラのオブジェ群の大ファンで、また同時に大きな影響を受けました。カサ・ミラ屋上の写真を常に持っていたと言いますし、生前ダリがインタビューを受けた際には、ガウディとピカソの二人は数いる芸術家の中でも特別。彼らこそが本当の天才だと言っています。
筋金入の頑固者
カサ・ミラ工事期間中、施主のミラ夫妻とガウディとの間には争いが絶えませんでした。
理由は設計の変更や精度を追求するあまり、やり直しを繰り返し建設費が増大、建物の大きさが敷地の外まではみだしたため市役所との間に問題が起ったりと施主、特に夫人の怒りをかってばかり。
しかし、絶対に妥協しない筋金入りのガウディの頑固さもあって、最後は建設から途中で降りる最悪の事態にまで発展しました。
見所ムービー
アクセス方法一覧
【カサ・ミラ ➡ グエル公園シャトルバス乗り場】 | |
【カサ・ミラ ➡ カサ・バトリョ】 | |
【カサ・ミラ ➡ サグラダ・ファミリア】 | |
【カサ・ミラ ➡ カタルーニャ音楽堂】 | |
まとめ&アドバイス
ガウディの代表作の一つですが、カサ・ミラは通常の建築物というよりむしろ彫刻であるとの見方もあり実用性に欠けるという批判もありますが、誰の目にもその圧倒的な存在感を持つ建物を否定できないのは事実です。
あと、既に何度も述べていますが、惜しむらくはガウディが途中でこの建築から降りたことに尽きると思います。
外壁、ポーチ、更に屋上に関しては素晴らしいの一言に尽きるのに対して住宅部分は貧弱で、とてもガウディ作と言えず不満の残るところです。
特に建築に興味が無い方でしたら外からの見学dけで良いかも知れませんが、そうでない方は見る価値は十分にあります。特に屋上は必見、天才建築家だけでは語り尽くせないアーティストとしてのガウディの凄さを感じることが出来、あの鬼才のダリが大ファンだったと言うのもうなづけます。
あと、たまに聞かれるライトアップについてですが、サグラダ・ファミリアの様な必見とは全く言い難く、近くに夜たまたま来ていたら見る程度で十分です。
最後に。。
カサ・ミラの観光にかかる所要時間は、1時間が目安となります。
建築が好きな方、ガウディに強い思い入れがある方でしたら更にプラス30分~1時間というところでしょうか。写真が好きな方は結構大変です。理由は最近監視カメラが異常なほどに増設され、それが写り込んでしまう事が多々あります。
また消化器など余計な物が、所かまわず配置されていてもう少し、置き場所を考えられないものかと悲しくなりますが、お手数ですが色々とアングルを変えて頑張って良い写真をとってください。
【最後に…】
お勧め度:18点/20点 |
住所 | Paseo de Gracia, 92 【地図はこちら】 |
URL | https://www.lapedrera.com/en/home |
開館時間 | ~3/3 9:00~18:30、 3/4~11/1 9:00~20:30 ナイトツアー 21:00~23:00 *入場は閉館15分前まで |
休館日 | 12/25, メンテナンスのため2024年1月15日~1月21日 |
料金 | 大人€28 学生・シニア:€19, 子供7歳~17歳:€12.50 6歳以下は無料 オープンデイトチケット(日時指定無し)45€、 ナイトツアー39€ デイナイトチケット(日中と夜両方入場可)49€ ※当日窓口で購入する場合は3ユーロ加算されます |
最寄駅 | 地下鉄 L3 L5 号線Diagonal(ディアゴナル) 駅から徒歩1分 |
所要時間 | 1時間~1時間半 |
記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。 |
@
@ | この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。。 記事最終更新 2024.2.15 |
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