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カタルーニャ美術館 ロマネスク美術の見どころ

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スペイン広場から正面を見上げると、まるで宮殿のようにそびえ立つ巨大な建物があります。それが、カタルーニャ美術館です。

外観の迫力に比べると、日本人旅行者には意外と知られていませんが、館内にはロマネスク美術をはじめ、カタルーニャの歴史と芸術を語る上で欠かせない作品が数多く展示されています。

今回は、この巨大なカタルーニャ美術館の見どころ、効率の良い回り方、そして行く前に知っておきたいポイントを詳しく解説していきます。

概要

国立カタルーニャ美術館(MNAC)は、1929年に開催されたバルセロナ万博の政府館として建設された建物を利用し、1934年に美術館として開館しました。

その後、1992年のバルセロナオリンピックに合わせて大規模な改修工事が行われ、巨大な楕円形ホール「サラ・オバル(Sala Oval)」が再整備されます。さらに1995年からはロマネスク美術コレクションの本格展示が始まり、現在では世界最大規模のロマネスク美術コレクションを誇る美術館となっています。

収蔵品はロマネスク美術だけに留まらず、ゴシック美術、ルネサンス美術、バロック美術、近代美術、さらには素描、版画、コイン、メダルなど非常に多岐にわたります。

また、美術館にはカタルーニャ芸術研究のための専門図書館も併設されており、まさにカタルーニャ芸術を知る上で最も重要な美術館と言えるでしょう。展示作品の中で特に有名なのが、ロマネスク時代の壁画「全能のキリスト(Pantocràtor)」です。

これは現存するロマネスク絵画の最高傑作の一つとされ、美術史の教科書にも必ず登場する名作です。また、その力強い表現は後世の芸術家たちにも大きな影響を与えたと言われており、ピカソ、ダリ、ミロらスペイン近代美術の巨匠たちもこの作品から多くを学びました。

さらに館内には、彼らと同時代に活躍したカタルーニャ人芸術家たちの絵画や彫刻も数多く展示されています。

 

建物

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モンジュイックの丘に建つ美術館からは街が一望
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巨大な柱はカタルーニャの旗の4本線を表しています 旅行者に大人気の夜に開催される噴水ショー

モンジュイックの丘の中腹にそびえる国立カタルーニャ美術館。

街を見下ろす高台に建つその姿は、初めて見る人ならスペイン王室の宮殿と見間違えてしまうほど壮大です。特に空港から市内へ向かう玄関口でもあるスペイン広場からの眺めは圧巻で、サグラダ・ファミリアと並ぶバルセロナの象徴的な景観の一つとなっています。

また、美術館の正面では100年近くにわたりマジカ噴水ショーが開催されており、夜になると多くの観光客で賑わいます。夏の週末には数万人規模の見物客が訪れることもあり、美術館そのものだけでなく、周辺一帯がバルセロナを代表する観光スポットとなっています。

 

funsui (2) 【マジカ噴水ショー】★★★★☆
1929年5月にここバルセロナで開催された万国博覧会。それに合わせて作られ….

 

建物内部

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メインドームのフレスコ画
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ルネッサンス様式の王座の間 1,300席の大ホール

建物はルネッサンス様式を基調として設計されており、中央の巨大なドームと左右に広がる翼棟によって構成されています。

総面積は約32,000㎡にも及び、その規模は東京ドームの約3分の2に相当します。

館内の大部分は美術館として利用されていますが、中央には約1,300席を有する巨大ホール「サラ・オバル(Sala Oval)」があり、コンサートや授賞式、国際会議、各種プレゼンテーションなど様々なイベント会場としても活用されています。

特にサラ・オバルは、美術館の一施設というよりも一つの劇場やコンベンションホールと言った方が分かりやすいほどの規模を誇ります。

 

3つのセクション

1階

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美術館は、大きく分けて3つのセクションからなります。1階(地上階)の正面入り口から左にあるのが、ロマネスク様式芸術。

その反対の正面右側にあるのが、ゴシック、ルネッサンス、バロック各様式をまとめた展示場で、更にその中にカンポー遺産、ティッセン・ボルネミッサコレクションがあります。

 

2階

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次に2階には近代芸術。その中にはデッサンと版画のコレクション、更にカタルーニャ貨幣も含まれます。

回る順番は自由で、好きなように見ていかれれば良いと思いますが、時代の古い順から見るのが分かり易いはずです。

なので最初にロマネスク様式芸術 ➡ ゴシック、ルネッサンス、バロック様式芸術 ➡ 近代芸術と見て回って下さい。

 

ロマネスク美術

【ロマネスク時代】

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時代区分としてはおおよそ1000年から1200年頃までのビザンティン美術様式以降、ゴシック美術様式以前までを指します。

ビザンティンとロマネスクは、時代的には重なる部分もありますが、ゴシック、の3つを含めた時代で中世美術を構成しています。

また、その3つが独立した呼び名ではありますが、ロマネスクはビザンティンに、ゴシックはロマネスク、ビザンティンの2つに大きく影響を受けています。

 

【ロマネスク美術の特徴】

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教会建築がメイン 聖堂ドームのフレスコ画
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絵はコミュカルで稚拙 こんな可愛いものまで

ロマネスク美術様式とは、中世西ヨーロッパの建築様式の一つであるロマネスク建築様式の中においての、主に教会の聖堂を装飾するための壁画、彫刻、装飾などを指します。

なので、それらの芸術はあくまでメインの教会建築に付随する、二次的な扱いになっていて、建築あっての美術と言うのが大きなポイントになります。

また、ロマネスク美術はスペイン、イタリア、フランスなどの南欧によく見られますが、それだけに留まらず大陸全体、ドイツ、イギリス、ベルギーなどでも見られます。

尚、ロマネスクという言葉は、美術史・建築史において、19世紀以降使われるようになった用語で、直訳すると「ローマ風の」という意味です。

ただ、このローマ風と言う言葉ですが、決して良い意味で使われていたわけでなく、当初「堕落し、粗野になったローマ風の建築様式」という蔑称としての側面が強くありました。

その理由としては、上に示した画像でも分かるように、宗教画とは思えないコミカルな絵、またそれは稚拙ともとれるもので、ロマネスク後のヨーロッパの美の規範となる「写実性」や「遠近法」などには程遠かった故に、全くそれまで評価されていなかったからです。

尚、軽蔑の目で見られていた、そのコミカルな絵、稚拙ともとれる表現が一転し、自由で魅力に溢れたロマネスク美術として再評価されるようになるのは、20世紀になってからのことです。

それは当時ヨーロッパで大きなうねりとなっていた美術界の変革、スペインで言うとピカソやダリが出現して来た時代。

反古典・反写実主義という、近代美術が求めようとしていた方向性と多くの共通点があり、ロマネスク美術は脚光を浴び始めました。

 

個性的な展示手法

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聖堂内を美術館に再現 木製のドーム

カタルーニャ美術館では、教会の壁面を飾ったフレスコ画を非常に珍しい形で展示しています。

それは元々ピレネー山中の教会にあった、内部のフレスコ画を引き剥がし運んで、美術館の壁、柱に貼り付けて再現し、展示していることです。

中でも特筆すべきは、教会のアプス部分(教会の一番奥の半円ドームになってる部分)を木枠で作り、あたかもそこに聖堂があるようなバーチャル空間を創造していることです。

その前に立つとピレネー山中の教会において、実際にどの様にそれらが配置されていたのかが、直感的に分かる様に工夫した展示がされています。

ところで、ピレネー山中の教会の壁画を剥がして、都会のバルセロナの美術館に展示すると言うのは、何とも荒っぽいと思えますが、それには理由がありました。

1906年より派遣された文化財調査によりピレネー山中で殆ど見捨てられ、手入れもされることが無かったロマネスク教会の貴重な壁画を後世に残す為に必要だったからです。

また、1906年の調査の後に「Les pintures murals catalanes (カタルーニャの壁画)」としての内容が出版されると、数年後には外国の骨董商らのグループがピレネーの村に訪れるようになります。

彼らは、米国などのコレクター向けに持ち出そうとしますが、当時それを止める法律がなかったこともあり、早急の対策として美術館自らが買い取り、保存することになりました。

1919年から始まった保存事業。

その作業は、まず壁画を漆喰ごと慎重に剥離し、はぎとられた壁画は専門家の手により時間を掛け丁寧に修復された上、先ほど述べた様に美術館内に教会の空間構成を忠実に三次元で再現しました。

 

動画は、1978年に実際に行われた壁画の剥離の様子を解説しています。

 

サント・クレメント聖堂壁画

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サント・クリメント大聖堂 教会の後陣のフレスコ画
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ロマネスク美術の最高傑作の一つ、全能者キリスト

現在、世界遺産に登録されているピレネー山中のボイ渓谷のロマネスク教会群。その中心的存在が、タウル村にあるサント・クリメント教会です。

この教会の聖堂から移され、現在カタルーニャ美術館に展示されている壁画こそが、同館最大の見どころと言える「全能者キリスト」です。

現存するロマネスク美術の中でも最高傑作の一つとされ、世界的にも広く知られています。

描かれているキリストは、右手で祝福のしるしを示し、左手には「我は世の光」と記された書物を持っています。

全体としては左右対称に構成されていますが、ポーズはあえて少し崩されており、それによって静止した聖像でありながらも、どこか生き生きとした動きが感じられます。

また、キリストの上半身は二等辺三角形、下半身は台形のように構成され、玉座に座る姿として描かれています。

 

キリストの上には神を象徴する手と、黙示録に登場する七つの目を持つ子羊が描かれています。また、キリストの下には復活したキリストを象徴する朝日の光が差し込む窓があり、それらはすべて一直線上に配置されています。

さらにキリストを囲むのは、福音書を記した四人の聖人たちです。

右上の聖ヨハネは鷲、右下の聖ルカは牡牛、左上の聖マタイは翼を持つ人間、左下の聖マルコはライオンを伴って描かれています。

これらはそれぞれの福音書記者を表す伝統的なシンボルで、キリストの周囲を取り囲むことで、その教えが世界へ広がる様子を表現しています。さらにその外側には天使たちが描かれ、その翼には無数の目が描き込まれています。

ちなみに、カタルーニャ出身の画家ジョアン・ミロは、この壁画に描かれた目の表現に深く感銘を受け、生涯にわたりその魅力を語り続けたと言われています。

また、900年以上前の作品とは思えない鮮やかな色彩にも注目です。その大胆で力強い色使いは、後の近代芸術家たちにも大きな影響を与えました

 

ロマネスクの衰退

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ところで、ロマネスク様式はその後のゴシック様式の登場とともに次第に姿を消していきます。

その理由の一つが表現方法の違いでした。ロマネスク美術は象徴性を重視するあまり、現代人の目にはどこか素朴で、時には子供の絵のようにも見えます。

一方で、後に登場したゴシック美術は人物をより写実的に描き、豪華で華やかな装飾を好みました。

上の写真は、カタルーニャ音楽堂の建築家として知られるドメネク・イ・モンタネールが1904年にサント・クリメント教会を訪れた際に撮影したものです。

よく見ると、現在ではロマネスク美術最高傑作と称される「全能者キリスト」が、五つの塔を持つ巨大なゴシック祭壇画の背後に隠されていることが分かります。つまり当時の人々にとって、この壁画はわざわざ見せる価値のあるものではなく、むしろ時代遅れの古い絵だったのです。

実際、「ロマネスク」という言葉自体も、後の時代には「堕落したローマ風建築」といったニュアンスで使われることがありました。

さらに残念なことに、壁画の一部は後世に剥がされたり白く塗り潰されたりしており、永久に失われています。もし20世紀初頭に保存活動が行われていなければ、この「全能者キリスト」も今日まで残っていなかったかもしれません。

 

フレスコ画の特徴

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アネウの後陣礼拝堂 羽に目玉、目玉、目玉 ….

ここで、ロマネスク美術を理解する上で欠かせない壁画について少し解説しておきます。

まず、なぜ人口も少ない山奥の小さな教会に、これほど巨大な壁画が描かれたのでしょうか。

その理由は、ロマネスク建築そのものにあります。

ロマネスク時代は、後のゴシック建築のような高度な建築技術がまだ発達していませんでした。そのため、重い石造りの屋根を支えるには太い柱と厚い壁が必要となり、窓も小さくせざるを得ませんでした。

窓が小さいということは、教会内部が暗くなるという欠点があります。しかしその一方で、壁の面積が広く確保できるという利点もありました。

つまり、ロマネスク教会は壁画を描くための巨大なキャンバスそのものだったのです。その結果、教会の規模からは想像できないほど大きなフレスコ画が描かれ、信徒たちに聖書の世界を伝える重要な役割を果たしました。

 

【フレスコ画】

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フレスコ画の最高傑作と言われるミケランジェロ最後の審判

フレスコとはイタリア語・スペイン語で共に「新鮮な」という意味です。

実際、バルセロナの魚屋で「ペスカード・フレスコ(Pescado fresco)」と言えば、その日に水揚げされた新鮮な魚を指します。

フレスコ画は古代ローマ時代から使われてきた伝統的な壁画技法で、ロマネスク時代からルネサンス期にかけて広く用いられました。その特徴は耐久性の高さにあります。

制作方法は、まず壁に漆喰を塗り、その漆喰が乾かないうちに水性顔料で直接絵を描きます。すると絵の具が漆喰の内部へ浸透し、乾燥とともに石灰の薄い保護膜が形成されるため、絵が壁そのものと一体化します。

そのため発色が美しいだけでなく、数百年から時には千年以上もの長期間保存されることも珍しくありません。ただし欠点もあります。

漆喰が乾く前に描き終えなければならず、やり直しがほとんどできないため、高度な計画性と技術を必要とします。

ルネサンス期には特に盛んに用いられ、ラファエロの『アテネの学堂』やミケランジェロの『最後の審判』などもフレスコ画の代表作として知られています。

 

【板絵】

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ドウーロ サンキルゼ教会
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鋸挽き 釜茹で

ロマネスク美術には壁画だけでなく、祭壇を飾るために描かれた板絵も数多く残されています。

その中には聖人たちの殉教や地獄の罰など、後の時代なら目を背けたくなるような残酷な場面を描いたものもあります。

ところが不思議なことに、ロマネスク美術ではそんな場面ですらどこか素朴で、時にはコミカルに見えてしまいます。

これもロマネスク美術ならではの魅力と言えるでしょう。また、ヨーロッパを旅行して数多くの教会や美術館を巡った後、ロマネスク美術に惹かれるようになったという日本人も少なくありません。

ゴシックやバロックの教会には、圧倒されるほど豪華な装飾や、息苦しさすら感じるほど写実的な宗教画があります。

それは例えるなら、何日も豪華なコース料理を食べ続けるようなものです。そんな中で出会うロマネスク美術は、素朴で親しみやすく、どこか肩の力を抜いてくれます。

豪華さや技巧ではなく、人間味のようなものが感じられるからかもしれません。

 

上の絵を見ても分かるように、決して上手な絵とは言えません。人物のバランスもおかしく、表情もどこかユーモラスです。

それなのに不思議と見飽きない。

むしろ、その素朴さや温かみこそがロマネスク美術の魅力であり、900年以上経った今も人を惹きつけ続ける理由なのです。

 

稚拙でコミカルな理由

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威厳に満ちたキリスト なすび

では、こうしたロマネスク美術特有の素朴でコミカルな表現は、単純に技術力が低かったからなのでしょうか。

実はそうとも言い切れません。当時は聖アウグスティヌスの「美は物質的なものの中に求めるべきではない」という思想が大きな影響力を持っていました。

つまり、人間の肉体や自然の姿を写実的に再現することよりも、その背後にある神の真理や精神性を表現することが重要だと考えられていたのです。

そのため古代ギリシア・ローマ時代に見られた写実的な美の追求は否定され、人間を本物そっくりに描く必要もありませんでした。

言い換えれば、ロマネスク美術は「下手だった」のではなく、「写実性を目指していなかった」のです。その縛りがなかったからこそ、現代人の目には自由奔放でユーモラスにも見える独特の表現が生まれました。

また、ロマネスク時代の絵画や彫刻の作者はほとんど分かっていません。現在のような芸術家という概念はまだ薄く、多くは名も残らない職人たちによって制作されました。

彼らにとって重要だったのは自分の名前を残すことではなく、神の栄光を表現することだったのです。

 

柱頭装飾

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カマサラ城 サンミケル教会の柱頭
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リポールのアーチ 沖縄のシーサーにも見える…

ロマネスク美術のもう一つの見どころが、聖堂の柱や梁に施された数々の彫刻です。

その特徴は、人物の身体が不自然なほど短かったり、関節があり得ない方向に曲がっていたりすることです。

フランスの美術史家アンリ・フォション(1881-1943)は、この独特な造形を「枠の法則」という考え方で説明しました。

ロマネスク美術はあくまでも建築に従属する存在であり、主役は教会建築そのものです。そのため彫刻家は、柱頭や梁といった限られた空間の中で人物や動物を表現しなければなりませんでした。

例えば柱頭彫刻では四角い空間に人物を収める必要があるため、身体を縮めたり曲げたりせざるを得ず、それが独特なデフォルメを生んだというのです。

しかし、本当にそれだけなのでしょうか。ロマネスク美術研究で知られる金沢百枝氏も『ロマネスク美術革命』の中で述べていますが、作品によっては単なるスペースの制約だけでは説明できないほど自由奔放な表現が見られます。

つまりロマネスク美術の面白さは、「制約によって歪められた」のか、「最初からそう表現したかった」のか、その境界が曖昧なところにもあるのです。

柱頭には聖人だけでなく、ライオンや鳥、怪物、空想上の生き物まで登場します。それらを一つ一つ眺めていくのは、ロマネスク美術鑑賞の大きな楽しみと言えるでしょう。

また、展示されている真鍮製の神具や工芸品には、東ローマ帝国(ビザンティン帝国)の美術の影響も色濃く見られます。西ヨーロッパだけではなく、遠く東方世界との文化的なつながりを感じられるのも、この時代の美術の魅力です。

 

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モンドニェドの司教杖
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聖体の白鳩 セルダーニャの聖体容器

 

ロマネスク美術アドバイス

何の前知識もなくロマネスク美術を見ると、多くの人は「何だかコミカルな絵だな」で終わってしまいます。

実際、これまで美術館を訪れた日本人旅行者の感想を聞いても、「特に印象に残らなかった」という方は少なくありません。

それも無理のない話です。私たちは普段、美術の歴史をギリシャ・ローマから始まり、ルネサンスへ向かって写実性が高まっていく流れとして理解しています。

ところがロマネスク美術だけは、その流れから外れた非常に特殊な存在です。写実性を追求するのではなく、象徴性や精神性を重視した結果、人物は大胆に変形され、現代人の目には不思議でコミカルな姿となりました。

つまりロマネスク美術を見る面白さは、「上手い絵を見ること」ではなく、「なぜこんな表現になったのか」を考えることにあります。そうした背景を知った上で作品を見ていくと、単なる素朴な絵ではなく、他のどの時代にも見られない独特な魅力を持った芸術であることに気付くはずです。

少々大げさな言い方かもしれませんが、この点を理解できるかどうかで、カタルーニャ美術館のロマネスク・コレクションの見え方は大きく変わるでしょう。

 

3つの様式コレクション

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ロマネスク時代に続くゴシック美術、ルネサンス美術、バロック美術も充実しており、スペインのみならずヨーロッパ各地の作品を見ることができます。

ロマネスク部門ほどの知名度はありませんが、館内にはエル・グレコ、ベラスケス、ルーベンスといった巨匠たちの作品も展示されています。もちろん、プラド美術館のように誰もが知る代表作が並んでいるわけではありません。

しかし、その分人も少なく、落ち着いた環境の中で中世から近代へと移り変わる西洋美術の流れをじっくり辿ることができます。その意味では、一点の名画を見る美術館というより、美術史そのものを楽しむ美術館と言えるでしょう。

 

【ゴシック様式】

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聖アゴスティンの聖別式(ジャウム・ウゲート) キリストの復活(バルトロメ・ベルメホ)
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キリストの頭 

 

ルネッサンス、バロック様式芸術

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聖ペテロと聖パウロ
(エル・グレコ)
聖パブロ
(ディエゴ・ベラスケス)
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マルメロと柘榴の実の籠(ファン・デ・スルバラン)
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聖バルトロマイの殉教
(ホセ・デ・リベラ)
聖母子、聖イサベルと
聖ファニート(ルーベンス)
 
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キリスト昇天祭のブチントローの帰還
(ジョヴァンニ・アントニーオ・カナール)

 

カタルーニャ近代芸術

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日本では殆ど知られていない作家ばかりと思いますが、地元カタルーニャの画家、彫刻家、写真家などの作品において量、質共に一番を誇っています。

 

ピカソ、ミロ、ダリに代表される近代芸術

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公表展示会の描写(ジョアン・ミロ)
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学術研究
(パブロ・ピカソ)
帽子と毛皮の襟を付けた女性(パブロ・ピカソ)

また館内には、スペイン近代絵画を代表する巨匠であるピカソ、ミロ、ダリの作品も少数ながら展示されています。

もちろん、ピカソ美術館やミロ美術館があるバルセロナで、わざわざこれらの作品を見るためだけに国立カタルーニャ美術館を訪れる必要はありません。

しかし、メインとなるロマネスク美術鑑賞のついでに楽しむのであれば十分見応えがあります。その中でも興味深いのが、ジョアン・ミロの初期作品「公衆展示会の描写」です。

抽象画家というイメージの強いミロですが、若い頃は意外にもこのような写実的な作品を描いていました。

後年の大胆に単純化された記号のような表現を知っている人ほど、「本当に同じ画家なのか」と驚かされるかもしれません。そうした意味では、この作品はミロがどのような過程を経て独自の画風へ到達したのかを知る上で非常に興味深い一枚と言えるでしょう。

 

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二人乗り自転車に乗るラモン・カザスとペレ・ロメウ
(ラモン・カザス)

ダリやミロの知名度があまりにも高いため日本ではほとんど知られていませんが、カタルーニャ近代美術には彼ら以外にも優れた芸術家が数多く存在します。

その代表格が、19世紀末から20世紀初頭に活躍したラモン・カザスです。館内には彼の作品も多数展示されており、当時のバルセロナの街並みや人々の暮らし、そしてモデルニスモ文化の空気を今に伝えています。

ガウディ、ピカソ、ミロばかりが注目されがちですが、こうした芸術家たちの存在を知ることも、カタルーニャ美術館を訪れる楽しみの一つでしょう。

 

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IBMの壁画(ジョアン・ミロ)

彫刻や近代美術作品の中で見逃せないのが、ジョアン・ミロによる巨大な壁画です。

この作品は元々バルセロナにあったIBM支店のために制作されたもので、現在はカタルーニャ美術館2階の大広間に展示されています。

抽象的な記号や鮮やかな色彩を用いたミロらしい作品で、その大きさもあって強い存在感を放っています。

美術館の主役はロマネスク美術ですが、900年前の「全能者キリスト」を見た後に、この20世紀を代表するカタルーニャ人芸術家の作品を見ると、同じカタルーニャ文化の中で芸術がどのように変化してきたのかを感じることができるでしょう。

 

ガウディの家具

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ガウディがデザインした家具が展示されています
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カサバ・トリョ コロニア・グエルの椅子

美術館には思いがけず、ガウディがデザインした扉や家具なども展示されています。

また、ガウディの最も重要な協力者の一人であり、右腕とも呼ばれたジュゼップ・マリア・ジュジョールの作品を見ることもできます。その中でも特に注目したいのが、コロニア・グエル教会のためにガウディがデザインした礼拝堂の椅子です。

現在、コロニア・グエル教会で使われている椅子はすべて後年制作されたレプリカですが、ここに展示されているものは当時のオリジナル。

現存するわずか8脚のうちの1脚であり、ガウディが人間工学を取り入れながら試行錯誤して作り上げた本物の椅子を見ることができます。コロニア・グエル教会を訪れたことがある方なら、思わぬ場所で旧友に再会したような気分になるかもしれません。

 

ショップ

見学の最後はミュージアムショップです。

店内は広く、書籍やポスター、アクセサリーなど品揃えもそれなりに充実しています。ただ、正直なところサグラダ・ファミリアやピカソ美術館のショップのように、「これが欲しい!」と思うような目玉商品はあまりありません。

とはいえ、ロマネスク美術やカタルーニャ芸術に興味を持たれた方なら、記念になる一冊や小物が見つかるかもしれません。

なお、ショップは館内だけでなく、美術館入口の手前にも別店舗があります。こちらは入場券が無くても利用できますので、お土産だけ見たい方でも気軽に立ち寄ることができます。

 

まとめ&アドバイス

国立カタルーニャ美術館は、主なガウディ建築が集まる市内中心部からは少し離れており、最寄り駅からも坂道を上る必要があります。

しかし、その分だけ美術館前から眺めるバルセロナの景色は素晴らしく、それだけでも訪れる価値を感じる方は多いでしょう。

また、建物そのものも見どころの一つです。王宮を思わせる壮大な外観に加え、館内も大ドームやサラ・オバルを中心に荘厳な空間が広がっており、美術品だけでなく建築そのものを楽しむことができます。

収蔵品の数も非常に多く、展示スペースも広々としているため、日本の人気美術館のような混雑とは無縁です。ただし欠点を挙げるなら、その展示量の多さでしょう。

ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロック、近代美術と時代順に見ていくことはできますが、すべてを丁寧に見ようとすると一日ではとても足りません。

また、集中力にも限界があります。個人的には、この美術館は「全部見よう」と思わない方が楽しめると思います。

興味のある分野を中心に見て回るくらいがちょうど良いでしょう。さらに言えば、展示内容が非常に幅広い反面、どの分野も専門美術館ほど深く掘り下げられているわけではありません。

そのため、どこか「美術史の総集編」を見ているような印象を受ける方もいるかもしれません。もちろん入場料と展示数を考えれば十分価値のある美術館ですが、もう少し作品を絞った展示の方が見やすいのではないかとも感じます。

最後に、これは完全に個人的な意見です。現在、美術館最大の見どころとなっているロマネスク壁画は、元々ピレネーの小さな教会に描かれていたものです。

もちろん20世紀初頭には盗難や劣化の危険があり、美術館へ移設された理由も理解できます。しかし、今の時代であれば保存技術も大きく進歩しました。

たとえ色褪せるとしても、本来あるべき場所である山の教会に戻し、その土地の空気や光の中で見てもらう方が作品にとって幸せなのではないか。

そんなことを考えながら見学を終えました。もっとも、これは美術館関係者に言わせれば「何を言っているんだ」と怒られる意見かもしれませんが。

 


お勧め度:14点/20点
★★★★☆(3.5)


 

住所 Parc de monjjuic   【地図はこちら】
URL  http://www.museunacional.cat/en
TEL 933 19 57 40
開館時間 10月-4月 10:00~18:00、5月-9月 10:00~20:00 日曜、祝日 10:00~15:00
閉館日:月曜日、1/1, 5/1, 12/25
料金 公式サイトにてご確認ください。
※お得情報※
毎週土曜15:00~、毎月第一日曜、5/18, 9/11, 9/24は無料(要オンライン事前予約)
最寄駅 地下鉄1,3号線 España(エスパーニャ)駅から徒歩10分

 

 


記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。

 

この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。。 記事最終更新 2026.05.31

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