サグラダ・ファミリア教会は、スペインで最も有名な見どころとして、グラナダのアルハンブラ宮殿と双璧をなしています。実際、バルセロナに来る97%の旅行者が訪れる屈指の観光スポット。
ここでは、その見どころを旅行ガイドブックの数倍のボリュームで徹底的に解説します。
目次
概要
建築家アントニ・ガウディの代表的な作品として既に130年以上経ちますが、現在まで未だに建設工事が延々と続く教会として知られ、その途方もなさ、訳の分からなさ故に世界中から、さすがラテンの国スペインだと称賛されています。
さて、サグラダ・ファミリアの歴史を紐解くと、その起源は1866年、宗教専門書の店主で慈善活動家でもあったジュゼップ・マリア・ブカベリャが、バルセロナに聖ヨセフ信仰協会を設立した事が始まりとなります。
ほどなくして会長のブカベリャは、この会員の寄付を建設費に充てる事でキリストの聖家族に捧げる贖罪教会をバルセロナに建てる事を決意しました。
これがサグラダ・ファミリアの前身です。ちなみに、サグラダ・ファミリアは、ヨセフ、マリア、イエスから成る「聖なる家族」を意味する言葉です。
【聖家族】 キリスト教で幼児イエス=キリストと母マリアおよび父ヨセフの三人の家族、これが古来より家族の原形とされしばしば絵画や彫刻の題材として扱われて来ました。Sagrada Famíliaとはラテン語Sacra Familiaを語源とした、カタルーニャ語語です。 |
建設着工まで、その後約5年程の準備期間を経て1882年3月19日サグラダ・ファミリア教会の建設がスタートします。この際、初代の主任建築家には当時無名のアントニ・ガウディではなく、無報酬で設計を申し出た建築家フランシスコ・デ・パウラ・デル・ビリャールが就任。
当時、ビリャールが考案した教会は典型的なネオゴシック様式の教会で建物最大となる塔部分の高さでも85mほど。現在建設中のサグラダ・ファミリアの塔の高さが172.5mになる事を考えると、当時の建築構想は今よりもかなり小規模だったと言えます。
建築は着工後一年で主任建築家のビリャールと、建設アドバイザーを務めていたジュアン・マルトレイの間で建築材料を巡って意見が対立。
更に依頼人であるブカベリャが予算的な面からマルトレイの意見に賛同したため、結局ビリャールは建築主任を辞任、そして新たに2代目の建築主任として白羽の矢が立ったのがこの時、若干31歳のアントニ・ガウディでした。
ガウディ生前の間に完成したのは地下聖堂と生誕のファザードのみ、ガウディの死後にも工事は続けられはしましたが1936年のスペイン内戦の混乱を経たあとの予算不足や、100人の地元著名人が建設継続反対を訴えるなど様々なマイナス要因が重なり、サグラダ・ファミリアの建設はその後30年近くも滞ってしまいます。
そんな絶望的な状況により、当時は未完成のまま残して博物館にすると言う案もあったほどです。
21 世紀に入っても完成まであと200年はかかるだろうと言われながら、その後も細々と建設が続けられていましたがそんな中、転機となったのはグローバル化による観光客の爆発的な増加による入場収入です。
既にそれは建設資金の全てを蓄えたとも言われる程の潤沢な予算をもたらしてくれました。
2010年ローマ教皇ベネディクト16世によって「バシリカ」に認定するミサが執り行われたのを大きな契機に、ガウディ没後100年に当たる2026年の完成を目指し急ピッチで建設が進んでいましたが、新型コロナウイルスの影響を受けて現行の2026年からずれ込むことになりました。
完成イメージ
完成したらこのようになるそうです。ベージュ色の部分がすでに出来上がった部分。
クリーム色の部分が未完成の部分です。中心になる170メートルの最も高い「イエスの塔」をはじめ、まだ建設される塔がいくつか残っていて、2021年12月遂にマリアの塔(写真の一番右側の塔)が完成しました。
建設の歴史
工事の歴史で重要なものを幾つかここで述べると。
・1882年 工事開始の定礎が置かれる
・1913年 生誕の塔の高さが66メートルに達する
・1926年 ガウディが路面電車の事故により死去
・1933年 生誕の塔が完成
・1935年 スペイン内戦この後17年間にわたり工事停止
・1988年 彫刻家ジョセップ・マリア・スビラックスが工事に参加
・2010年 ローマ法王訪問。寺院からバシリカに昇格
当初は完成に300年はかかるとささやかれたサグラダ・ファミリアも、ようやく完成の目途が立つようになりましたが、サグラダ・ファミリア建設の歴史の中で一番暗雲が立ち込めたのが1935年からの内戦でした。
この時、建設を進める上で指標となっていたガウディが大量に残した図面、模型が殆ど消失破壊され、以降に作られた部分とガウディが作った部分に決定的な差がでることになりました。
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【ケルン大聖堂VS サグラダ・ファミリア】 サグラダ・ファミリアの工事が語られるときいつも話題になるのが、既に100年もの期間を要しているにも関わらず未完であることですが、実はこの信じられない長さもヨーロッパの大規模な教会建設ではごく普通なのです。ケルン大聖堂に至っては完成までに600年以上の歳月を要したほどで、それからするとサグラダ・ファミリアは完成まで400年工期が残されていると言えます。 |
感動のイメージビデオ
イメージCGには出てきていませんが、栄光のファサード側の道を渡ったブロックに本当の入り口が出来ることになっています。日本では全く語られていませんが、栄光のファサードの前の2ブロック(写真右下)のマンションの住人数百人が2026年に立ち退きさせられます。
そしてその後の更地にサグラダ・ファミリアの正面入場口が出来て最終的な十字架の形に完成(写真左右下、赤枠が現在の建物)となります。ですので本当の完成は2026年以降の何時になるか未だ分かっていません。
見学の基本
まず入場チケットはどの種類を選ぶかとなりますが、一生に一度の訪問なら悔いを残さないうえでも「入場+塔」へ登れるチケットをお勧めします。またその場合、オーディオガイドも付くので個人旅行で来られる方にはもってこいです。
次に見学時間の目安としては入場から生誕、そして受難ファサードと内部の見学、更に塔に登り、そのあと地下の博物館とお土産ショップを入れて約1時間半。
特に建築を勉強したとか思い入れがある方は、じっくり見学したとして大体3時間くらいが目安です。
見学の流れは、入場➡生誕のファサードの外観見学➡塔➡教会内部➡受難のファサード➡博物館➡お土産ショップ➡退場。
と言う感じになりますが、オーディオガイドを借り(左下写真)教会内に点在する案内番号順(右下写真)に進んでいくと見落とし無く回れるはずです。
もし、見落とした箇所をもう一度見たいという場合は、博物館の後にもう一度戻って見てから退場されると良いでしょう。
あと、教会の敷地の外にも写真スポット(リンクは下)などがあるので、入場前もしくは入場後にそちらの方へも行ってみて下さい。では、これよりサグラダ・ファミリアの見どころを解説していきます。
【予約方法】 サグラダ・ファミリの事前チケット予約購入の方法を徹底的に持てる力の限り説明します。 |
【サグラダ・ファミリア撮影ポイント4選】 バルセロナ観光の目玉、サグラダ・ファミリアに来たら思い出写真はここで撮ろう! |
生誕のファサード
サグラダ・ファミリア教会は別名、立体曼荼羅ならぬ‘立体聖書’とも呼ばれています。東側の生誕ファサードには、マリアの受胎告知に始まり、イエス・キリストが誕生し成長していくまでの各エピソードが彫刻によって表されています。
まずファサードには左から順に父ヨセフを象徴する「希望の門」、イエスを象徴する「慈愛の門」、母マリアを象徴する「信仰の門」の3つから成り立っています。ここでそれを更に詳しく見ていきます。
.① 【エジプトへの逃避行】ヘロデ王のイエス殺害計画を知り、幼いイエスを胸に抱いたマリアたちがエジプトへ逃げる場面。
② 【幼児虐殺】イエス・キリストの誕生を知ったヘロデ王は、王の座を失うことを恐れ生まれた幼児を見境なく殺すよう命じます。赤ちゃんを殺そうとする兵士に、母親がすがりつく場面。
.③ 【聖母マリアの載冠】キリストが聖母マリアに冠を授ける場面、その横(左下)はマリアの婚約者、夫にしてキリストの養父でもある聖父ヨセフ。
⑤ 【受胎告知】大天使ガブリエルが、マリアに神の子の母に選ばれた事を告げる、中世の西洋絵画で見かけるお馴染みの場面。
.④ 【ラッパを吹く天使】キリストの誕生を告げるラッパを吹く天使たちは、ガウディが実際に3人の軍人をモデルにして制作したと言われます。
.⑥ 【奏楽の天使たち】ファサードの正面左に3人、右に3人、合計6人の天使達が、それぞれハーブ、ファゴット、バイオリン、民族楽器を演奏している場面で、この幾つかの像は日本人彫刻家の外尾悦郎氏の制作によります。
.⑦ 【キリスト生誕】生まれたばかりのキリストの養父ヨセフと母マリアが見守る場面。
⑧ 【羊飼いの礼拝】最初に星を見て神の子イエスの誕生を知った羊飼いたち、彼らがベツレヘムに向かって礼拝する場面で、この羊飼いは神に対しての私達、民衆の姿を表していると言われています。
.⑨ 【聖母マリアの訪問】聖母マリアが神の子キリストを身籠もったことを伝えるため、従姉のエリザベトを訪ねている場面。
⑩ 【働くキリスト】大工である養父ヨセフを手伝って働く若きキリストの姿を描いた場面。
それぞれに意味ある彫刻
マリアの受胎告知に始まり、イエス・キリストが誕生の物語を示す像の数々を見た後は、次にファサードに埋め込まれた彫刻を見て下さい。
聖書の逸話や小さな象徴に込められた意味、それを予め知った上で見ると面白さがぐんと増すこと間違いなし。
では、ここでは主な8つを解説します。
① ファサード中央上部にある「生命の木」と呼ばれる糸杉にハトがとまっています。これは腐りにくい常緑樹である糸杉が永遠の命の象徴であり、ハトは神のもとに集まる信者たちを 表現しています。
またその頂上にある彫刻は、赤い部分がギリシャ語の「神」の頭文字であるT、その真ん中にある✖がキリストのシンボルである十字架、更にその上に止まっている鳩が精霊、これら全て合わせて聖三位一体を表しています。
尚、塔の側面に縦に開いた穴には瓦の様な石板が下向けにはめ込まれていますが、これは塔の中に設置された鐘の音が下の街に向かって響く様にしたものです。
【三位一体説】 キリスト教の根幹である、イエスの本姓についての見解で、「父(神)と子(イエス)と精霊」は三つの位格をもつが本質的に一体であるという説のことです。宗教改革後のプロテスタント諸派も三位一体説においては一致しており、キリスト教の最も重要な教義となっています。 |
② 次に「生命の木」の下にあるイエス・キリストを表すJHSの文字 。ファサードの端まで歩いて行って見上げないと確認できないのですが、そのJHSの文字の裏の十字架の両端にはギリシャ文字の「Α、Ω」が彫ってあります。
Aはギリシャ文字の最初の文字Ωは最後の文字、英語なら「A、Z」、日本語のひらがなで言うところの「あ、ん」。これすなわち最初と最後、この世の始まりと終わり全てを司るのはキリストだけと言うことを示しています。
尚この「Α、Ω」はガウディ作品の最高傑作と言われるコロニア・グエル教会をはじめ、モンセラット、その他の教会にも隠し文字のごとく、必ずどこかに埋め込まれているので興味ある方は探してみて下さい。
.③ 今度はJHS文字の下を見ます。すると岩が解けて垂れ下がった様に見えるのが実は氷柱(つらら)を表現しています。
理由はキリストが生まれたと言われる季節、冬を表現するためにこの生誕のファサードでは全体に氷柱があしらわれています。
.④ 次に氷柱から右に目を移すと、小さくほとんど誰も気が付く人はいませんが、手のひらとその中心に見つめる目があります。一見謎めいているこれは、聖書で言うところの導く手と全てを見る目です。
これが表しているものは何かと言うと、これこそが神の摂理と言われるものです。
⑤ 中央の愛徳の門、教会の入り口の上に立つのが、いわゆる東方の三賢人をキリストの元に導いたベツレヘムの星。またその星の下が流れ星の尾になる部分です。
.⑥ 次にその下を見ると、緑色装飾の入り口の扉があって、これは日本人彫刻家の外尾氏の作となりますが、ガウディとは全く関係なく氏のオリジナルで少し違和感があります。
.⑦ 3つある門、ファサードの中央に位置し愛徳の門の両端の柱、聖ヨセフの柱とマリアの柱を支えているカメは‘変わらざるもの’を象徴しています。
ちなみに、このカメ一見同じ様に見えますがバルセロナの海側に位置する聖ヨセフの柱を支えているのは海ガメで、山側に位置するマリアの柱を支えているのは陸ガメというガウディらしい凝りよ。サグラダ・ファミリアを実際訪れた際は是非その違いを確認してみて下さい。
⑧ 次に礼拝ファサードの両端にあるカメレオンの彫刻は「変化」を表し、‘変わらざるもの’を象徴する亀と対局をなします。
塔へ上がる
エレベーターで塔に登ると、中で係員から簡単な解説があります。エレベーターを降りた後に、更に少し階段を上ると街の半分が一望できます。
生誕のファサードにある数々のオブジェや彫刻が間地かに見ることが出来、棟内の階段はスリル満点。
百聞は一見に如かず、ネタバレなんて気にせず下の動かせる360°画像で実際に塔からの眺めをご覧ください。
Post from RICOH THETA. #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA
*画像をクリックすると生誕の塔上の360°画像が、ご自分で好きな方向に動かして見れます! |
螺旋階段
多くのガウディ建築の中で多用される自然をモチーフした造形作品。生誕のファサード、教会の裏側にあたる後陣のファサードで見る木や草、そして亀、蛇、トカゲ、カエルなどの動物。
この尖塔内の階段は巻貝の中の構造にヒントを得て造られたものです。
塔によって右巻きと左巻きがあり、その幅は非常に狭く降りて行く途中まるできりもみ状態に落下していく錯覚を覚えます。
【どちらの塔がお勧めか、徹底検証】 塔に登るなら生誕それとも受難側?それぞれの長所と短所は比較したその結果はいかに! |
受難のファサード
生誕のファサードを見た後は、今度は受難のファサードを見て行きます。
生誕のファサードとはスタイルが一変、この受難のファサードの彫刻はカタルーニャ出身の彫刻家ジョセップ・マリア・スビラックスによるものです。
日が沈む西に面した受難のファサードは、最後の晩餐から磔刑、そして昇天の場面までキリストの受難と死が一切装飾のないシンプルな現代彫刻によって表されています。
受難のファサードについて、一つづつ詳しく解説していきます。
見方としてはファサードの左下の最後の晩餐 ① から、「S」の字を描くように上にエピソードが進んでいくので、それを順に追って見ていきます。
① 【最後の晩餐】 キリストが処刑される前夜の最後の晩餐の場面は、数々の名画の題材にもなりました。その際の弟子たちの苦悩の表情を、ここでスビラックスは直線で描きます。
② 【16数字の板】 「ユダの接吻」の後ろに見える、合計16個の数字が描かれた一枚のパネル。
その4つの数字を縦、横、斜めいずれの組み合わせで足しても「33」となります。その数字はイエスの死んだ年齢の「33」を表しているのです。
③ 【ペテロの否定】キリストが捕らわれた後、弟子のペテロがキリストを知っていることを否定した場面。後ろの三人の女性が三度に渡り否定したことを表しています。
④ 【この人を見よ】鞭打ちの刑の後に、イリスと民衆の前にさらし者にされる場面です。
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⑤ 【イエスの裁判】ここで手を洗うのはローマ総督のピラト。自分の立場を守る為に無罪だと知りながらキリストの運命を決めることを放棄した場面です。
⑥ 【ロンギネス】キリストが磔になった際に、更に脇腹に槍で突き刺したとされる冷酷な兵士です。
⑦ 【ネガのレリーフ】十字架を背負わされ自ら歩くキリストに、汗を拭うよう布を差し出したヴェロニカ。その布にはなんとキリストの顔の跡が残ったという場面です。
ここでスビラックスは、ガウディへのオマージュとして、ローマ兵の仮面にはカサ・ミラの煙突を模した仮面をかぶせ、兵の左に立つ福音者はガウディその人を表しています。また地下の博物館にはモチーフになったガウディの写真が展示されていますので是非確認してみて下さい。
⑧ 【3人のマリアとキレの人シモン】倒れたキリストのそばで聖母マリア、クレオファスのマリア、マグダラのマリアの3人が嘆き悲しむ場面。そして右側にはキレネ人のシモンが、キリストが磔された十字架を今まさに担ぎあげようとするところです。
⑨ 【サイコロ遊びにふける兵士達】キリストが十字架に磔になっているにも関わらず、キリストから奪い取った衣服を賭けて兵士達がサイコロ遊びをしている場面。
⑩ 【キリストの磔】磔で死んだキリスト、その傍らにいるのはヨハネに慰められる聖母マリアとマグダラのマリア。キリストの足元の右には死を意味する頭蓋骨が置かれています。
.⑪ 【キリストの埋葬】ヨセフとニコデモが布に包まれたキリストを埋葬しようとしている場面。その後ろには、膝まづく聖母マリア。
⑫ 【鞭打ちのキリスト】受難の門の入口の前には、鞭打ち刑を受けるキリストの彫刻。その後ろに見える「福音の扉」には、キリストの生涯最後の2日間についての出来事が新約聖書より8,000文字が抜粋され、またその中でも特に重要な部分については金色の文字で書かれています。
受難の塔へ上がる
生誕のファサードと同じでこちらもエレベーターで塔に登ることが出来ますが、違いは生誕の塔よりさらに15メートル高い所まで行ける事。また工事が続く現場が眼前に広がり、リアルに現場体験できるのは興味深いところ。
重さに2トンにもなる、金色のキリスト像が鎮座する展望台渡り廊下も広くて生誕のファサードの様な窮屈さは無く、ゆっくり心置きなく見れます。
ピナクル(小尖塔)
塔の先端部分はピナクルと呼ばれるもので、そこには鮮やかなモザイク装飾が施されています。これには意味が込められていて上部から司教帽、杖、指輪が表現されています。
現在は生誕と受難それぞれ8本の塔と聖母マリアに捧げる塔のみが完成していますが、今後はマタイ、ルカ、マルコ、ヨハネの4本の塔、最後は最も高い塔となる170メートルのキリストに捧げる塔、合計18本が建つ予定となっています。
後陣のファサードと聖具室
ガウディは前任者が残した未完の地下聖堂を完成させると、次にガウディが建設に取り掛かったのがこの後陣のファサードです。デザインは基本的にはゴシック様式を模したもですが、ここにもガウディの独自性を見ることが出来ます。
特に壁に貼り付いている幾つものガーゴイルがそうで、従来のゴシック様式でも想像上の魔物が多く使われていましたが、ガウディは敢えて日常の自然の中で見られる動物や爬虫類、例えばヘビ、カタツムリ、トカゲ、カエル、巻貝、更にカメレオン、サラマンダーなどを用いました。
尚、ヘビやトカゲが下を向いているのは口から水を吐き出すと言う機能以外に、それはマリアのシンボルが放つ純潔から逃げる悪魔の姿を現しているとも言われています。
また、サグラダ・ファミリアから徒歩8分ほどにある世界遺産のサン・パウ病院の病棟の屋根にも多数のガーゴイルを見ることが出来ます。もしサグラ・ダファミリアの後に行かれる方は、その違いを是非比べてみて下さい。
ガーゴイルとは?
ガーゴイルとは西洋建築の屋根に設置される雨どいの機能を持つ怪物をかたどった彫刻のことを指します。雨の際は樋から伝わって来た水が最後に怪物の口から流れるように設計されています。諸説はありますが意味としては魔除け。
また逆に聖なる土地へ怪物が入れないことを示す為とされ、サグラダ・ファミリアの場合は聖なる教会内へ悪魔の侵入を防ぎ、サンパウ病院の病棟の屋根に幾つも並ぶ不気味な怪物をかたどるガーゴイル。
それは病で苦しむ人達のいる病棟へ悪魔の侵入を防ぐと共に、病の気を外へ吐き出すという意味で設置されています。
【サン・パウ病院】★★★★★ サグラダ・ファミリアから徒歩で8分程にある世界遺産は病院と言う… |
聖具室
後陣のファサードを更に見ていくと、その端に背の低いドームが建っています。この建物は宗教行事で使う様々な用品を収める聖具室で、12壁面からなるドーム。
現在1つのみですが2026年までにはもう一つ作られることになっており、後陣のファサードの左右の端にそれぞれが並びます。
尚、ドームの上のレリーフはイエス・キリストのシンボルである葡萄を摘む人と、民衆のシンボルである羊を表しています。
【迷える子羊】 新約聖書のマタイによる福音書にあらわれる言葉「迷える子羊」は、私達大衆を羊の群れの中からはぐれてしまった迷った子羊に例えたもので、それは人生の中で起きる色々な問題に直面したときにどうしてよいか分からず迷っている人達を指します。また、羊飼いはその子羊を正しい道に導いてくれる人、すなわちキリストを指します。 |
聖堂内部
教会を支える柱は4種類の石が使われ、天井近くに達するとそれらは枝を広げ、まるで木の葉が生い茂っている森のようです。
生前、建築は光を操ることと語っていたガウディが100年前に目指した自然の明るさに満ちた教会、上を見上げると木々の間から太陽の光が差し込み、それはまるで森の中にいるような錯覚に陥り、ガウディ作品の一つグエル邸のドーム天井をも彷彿させます。
【グエル邸】 ガウディのスポンサーでもあり友人でもあったグエル侯爵の自宅は旧市街の… |
ステンドグラス
一般的に教会の内部は薄暗いものですが、サグラダ・ファミリア教会の内部には大きなステンドグラスを通して陽の光が入り込むため、自然な明るさなのがとても印象的です。
生誕のファサード側は青と緑色(写真右)がメインの色となるステンドグラスを使い、バルセロナの海である地中海をイメージさせています。
そして、受難のファサード側(写真左)は主にオレンジとグリーンで構成されています。この2つのステンドグラスの違いは色の差だけかと思う人も多いのですが、それ以外に大きな違いを感じるのが午後です。
夕方になると西日を受け、まるで燃えるようなオレンジ。ごらんのように教会内一面が色の洪水に包まれます!お勧めは日の入り3時間前から、2時間前ぐらいの間の1時間が最も鮮やかになります。
バルセロナの各月の日没の平均時間は以下になります。日の短い冬の12月だと14時半頃、逆に日が長い夏7月だと18時半ぐらいからの1時間が目安になります。
天井飾り
サグラダ・ファミリア教会の主祭壇の天蓋飾り。
これ自体はガウディの作品ではありませんが、麦とブドウで飾られた天蓋は生前のガウディ作品の一つであるマヨルカ島のカテドラルの天蓋飾りを元に、彼の死後に作られました。
教会付属の学校
受難のファサードの横にひっそりと佇むこの建物は、ガウディがサグラダ・ファミリア教会で働く労働者の子供達のために教会の角地に建てた付属学校です。
地味で小さな作品ながらも天井を波のようにうねらすなどの工夫により、最小限の材料で最大限のスベースをガウディは生み出すことに成功しました。
尚、現在建つものは1936年の内戦で破壊された後に再建されたものです。
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地下博物館
少し入り口が分かりにくいのですが受難のファサードを出て左、付属学校の手前に地下博物館があります。
サグラダ・ファミリアの入場料にはこの見学も含まれており、建設当初の貴重な写真やガウディのデッサン、模型、資料などの展示、更には実際の建築に使う模型製作の工房を目の前で見ることができます。
展示の中で見逃せないのが、錘と糸を利用した有名な逆さ吊り模型。
カタルーニャの聖地モンセラットの奇岩をモデルにしたと言われるサグラダ・ファミリアですが、ガウディは設計にあたっては複雑な計算はおこなわず「フニクラ」と呼ばれる逆さ吊り模型を使い、自然な曲線に加え力学的にも安定した設計を達成しました。
尚、地下博物館に展示されている模型は、サグラダ・ファミリアの建設のテストベンチとなるプロジェクトとして知られるコロニア・グエル教会の構造実験に使われたものです。
ちなみにこの模型の制作にガウディは10年もの歳月を費やし、結局はコロニア・グエル教会が未完成に終わったその原因ともなりました。
「コロニア・グエル教会」 ガウディの最高傑作と呼ばれる教会は建築好きには根強い支持を得ています |
【モンセラット】 カタルーニャの聖地。奇岩の山に立つ教会の中黒いマリア様が願いを叶えてくれます。 |
売店(お土産)
お土産が買える売店は、2店あって一つは受難のファサード側、そしてもう一つは生誕のファサード側。博物館の最後の出口が生誕側の売店につながっているので、最後にそこで買い物するといいでしょう。
お土産はサグラダ・ファミリアだけでしか買えないものと、バルセロナの他でも買える物があるので、出来ればここではサグラダ・ファミリアでしか買えないものを選びたいですね。
無料ミサとガウディの墓
受難のファサード側の当日入場券売り場の左横には地下の礼拝堂の入り口があり、ここは無料で誰でも入ることができます。
ミサ以外の時間は閉鎖されていつでも入れる訳ではありませんが、年間300万人の観光客が訪れる喧騒の教会も、この地下の礼拝堂は別世界。
観光客しかいない上の教会と違って、本当の地元の信者の人達がお祈りしています。また、礼拝堂にはガウディのお墓があるので、時間があれば入場前にお参りしてみてはいかがでしょうか。
ミサ参加アドバイス
例えば朝一にサグラダ・ファミリアへ行かれる方でしたら、8:30に地下礼拝堂へ入って内部のガウディのお墓などを見学します。
その後、9時からミサが始まりますがスペイン語のミサを聞いても分からないでしょうし、キリスト教徒で無いなら、ミサが始まる前に信者さん達の礼拝の邪魔にならない様に退出してしまいましょう。
礼拝堂から生誕のファサードまでの移動時間を5分と仮定して、朝一9時のサグラダファミリアの入場に余裕で間に合います。
*地下礼拝堂に入れる時間は朝は8:30~10:30 夕方は18:00~21:00
インターナショナルミサ
毎週、日曜日に無料で入場できるインターナショナルミサがあります。
時間は午前9時から10時までの1時間、観光客はもちろんキリスト教徒で無くても誰でも参加できます。
尚、この入場はミサ、礼拝の為に特別に入場できるもので観光目的で見て回ることは一切できません。
ミサの時間中は席から動けませんし、教会入場(8:00)後はは速やかに着席、そして終了(10:00)後は速やかに退場をさせられます。
ミサ参加アドバイス
ミサに参加できる人数は800人と制限されていますので、日によっては満席で入れない場合があるのでなるべく早く着くようにしてください。
サグラダファミリアをしっかり見学したい人には、塔には登れない、博物館には入れない、オーディオガイドの利用も出来ない、自由に歩くことは許されないので全くお勧めするものではありません。
取り敢えず無料で中を見たいが、お金は使いたくないと言う方にのみ利用価値があるかと思います。
注意点としては、早めに着いて行列に並ぶので合計で約三時間ほどかかり、その間ずっと拘束されます。
あと、ホテルからは早朝の地下鉄利用となると思いますが、週末の早朝は利用者が少なく治安の面で十分注意が必要です。
アキモト&カミムラの包み隠さずの検証レポートは第154回HILLチャンネルでも見れます。
夜景(ライトアップ)
日中の観光だけでサグラダ・ファミリア教会を見終えたと思っていませんか?実は夜景を見てこそのサグラダ・ファミリアなのです。
ちなみに、日中は観光客で溢れるサグラダ・ファミリアもライトアップされた夜は未だ観光客にはよく知られていないので、昼に比べ落ち着いて鑑賞できます。
日中、太陽の光の中でみた教会とは違った迫力、それはまるでひとつの有機体のような不思議なエネルギーを感じます。
尚、ライトアップは生誕のファサードがメインで、受難のファサードもライトアップはされてはいますがライトの色のせいもあり残念ながら人気はありません。
ガウディ語録
ガウディが生前に残した言葉をまとめ紹介してみます。
それぞれの言葉の意味を解説はここではしませんが少しだけ述べると、一見だれの目にも奇抜でとんでもない印象を受けるガウディ作品ですが、実際は非常にシンプルな考えを基に造られたと言うことです。
それを表す言葉として「創造的たろうとして脇道にそれてはならない。通常なされていることを観察し、それをより良くしようと努力すればそれでよい」。
以下、20のガウディの言葉を思い出しながら実際にその作品を見ると、一段と理解が深まるはずです。
- オリジナリティーには起源に戻るという意味がある。オリジナルとはもともとの解決策であるシンプルさに回帰することだ。
- 物事を上手くやるために必要なこと。第一に愛、第二に技術。
- 世の中に新しい創造などない。あるのはただ発見である。
- すべての建築にはヒビがある。またすべての人間に罪があるように、大切なのはこれを致命傷にしないことだ。
- 自然界には直線は存在しない。直線は人間に属する。曲線は神に属する。
- 全ては、自然が書いた偉大な書物を学ぶことから生まれる。人間が造る物は、既にその偉大な書物の中に書かれている。
- 創造的たろうとして脇道にそれてはならない。通常なされていることを観察し、それをより良くしようと努力すればそれでよい。
- 美しい形は構造的に安定している。構造は自然から学ばなければならない。
- 創造的であろうとして意味の無いものを付け加えてはいけない。自然の原理をよく観察しそれをよりよくしようと努力するだけでいい。
- 役に立たない人なんていないということを覚えておかないといけない。たとえ同じ能力がなくても誰だって役に立つんだ。
- 建築とは光を操ること。彫刻とは光と遊ぶことだ。
- 世界では何も発明されてないんだ。発明家の幸運は神が全人類の目の前に置いたものを見たにすぎない。
- 人間は決して自由な存在ではない。しかし、人間の意欲の中には自由が存在する。
- 人間の作るものが神を超えてはならない。だからサグラダ・ファミリアは高さ170mで、ムンジュイックの丘より3m低くなっている。
- 私の親友たちは死んでしまい私には家族も、客もいないし、財産もなにもない。だから私はサグラダ・ファミリアに完全に没頭できるんだ(晩年)
- 建築に使われる色は強烈で、論理的で、肥沃でなければならない。
- サグラダ・ファミリアの工事はゆっくり進むんだ。私のクライアントは別に急いではいない。
- 未来の建築は自然のイミテーション(真似)に基づいたものになるだろう。なぜならあらゆる手法の中でそれが最も合理的で、長持ちし、経済的だからだ。
- 芸術作品というのは誘惑的なものじゃないとならない。また、オリジナルすぎても誘惑の度合いを失ってしまい、それは芸術作品ではなくなってしまう。
- お互いを補い、修正する振り返りと行動を交互に使い分けることが必要で、前進するためにも行動と振り返りの二つの脚が同じく必要。
知られていない事実
世界遺産は一部のみ
サグラダ・ファミリアは2005年、ユネスコの世界遺産に登録されましたが未完成の建造物が建設途中に世界遺産に登録されたのは、このサグラダ・ファミリアが初めてです。
ところで皆さんは、サグラダ・ファミリア全体がひとつの世界遺産だと思っていませんか?
実は世界遺産に登録されているのは、ガウディが携わった教会の中で最初に建設された地下礼拝堂と生誕のファサード(門の表面と塔)だけです。
もちろんいずれ教会が完成したあかつきには建物全体が世界遺産になるとは思いますが、ただガウディの死後に造られた部分と更にこれから完成までに造られる部分に関しては芸術性ならびに建築物としての価値が低いとの意見もありどうなるか微妙なところです。
地元民からの反対
ここでは日本人が知らない、決してガイドブックでは語られない、現在進行中のサグラダ・ファミリアの建築に対して様々な批判、負の部分も敢えてここで語ってみます。
バルセロナ住民でサグラダ・ファミリアを完成を本当に待ちわびている人は僅か。教会とは名ばかりの観光スポットのサグラダ・ファミリアに殆どの市民は興味が無いのが実情で、特に教会に隣接する住民にとっては迷惑以外の何物でもないと言うのが悲しいですが裏の事情となっています。
イタリアと並び敬虔なカトリック教徒が大半を占めたそんなスペインも今や昔。教会のミサに来るのはお年寄りがその殆どで、その数も僅か。年齢が50,60代のスペイン人の友人でさえ、子供の頃に行ったきりもう何十年もお祈りに教会なんて行っていないと平気で言い切るこのご時世。
そんな人々の心が離れていってしまったことなどものともせず、法外とも言える高額な入場料収入を原資に、ただひたすら作り続ける本末転倒のサグラダ・ファミリア教会とは一体?
日本で新たに、神社やお寺(新興宗教除く)が作られないのはなぜか?結局のところ、それはスペインも同じです。実際に地元スペイン人達からも、150年前に計画された教会は今では、時代の置いてけぼりでしかないと言われています。
建築、芸術への批判
元々、詳細な図面を書くより石膏模型を使ってギリギリまで変更を加えながら最終的な形を決めていくという、いわば設計と工事を同時に進めるのが、このサグラダ・ファミリアに限らずガウディの手法だったわけですが、亡くなった10年後に起きた1936年内戦で元々多くはなかったそれら資料の殆どが消失。
それ以降は僅かに残った資料を元に、後の建築家達が想像しながら作って来ました。ただこれに関して昔からあったのが、地元芸術家や文化人による大きな批判です。
批判の理由の一つに、それはこれまで日本から来られた旅行者の多くの方も感じたあの違和感。ガウディが生前造った生誕のファサードと、それ以外の部分があまりにも違うことです。
特に受難のファサードをデザインしたスビラックス氏に対しては、過去には市民の反対デモも起きた程。結局のところ天才ガウディの建築を受け継いだのが凡才の建築家達、凡才の彫刻家達(外尾氏も残念ながら作品レベルが低くそれに含まれると言われています)だった事が、何よりもサグラダ・ファミリアの不運でした。
ただ一方ではその2つの違いがコントラストとなって、ガウディの偉大さがより鮮明に分かると言う意見も一部にはあります。
また、21 世紀に入っても完成まであと200年はかかるだろうと言われながら、建設がピッチで工事が進む様になった理由として大きかったのは技術の簡略化。
ガウディ本来の緻密な組積構造による建築様式を捨て去り、近代的で安易な鉄筋コンクリート、鉄骨並びにプレハブ構造に変更。更に3DプリンターやIT技術まで導入したとは聞こえが良いですが、結局は手抜。
これらにも大きな批判があり、特に世界中のプロの建築家からのブーイングは留まるところを知りません。
以上の様な理由でガウディ死後、今も続く建築については最終的に世界遺産から除外すると言う話もあります。
【最後に…】
フォトムービ
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【サグラダ・ファミリア ➡ グエル公園シャトルバス(運休中)乗り場】 | |
【サグラダ・ファミリア ➡ カサ・バトリョ】 | |
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【サグラダ・ファミリア ➡ カタルーニャ音楽堂】 | |
サグラダファミリア➡グエル公園
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お勧め度:20点/20点 |
住所 | Carrer de Mallorca, 401 【地図はこちら】 |
URL | http://www.sagradafamilia.org/en/ |
TEL | 935 13 20 60 |
開館時間 | 4~9月:(月―土)9:00~20:00、(日)10:30~20:00、10月・3月:(月―土)9:00~19:00、(日)10:30~19:00、11月~2月:(月―土)9:00~18:00(日)10:30~19:00 1/1、1/6、12/25、12/26:9:00~14:00 |
料金 | 入場のみ:26€ 入場券+オーディオガイド+塔のエレベーター:36€ |
最寄駅 | 最寄り駅:地下鉄 2 5 号線サグラダ・ファミリア(Sagrada Familia)駅下車すぐ |
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@ | この記事を書いた人:カミムラ 生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。旅行代理店オフイス・ヒルを立ち上げ、観光情報サイト「バルセロナウォーカー」にて旅行者に役立つ情報を発信しています。 最終更新 2023.10.18 |
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