
ガウディの初期代表作の一つとして知られるグエル邸。
サグラダ・ファミリアやカサ・バトリョのような派手さはなく、ガウディ作品の中では比較的落ち着いた印象の建物です。そのため観光客の人気ランキングでは上位に挙がることは多くありません。しかし、旧市街の狭い路地にひっそりと佇むその姿には独特の魅力があり、ガウディ建築の原点を知る上では見逃せない作品の一つです。
この記事では、グエル邸の歴史や見どころを、初めて訪れる方にも分かりやすく解説していきます。
目次
概要
アントニ・ガウディの良き理解者であり、最大のパトロンでもあった実業家エウセビ・グエル。バルセロナ最大の繁華街ランブラス通りの近くに建つこの邸宅は、ガウディがグエルから依頼を受けた「グエル別邸」に続く二つ目の大規模プロジェクトでした。
後に民間人としては異例の伯爵位を授与されるほどの成功を収めたグエルにとって、この邸宅はその地位と財力にふさわしい住まいでした。一方、若きガウディにとっても、自らの建築理念を存分に発揮できる絶好の舞台だったと言えるでしょう。
ガウディは4年の歳月をかけて設計と建設に取り組み、1888年にグエル邸を完成させます。完成後、その出来栄えを大変気に入ったグエルは、当初は別館として利用する予定だったこの建物を主な住居とするほどでした。
グエル邸はガウディ初期の傑作であると同時に、その後の代表作へとつながる数々のアイデアや技法が凝縮された作品でもあります。敷地面積は約500平方メートルと決して広くありません。しかし、地下1階・地上4階からなる建物の内部には、外観からは想像できないほど豪華で華やかな空間が広がっています。
さらに注目したいのは、その美しさだけではありません。グエル一家の生活様式まで考慮して設計された内部構造は非常に機能的で、ガウディの建築家としての力量を感じさせます。なお、1984年にはカサ・ミラやグエル公園などとともに世界遺産に登録されました。
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キューバで財を築いた父がバルセロナで始めたビジネスを更に発展させ、繊維業を初めとして銀行、タバコ会社、セメント会社など経営し当時の地元経済界を代表する実業家。また政治家としてスペイン上院議員、カタルーニャ文化の後援者としても知られ、後年には民間人から貴族(伯爵)にも列せられました。 |
外壁(正面)

2つのカテナリーアーチとそれを覆う鍛鉄の重厚な扉

設計段階でガウディは20案以上のファサードを考案しましたが、最終的にグエルが選んだのが現在のデザインです。
当時、この周辺はランブラス通りに近い便利な立地である一方、決して治安や風紀が良い地区ではありませんでした。そのため、周囲の建物との差別化を図る意味もあり、当時のブルジョアの邸宅の中でも特に威厳を感じさせる外観が採用されたと言われています。
ただ、その重厚なデザインゆえに、カサ・バトリョやカサ・ミラのような華やかさや奇抜さはありません。そのため、初めて訪れた方の中には少々地味な印象を受ける人もいるでしょう。グエル邸の正面ファサードでまず目を引くのが、二つの巨大な放物線アーチと、その内部に設けられた鍛鉄製の大扉です。
当時のバルセロナでは前例のない規模だったこの格子扉は、中央部分だけ格子を細かくすることで、外からは内部が見えない一方、内側からは通りの様子を確認できるよう工夫されていました。現代で言えばマジックミラーに近い発想です。
なお、中央の小さな扉は人の出入り用で、馬車が出入りする際には左右の大扉が開閉されました。さらに注目したいのが、アーチ門の両端に隠された蛇のモチーフです。
キリスト教では、脱皮を繰り返す蛇は復活や再生の象徴とされることがあります。左右の端から伸びた蛇は格子を伝うように上へと進み、とぐろを巻きながら中央上部のグエルのイニシャル「E」と「G」の付近で出会うようにデザインされています。
不死鳥、兜、旗

不死鳥、兜、カタルーニャ州旗の三つから構成されるオブジェ

グエル邸の正面ファサードで最も注目したいのが、中央上部に設置された不死鳥のオブジェです。これは当時の鍛鉄工芸技術の粋を集めた作品で、鉄を叩き、切り、曲げるという工程を繰り返しながら、すべて職人の手作業によって作られました。
さらに驚かされるのは、その構造です。数百にも及ぶ小さな鉄片を組み合わせていますが、現代のような溶接ではなく、一つ一つを鋲(リベット)で固定する伝統的な工法が用いられています。近くで見ると、その緻密な作り込みと圧倒的な手間に驚かされることでしょう。
華やかな中央ホールや屋上煙突に目を奪われがちなグエル邸ですが、正面ファサードを見学する際は、この不死鳥のオブジェにもぜひ注目してみてください。ガウディと職人たちのこだわりが凝縮された、ファサード最大の見どころの一つです。
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【鍛鉄(たんてつ)】 英語でロートアイアンと呼ばれる金工技法の一つで、古くからヨーロッパなどで建造物に使われてきました。 |
| 鍛鉄は熱した鋼材をハンマーを使い叩いて形を整えながら、打ち目を付ける、束ねる、巻く、ねじる、潰す、のばす等して鉄ならではの重厚感ある表情を引き出すことができます。身近なところでは日本刀にもこの鍛鉄が使われていて刀鍛冶の技法が正にそれです。 | |
見学の開始

入口でチケットを提示すると、まずは簡単なセキュリティチェックを受けます。そのすぐ横には上階へ続く立派な階段があり、つい上りたくなりますが少し我慢してください。
グエル邸の見学は自由見学ではあるものの、建物の構造やガウディの意図を理解しやすいよう、基本的には決められた順路に沿って進むのがおすすめです。見学は以下のルートで進んでいきます。

地下厩舎へ

見学は馬車置き場(Coach House)から始まります。ただし、見学ルートの最後に再びこの場所へ戻ってきますので、ここで足を止めず、まずは最初の見学ポイントである地下へ向かいましょう。
地下へ続くスロープ状の通路は、かつて馬車から外された馬が厩舎へ移動するために使われていたものです。現在は見学者用の通路となっていますが、当時の用途を知ると見え方も変わってきます。また、途中には吹き抜け状のポーチがありますが、これは単なる装飾ではありません。地下にある厩舎へ新鮮な空気を送り込む換気設備として重要な役割を担っていました。
グエル邸は華やかな装飾に目が行きがちですが、このような実用的な工夫にもガウディらしさを見ることができます。
柱が並ぶ地下

グエル邸全体を支える大きな柱が並びます。その数合計21本

ここでの最大の見どころは、重厚なレンガの柱と、それらを結ぶアーチが織りなす独特の空間です。建物の床を支えるアーチには、カタルーニャ地方の伝統工法である「カタラン・ボールト」が用いられており、地下全体にまるで洞窟のような陰影の世界を作り出しています。
この厩舎のデザインには、キリスト教文化とイスラム文化が融合したムデハル様式の影響を見ることができます。後年、ガウディが手掛けたコロニア・グエル教会の地下礼拝堂にも通じる要素であり、若き日のガウディが後の作品へとつながる試みを行っていたことが分かります。
ところで、屋敷の中に厩舎があると聞くと馬の臭いが気になるかもしれません。しかしグエル邸では、建物全体に巧妙な換気システムが組み込まれており、臭いがこもらないよう工夫されていました。華やかな装飾ばかりが注目されがちなグエル邸ですが、このような実用面への配慮も見逃せません。
なお、地下へのアクセスは馬用のスロープだけではありません。玄関ホールの階段下には、人が利用するための急勾配のらせん状スロープが設けられており、一本の柱を取り巻くように地下へと続いています。
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【ムディハル様式】 スペインの建築様式の一つで、中世にキリスト教徒とイスラム教徒が共存するという環境下でイスラム建築様式とキリスト建築様式が融合したスタイル。 |
| 特徴としては建物の壁面に幾何学文様の装飾を施しているなどがあります。ガウディの最初の住宅建築と知られるカサ・ビセンスにそれが見られます | |

地下室では、柱に取り付けられたユニコーンの頭を模した金具を見ることができます。また、ポーチの壁や柱には、犬の頭をデザインした馬つなぎ用のリングも残されています。こうした細かな装飾からも、ガウディが実用品にまで意匠を凝らしていたことが分かります。
また、地下室の一角では、当時のバルセロナの街並みや社会の様子を紹介する映像が上映されています。グエル邸が建てられた19世紀末の時代背景を知ることで、この邸宅がどのような環境の中で生まれたのかがより理解しやすくなるでしょう。時間があれば、ぜひ腰を落ち着けてご覧ください。
地階(一階)
地下を見学した後は、再び地階の馬車置き場へ戻って見学を続けます。かつて馬車置き場として使われていた空間です。
現在で言えば自動車の駐車場にあたる場所で、豪華な居住スペースとは対照的に比較的シンプルで、一見すると広々としただけの場所に見えますが、実は見どころも少なくありません。
馬車置き場

まず注目したいのが、鍛鉄とタイルを組み合わせた梁の構造です。
また、ガウディ作品の多くがレンガや石を積み上げる伝統的な「組積造」で造られているのに対し、グエル邸では当時としては最新の建材だった鉄が積極的に使用されています。こうした技術的な挑戦も、この建物の特徴の一つです。
さらに天井には清掃しやすいタイルが張られています。これは馬が頻繁に出入りする場所であることを考慮した実用的な工夫でした。そして床にも注目です。馬の蹄の音が邸内に響かないよう、通路部分には松材の木製ブロックが敷き詰められ、騒音を和らげる工夫が施されています。
上階へ続く階段の裏手には、地下の厩舎へと続くらせん状の通路があります。馬車の御者はここを利用して地下へ降り、馬を連れて再び地上へ戻っていました。グエル邸は豪華な装飾に目を奪われがちですが、この空間からはガウディが実際の使い勝手まで徹底して考えていたことがよく分かります。
玄関ホール

玄関ホールを左横から見る

馬車置き場を見学した後は、いよいよ上階へ向かいます。ただ、その前に少し周囲を見回してみてください。玄関ホールと馬車置き場の間には頑丈な扉が設けられており、さらに上を見上げると鉄格子のはまった窓を見ることができます。
これらが意味するのは、この空間が邸内でありながら、まだ完全な居住空間ではなかったということです。言い換えれば、外部からの侵入に備える必要がある「玄関エリア」であり、家の中と外の境界に位置する場所でした。
また、上階へ向かう階段の左側には小さな階段があります。これは馬車から乗り降りする際のステップとして使われていました。
さらにその下にある石の出っ張りにも注目です。これは馬車の車輪が通路の縁石や壁に接触しないよう保護するための車止めで、現在の駐車場で見られるガードと同じような役割を果たしていました。
こうした細かな部分にも、グエル一家の日常生活を支えるための工夫を見ることができます。
玄関から中二階への階段

大理石の柱が並ぶ正面玄関の階段を上ると、その先にはカタルーニャ州旗をモチーフにした鮮やかなステンドグラスが現れます。そこからは、実業家として成功を収める一方で、カタルーニャ人としての誇りとアイデンティティを大切にしていたグエルの思いを感じ取ることができます。
また、このエントランスを彩る大理石の柱や階段をはじめ、邸宅内には様々な色合いの大理石や天然石がふんだんに使われています。これらの石材は、すべてグエルが所有していた採石場から運ばれたものです。建築に惜しみなく最高級の素材を投入できたことも、グエル邸がこれほど豪華な空間となった理由の一つでした。
中二階

中2階には、グエルの書斎や図書室、事務室が置かれていました。この階は地上階と上階のメインフロアの中間に位置しており、どちらにも素早くアクセスできることから、邸宅の管理や来客対応を行うのに便利な場所だったと考えられています。
しかし、ガウディは単に実用的な空間としてだけではなく、この階を訪問客の気持ちを高めるための「移行の空間」としても設計しました。地上階から徐々に豪華さを増しながらメインフロアへ導くことで、その先に待つ中央ホールや応接空間の印象をより強く演出しようとしたのです。
また、多くの見学者が見落としてしまいますが、木製の格子戸の中央部分にはさりげなく覗き窓が設けられています。来客の様子を確認するための実用的な工夫であり、こうした細部にもガウディらしい配慮を見ることができます。
なお、中2階にはこの他にも複数の部屋がありますが、残念ながら一般公開されておらず、見学できるのはホール部分のみとなっています。
主階
ガウディ建築のエッセンスがここに凝縮。


いよいよグエル邸最大の見どころであるメインフロアです。ここは、実業家として巨万の富を築き、後に伯爵位を授与されたエウセビ・グエルの財力と社会的地位を象徴する空間でした。
グエルは実業家であるだけでなく、スペイン上院議員、サン・ジョルディ王立美術アカデミー会員、さらにはカタルーニャ主義団体「セントラ・カタラー」の総裁を務めるなど、政界・文化界でも大きな影響力を持つ人物でした。
そして、その権力や富、文化的教養を来客に示すために最も豪華に造られたのが、このメインフロアです。中でも圧倒的な存在感を放つのが「中央大サロン」です。
グエル邸の中心となるこの広間では、各界の要人を招いた社交行事や音楽会が頻繁に開かれました。ここは単なる応接室ではなく、グエルが自らの地位や文化的素養を示すための舞台でもあったのです。
待合のサロン

待合サロンは、中2階からメインフロアへ上がって最初に現れる空間です。ここは来客を迎えるための待合室であると同時に、このフロア全体のエントランスホールとしての役割も担っていました。
この場所を起点として、グエル邸の中心である中央大サロンやプライベートサロン、さらに建物裏手のテラスへと移動することができます。通りに面した窓には3本の大理石の柱によるアーチが設けられ、重厚な雰囲気を演出しています。
また、天井には熱帯産の高級木材である赤バラタ材が使われています。格子状に組み上げられた天井は、日本の書院建築の大広間などで見られる格天井(ごうてんじょう)を思わせる造りで、装飾的な美しさと建物の荷重を支える構造的な役割を兼ね備えています。
さらに窓のステンドグラスにも注目です。若い頃にイギリスへ留学した経験を持つグエルは、シェイクスピアを特に愛好していました。そのため、この部屋のステンドグラスにはシェイクスピア作品の登場人物が描かれています。
同様のモチーフはこの待合サロンだけでなく、邸内の複数の部屋でも見ることができます。豪華な装飾に目を奪われがちですが、こうした細部からもグエルの教養や趣味を垣間見ることができます。
失われた歩みのサロン

中央大サロンへ自然光を取り込むため、この場所でも開口部を大きく確保できるカテナリーアーチが採用されています。ただし、ここで注目したいのはアーチそのものではなく、それを支える柱の構造です。
一見すると3本の柱が並んでいるように見えますが、実は後方の1本がアーチを支え、前方の2本が上部のリンテル(まぐさ)を支えるという役割分担がなされています。ガウディがあえて3本の柱を一組としてまとめたのは、この比較的限られた空間を実際より広く見せるためでした。
さらに、アーチとリンテルを前後に重ねることで、その先に奥行きのある疑似的なバルコニー空間が存在するかのような視覚効果を生み出しています。ガウディは構造や装飾だけでなく、人間の視覚がどのように空間を認識するかまで計算しながら設計を行っていました。この部分は、その巧みな空間演出をよく示す一例と言えるでしょう。
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【リンテル】 リンテル(まぐさ石)とは古代建築で2つの支柱上に水平に渡されたブロックで、上部の重量を支える役目を持っていました。日本の古墳にもよく見られるもので、ただガウディ作品の中では使われることは殆どなく、唯一と言えるのがコロニアグエル教会の入り口に使われた巨大な岩。 |
応接サロン

重厚な天井が特徴のグエル邸ですが、その中でもこの応接サロンの天井は特に豪華です。
天井全面には金箔が施され、ムデハル様式を思わせる鍛鉄製の装飾が無数に吊り下げられています。これらは「鍾乳石飾り」と呼ばれ、その名の通り鍾乳洞の鍾乳石を連想させる意匠です。
さらに、その先端には宝石まで取り付けられており、グエルがこの空間にどれだけの費用を投じたかがうかがえます。また、天井を支える梁の周囲には斜め格子の仕切り窓が設けられています。
ここからグエル家の人々は、下にいる訪問者から姿を見られることなく様子を観察することができました。つまり、この部屋は訪問客に財力や社会的地位を印象づける場であると同時に、その反応を密かに楽しむための舞台でもあったのです。
現代の感覚では少々行き過ぎ、悪趣味と言う気もしますが、グエルに限らず当時のヨーロッパの上流階級では、決して珍しいものではありませんでした。
吹き抜けの大広間
グエル邸最大の見どころであり、この建物の心臓部とも言えるのが中央大サロンです。ガウディは、中庭を中心にその周囲へ部屋を配置する伝統的な大邸宅の構造から着想を得て、この吹き抜けの大空間を邸宅の中心に据えました。
その結果、邸内の主要な部屋はすべてこのサロンを取り囲むように配置され、まさに建物全体の核となる空間となっています。また、このサロンは単なる応接室ではありません。
宗教的な儀式を行う場として、あるいは楽団を招いてコンサートを開く場としてなど、多目的な用途に利用されることが想定されていました。グエル邸を訪れる各界の要人や来客は、まずこの壮大な空間に迎え入れられ、グエル家の財力や文化的な教養に触れることになったのです。
*360画像は指でグリグリ回したり拡大できます。
礼拝堂

敬虔なカトリック教徒だったグエルは、邸宅の中心に礼拝堂を設けることを望んでいました。しかし、ここで一つ問題が生じます。
この中央大サロンは宗教儀式を行う神聖な空間であると同時に、コンサートや社交パーティーなどを開催する場としても利用される予定だったからです。礼拝堂を常設してしまうと、こうした世俗的な催しとの両立が難しくなります。
そこでガウディは巧妙な解決策を考えました。祭壇部分に大きな二枚扉を設け、必要な時だけ開くことができるようにしたのです。
普段は扉を閉じることで礼拝堂の存在を隠し、コンサートや社交の場として利用する。そして宗教儀式の際には扉を開き、礼拝堂として機能させる。こうしてガウディは、一つの空間の中に宗教的な役割と社交的な役割という相反する二つの機能を見事に共存させました。
天井ドーム

グエル邸最大の見どころであり、ガウディの建築を語る上で欠かせないのが、高さ16メートル、2階から4階まで吹き抜けとなった中央ドームです。トルコのアヤソフィア大聖堂から着想を得たとも言われるこのドームは、4本の放物線アーチによって支えられています。
頂上の円窓から差し込む光に加え、ドームを構成する六角形のパネルに開けられた84個の小さな穴からも自然光が降り注ぎます。その光は時間とともに表情を変え、まるで天空や宇宙の彼方から光が差し込んでくるかのような幻想的な空間を生み出しています。
現在のように電灯が当たり前ではなく、まだガス灯が使われていた時代に、ガウディは邸宅の中心にこの神秘的な「小宇宙」を作り上げました。サグラダ・ファミリアやコロニア・グエル教会へと続く、光と空間による演出。その原点とも言えるのが、この中央ドームなのです。
実際にこの空間に立つと、なぜガウディが単なる建築家ではなく、空間そのものを創造する芸術家として語られるのか、その理由が少し分かる気がします。
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【アヤソフイア】 トルコ、イスタンブールにある東ローマ帝国時代に造られた大聖堂。ビザンティン建築の最高傑作と評価される建物。 |
| 天井部分は複数の大きなドームが連なった形状をし、それぞれのドームを囲むように設置されたまどから自然光が差し込みます。 | |
プライベートサロン

建物裏側に位置するこのプライベートサロンでは、家族や親密な友人達が歓談したり、娘達がピアノの練習をしたりしていました。
その奥には大理石アーチと出窓、それに沿ってベンチがありますが、当時は喫煙サロンとして利用されていました。
食堂

プライベートサロンの一番奥にあるのが食堂です。ここは、一般開放されておらずガラス窓越しからの見学となります。家族の中にも厳格さを求めた、グエルの気質がよく現れた食堂です。
裏のポーチ

建物裏側のファサードはグエル家所有の石切り場から切り出された石灰岩で作られ、デザインはいたってシンプル。そんな中でも特徴的なのが、木製のブラインドの上に設置された、クリーム色、水色、紺色の化粧タイルで出来た庇と樋です。
それはまるで両生類の熱帯性のカエルをイメージをさせる様な不思議なデザインの出窓となっています。
ちなみに、クリーム色の出窓は当時としては珍しい「ブリーズ・ソレイユ」と呼ばれるもので、これが付けられたのは建物の裏面がちょうど南側に位置し日中ほとんどずっと陽が差している場所だった為、その強い日射を遮るためでした。
また、この出窓の上にはグエル夫妻の寝室のバルコニーがありますが、よく見るとそこにも南京玉すだれの様な日除けがあるのが見てとれます。
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【ブリーズ・ソレイユ】 もともとフランス語で「太陽を砕く」という意味です。 強烈な日射を遮るために設けられた庇状の鎧戸で 夏の強烈な日差しを遮り、冬の低い太陽光をうまく取り入れるための仕組みとなっています。 |
| 特に太陽光の強いアフリカ、東南アジア、南米、地中海沿岸地方などで今もよく見られます。 | |
演奏者の間

ポーチからまた建物に戻ります。メインフロアーから階段を上がる途中に踊り場を広くしたスペースがあり、そこが演奏の間と呼ばれるところで特別な晩さん会の時などには、楽団や合唱団を招いて生演奏が行われました。
グエル伯爵の娘は音楽家であったため、この サロンには常に音楽が流れていた事でしょう。今でも運が良ければ不定期ですがパイプオルガンの生演奏を聴くことが出来ます。
2階、寝室のための階

グエル邸の二階(日本で言う三階)はメインフロアーから垂直に吹き抜ける空間、その周りに各寝室が配置されました。
特にその中でもグエル夫妻の寝室が一番広く取られ、また豪華に作られています。
尚、通路は吹き抜けの周りにそって配置してあり、そこには日本の住宅にありそうな障子の様な窓があります。
また、その窓からより間地かにドームの詳細がが眺めることが出来ますのでじっくり見られることをお勧めします。

階段、通路、居間

メインフロアーとは打って変わって、この階にある居間は家族の集まりや団らん為に設計されました。そのせいか下の階の様な肩の凝るような重厚さや、煌びやかさはありません。
また、グエルは10人の彼の子供達が厳格な環境で育つように、ここにはより簡素で機能的な空間をガウディに求めたと言われます。
尚、天井と暖炉の間にはめ込まれている絵画は「ハンガリーの聖エルジェーベト」の肖像画です。
グエル夫妻の寝室

グエルと妻のイサベルの寝室は邸宅の中で一番明るい南向きに位置しこのフロアーの後ろ側の大部分を占めています。
この当時の上流階級の夫婦は別の部屋で眠ると言う習慣に合わせて仕切り壁でスペースを2つに分け、その間にドアを付けました。
子供部屋&学習室

子供達の部屋と勉強部屋に当時の家具が展示されています。と言っても内戦の混乱を経て全ての家具は持ち出されてしまい、現在あるものはオリジナルでは無く、あくまでもその時代にブルジョワの家で使われていた家具を置いた物です。
子供の寝室と浴室

フロアーの後方、一番奥にあるのが10人いた子供の中でも特に幼い子供達用の部屋です。
現在、ここでははプロジェクターでグエル邸の歴史などの参考資料が映し出され、椅子に座って休憩がてらに見ることが出来ます。
またその横には当時の浴室がありますが浴槽などは撤去され何も残っていませんが、面白いのはその横にあるトイレで中国や日本の白磁器をイメージしたものとなっています。
展示場(最上階)

当時は洗濯場など使用人が使っていた最上階は展示場となっていて、グエル邸の資料がパネルで展示されています。
それ以外には特に見る物は無いですが、ガウディが好んで使うトレンカディス(破砕タイル)が、ここでは陶器の代わりにガラスが使われ採光を兼ねたステンドグラスとして使っています。
ただし、それ自体はドーム内から見る様に作られているので、ここで見ても特に綺麗とは思わないはず。
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【トレンカディスとは】 カタルーニャ語で破砕タイル又は破砕仕上げ全般を指す言葉。元々は降雨から壁を保護する目的に始まり、次第に装飾するために利用され一種のモザイクとして使われました。ガウディ以外にもこの時代に活躍した他の建築家も多用し、数多く残るモデルニスモ建築に見ることができます。 |
| このグエル邸の後も、ガウディと言えばトレンカディスとイメージするほど、あらゆる作品でこの技法が見られます。 | |
屋上

色鮮やかな煙突が立ち並ぶ屋上は、外観の簡素さや重厚な雰囲気の居住部分とは打って変わって遊び心が一杯。
カサ・ミラの屋上のオブジェ群でも分かるように、ガウディは屋上に対して常に特別な愛着を持っていて、彼の持つ前衛芸術的な要素をここで表現しました。
煙突

20本ある煙突のうち、レンガ製がオリジナルのもので、トレンカディス(破砕タイルと破砕ガラス)のカラフルな煙突は、破損が激しかったこともあり後年に修復されたものです。
また6本のむき出しのレンガの煙突は、使用人が洗濯物を干すテラスに配置されています。
尚、建設中のサグラダファミリアでも見かける、同じ様な果実をまとめたオブジェ(写真左端上)。サグラダファミリアの物は日本人彫刻が外尾氏が作ったものですが、それはこのグエル邸の煙突がモデル、コピーだったと言われています。
【煙突に込めた意味】
ガウディ建築にみられる特徴の一つとして、その奇抜な煙突があります。
建物の中では脇役でどうでもいい存在のはずが非常に凝った造りが多く、ガウディは煙突にかなりこだわりを持っていました。
一説には、魔物が家に侵入する際に煙突こそが一番の弱点と言う意識が中世の昔から人々にあり、ここを守る意味で荒々しく武器の様に尖った煙突にしたり、またカサ・ミラの場合では兵士の顔になっているのもその為です。
このカサバトリョの煙突も先がとがり横にはカバーが付いて、魔物が侵入できないように開口部を隠した造りになっています。

尖塔

ドームの真上に位置し、その光源となる15メートルの塔。
頂部にはギリシャ十字、その下部にはコウモリと太陽の風向き計、更にその下が避雷針となっていて、球形から延びる大きい4本の針が東西南北を表しています。
尚、あまり知られていませんが風見鶏の仮にその役をしているコウモリ。
昔のバルセロナでは、コウモリが街のシンボルでした。尚、ここ以外では凱旋門の壁面でもコウモリを見ることが出来ます。
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【凱旋門】 バルセロナ万博が1888年に開催された際にモニュメントとして…. |
ショップ

売店は地上階、昔は馬車置き場だったところにあります。
置いてある商品数はやや少なめで、ここに限らずバルセロナの観光スポットのお土産店はどこもそうですが、グエル邸グッズ以外のガウディ作品の関連グッズも同時に多く置いてあります。
そんな中でグエル邸ならではの商品としては、置物に良さそうな煙突のミニチュア、定番とも言えるマグネット類。あと、書籍、子供用に塗り絵、T-シャツ、エコバッグなど。
フォトムービー
主な見どころをまとめたフォトムービーを作ってみました。
入場方法

グエル邸の入口はバルセロナ一番の繁華街ランブラス通りから、Carrer Nou de la Rambla 通りに少し入ったところにあり、近くにはリセウ劇場、レイアール広場、コロンブスの塔、更に老舗のタブラオとして知られるコルドベスがあり、旧市街の観光スポットのメインに位置しアクセスは良好。
チケットオフィスはグエル邸に向かって左手側にあります。
当日券を購入される方は、最初にチケットを購入してから入り口に並んでください。入場は15分区切りの時間指定制となっていますので、チケット購入時に希望時間を指定して下さい。尚、現地購入時に予約時間を指定せず、何も言われなかった場合は購入直後の入場予約になります。
通常は問題なくその場で入場チケットが買えますが、夏場のハイシーズン中に希望の時間帯で確実に入場したい方は、事前にオンライン予約をお勧めします。ただもし万が一、直後の入場チケットが売り切れていても、15分後、30分後の入場枠は空いている場合がありますので、そういう意味では他のガウディ建築より空いています。
まとめ&アドバイス
見学の所要時間目安は60分〜90分ほどです。建物自体はそんなに大きくはありませんが部屋数が多く、普通に見て60分じっくり見ていくと90分とそれなりに時間が掛かります。
見どころの中心となるのは地下、メインフロアー、屋上の3ヶ所で、特に天井ドームがクライマックスとも言えるのでゆっくり観賞してください。あと、写真撮影は午前中は建物の裏側(南側)にある部屋は窓からの光で撮りにくいかも知れません。
グエル邸はガウディが作った住宅、カサ・バトリョやカサ・ミラの様なモデルニスモの派手さは無く外観からも分かるようシックな建物です。ただ初期作品が故に、過去の建築様式から脱し切れていない面もありますが、後年のサグラダファミリアにも通ずるメインフロアー中央のドーム天井などはガウディ好きなら是非見てもらいたい傑作。
人気的にはサグラダファミリア、グエル公園、カサ・バトリョ、カサ・ミラのその後となり、訪問される方は少ないですが、ある意味ガウディ作品の中の穴場と言って間違い無く個人的にはお勧めです。
尚、毎月第1日曜日と、4月23日、6月10日、9月11日、12月15日が無料日となっています。
ただし完全予約制ですので、公式サイトの通常の予約ページからおこないます。予約の受付開始は、無料入場日のちょうど1週間前からで、その日の日本時間の18時頃に予約ページにアクセスしてみて下さい。
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お勧め度:16点/20点
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| 住所 | C/ Nou de la Rambla, 3-5 【地図&行き方】 |
| URL | http://palauguell.cat/come-palace-japanese |
| 料金 | 公式サイトにてご確認ください、9歳以下無料 |
| 時間 | 4/1〜10/31 10:00~20:00、 11/1〜3/31 10:00〜17:30 *チケット売り場は閉館時間の1時間前まで 休館:月曜、1/1, 6、1月最終週点検のため休館、12/25, 26 |
| 最寄り駅 | メトロ3号線 リセウ駅から 徒歩約5分 |
| 無料日 | 毎週第一日曜日、2/11, 4/23, 5/20, 9/11, 9/24 |
| 所要時間 | 1時間 |
| 記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。 |
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@ | この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。。 記事最終更新 2026.06.06 |
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