カタルーニャ地方に200年続く、伝統文化の一つ Castells(人間の塔)。
以前は秋を中心に行われているだけで旅行者が観れる機会は限られていましたが、独立運動に代表されるカタルーニャ民族主義の台頭、それに伴い象徴としての意味が増したことにより近年は一年間を通して行われています。
また、2010年にはユネスコの世界無形文化遺産にも登録され、国際的にも認知度が増しているこの人間の塔。
もしバルセロナに滞在中、開催があるようでしたら一度は観ても損はありません。
目次
起源はバレンシア
15世紀頃バレンシアで宗教行事の際に踊られた踊りの一つから派生 | |
17世紀タラゴナに伝わる | 赤カタルーニャ、青バレンシア |
その歴史はオレンジとパエリヤの本場と知られるスペインのバレンシア地方、Algemesíの町に現在も伝わる踊り「ムイシェランガ」がその起源とされます。
本来バレンシアでは宗教行事のお祭りの際の踊りの一つに過ぎなかったものでしたが、カタルーニャに人間の塔が伝わった17世紀以降、独自の発達を遂げる過程で踊りと宗教的要素が抜け、人間の塔だけが今日のような形で残りました。
尚、カタルーニャ全土にはローマの遺跡が残るタラゴナ市、その郊外でネギの村としても知られるVallsが起点に広まったとされています。
現在、合計約60チームが登録され隣国フランスや中国にもチームがあり、日本でも高校の体育祭の組体操に取り入れる動きもあるそうです。
バリエーション
人間の塔と一言っても、それは一つではなく色々なバージョンが存在し、ここではそれを詳しく解説していきます。
人数に寄って呼び名が変わる
塔各段1人で肩車の様に建ち上って行くのがPilar,espardat、次に1段2人で構成されるのがDos,torreと呼ばれ、その後は3,4,5…と構成人数そのものが呼び名となります。
また、1段が5人を超えると2人組もしくは3人組の塔がそれぞれ合体して一つの塔として立ち上がることになります。
*カタルーニャ語でDosは2を意味し、torreは塔を意味します。
*上のイラスト左からCincは5、Setは7、Nouは9。
【アグハ(針)と呼ばれる面白バージョン】
塔の内側に各段1人で立ち上がる塔を作ったもので、他の塔と違い最大の見せ場は塔を崩していく過程。
中から徐々に現れる一本の塔は、感動すること間違いなし。*下の解説動画の17分35秒あたりで見れます。
ところでこの人間の塔、200年の歴史を経る中で徐々に体系化されていく過程で非常に細かく分かれそれぞれ塔の段数、一段当たりの人の数、塔の断面(主に胴体部分)によって呼び名が変わってきます。
また、上記以外にも更に幾つかの派生型とも言えるタイプがあり、例えば塔がそのまま通りを歩いていくバージョンなどと様々。
中でも面白いのはバルセロナ市で毎年9月におこなわれるメルセ祭での塔。
1人1段で組み上げるPilarto言う塔を作るところまでは普通ですが、最上段の子供が市庁舎のバルコニーから下げられる紐に掴まり持ち上げられると言うメルセ際ならではのスペシャル版などもあります。*下の解説動画の13分24秒あたりで見れます。
塔の構造
各部位の呼び名、肩に掛かる総重量
【塔の段数】
塔は6,7,8,9、最高は最も難易度が高いと言われる10段で、その高さは11メートルを超えビルの3~4階に達します。また、それを造りあげるには総勢200人もの人が協力して初めて出来上がります。
【各部位の呼び名】
各段にもそれぞれ呼び名があります。塔の上部3段はPom de daltと呼ばれ、体の軽い子供達が担当し特に上段2つは体重20~25キロの小学1年生で構成されます。
次に塔の4段目から下はTroncと呼ばれ、各段数ごとに数字の名前が付き最下段は、その見た目からPinya(松ぼっくり)と呼ばれる基礎が塔全体を支えます。
【各段に掛かる重量】
塔には地球の重力により下段にいくほど重量が掛かって来て8段の塔と仮定した場合、平均すると最上段の8段の下の7段目の子供には20キロ、次の6段目には40キロ、5段目には110キロ、4段目270キロ、3段目510キロ。2段目810キロ、1段目1,170キロの重量が肩に掛かってきます。
もちろん、各段4人なので1人あたりが担ぐ重量は1/4ですが、最下段は1人の肩には何と約300キロもの重量が掛かることになります。
10段の塔にもなると..
下段が崩壊しないように補強 | 参加者860人総重量12トン |
赤の周りに緑、紫、青の4人が固めます | た4人に上から掛かる重量を分散させます。 |
最下段のPinyaが塔を支える基礎になるわけですが、塔の段数が9もしくは歴史上これまでに成功した最高段数の10段となると、あまりの重量により基礎部分はPinyaだけでは塔を支えきれなくなります。
そこで登場するのがFolre(2段目)Manilles(3段目)これらが加ることにより初めて可能となります。
ちなみに、この時点で塔に参加する人数は800人にも達し、全員の体重の合計は12トン、その際の塔の下部は幾重にも重なる人間の塊まりとなり正にカオス状態と化します。
ところでこの最多段数の塔の最下部にいる4人の肩には、1人あたり平均500キロ程掛かる訳ですが、それは既に人間の限界を超えることとなります。
では一体どうやってそれを可能にするかと言うと、これには驚くべき工夫が施されていて、前後左右に補助の4人が塔を支える一人に密着することにより、上から掛かる重量をそれぞれ4人に分散させてしのぐのです。
また、上からの重量が横に逃げようとする力も働きますが、それは周りを幾重にも重なるチームのメンバーらが中心に向かって押すことで塔の基部を安定させています。
見ていると塔の高さにばかり目が行きますが、人の塊に見える塔の最下部Pinya は上記に図のように規則正しく人が配置され実によく考えられていて、カタルーニャ人の経験に基づく技には驚くばかりです。
服装
腰に巻く一番重要なFaixaと呼ばれる帯 | 帯の一方を持ってもらい自ら回転しながら巻き上げる |
上部の4人に事故の後ヘルメットが義務付けられる | 高さ13メートルから下を見下ろす子供 |
次に、人間の塔を見てまず目に付くのが参加者の服装。
白いズボンは共通ですが、チームにより色が異なり特に海に近い海岸沿いの街は青をチームカラーとすることが多くなります。
ちなみに、私の住むサグラダ・ファミリア地区のチームは緑。
@
ところで、服装の中で一番重要なのがFaixa と呼ばれる長い布の帯で、これで肩に掛かる上段の体重から腰や背中を痛めるのを防いでいると同時に下から上に登るための手がかり、および足がかりともなっています。
尚、2006年バルセロナ郊外街 Mataró において12歳の女の子が塔から落下し死亡、それ以降は塔の最上部3段に上る4人の子供たちにヘルメットの着用が義務付けられました。
尚、危険を伴うこの人間の塔ですが、これまで歴史上3人の死亡のみにとどまっています。
ただし、死にこそしなかったにしても軽傷から重傷までは数知れず出ていて、この人間の塔が開催される際はすぐ横に常に救急車が待機しています。
パンプローナの牛追い祭りに代表される危険なもの、危ないものが無性に大好きスペイン人。正にその気質がよく表れているイベントと言えます。
動画解説
何時どこで見れる?
冒頭でも述べた通り、近年は年間を通して人間の塔を見ることが出来ます。
大体は週末の土曜もしくは日曜のお昼の12時頃に始まり、約1時間半から2時間程に渡り演技が披露されます。
ただ、スペインなので時間通りに始まらないこともしばしばですが、そんな時は地元スペイン人を見習って気長に待ちましょう。
通常、開催される地区の地元1チームに加え他の地区から2チームが参加し、平均で合計3チーム程の塔を見ることができます。
ただし、週末バルセロナにいるからと言って必ず見れるとは限りません。
開催の無い週もあり、バルセロナ市内で見れるのは大体月に2~3回、場所については毎回変わります。
また、12月はクリスマスシーズンという事もあり、この月だけは殆ど開催されないので注意が必要です。
このサイトでチエック
以下の「人間の塔協会」のオフシャルサイトにて開催場所と日時が確認できます。
https://castellscat.cat/en/schedule
では、サイトの見かたを解説します。
①言語の選択は右上にありますが、日本語はありませんので英語で見ていきます。
②ここで自分の希望する、知りたい月を見ます。
③ここで開催場所にBARCELONAを見つけます。
見つかったら以下の画面が表示されます。
④催しの名が表示されます。上の画面ではPoblenou地区のお祭りと表示されています。
⑤日時とその下に場所が表示されます。場所については、グーグルマップにコピペして検索してみてください。
尚、場所については通りの名前しか記載されていないことがあり、正確にその通りのどの辺りか分からないですが、行けば大勢の人が集まっていますのですぐ分かりますので心配しないでください。
⑥参加するチーム名が書かれていて、ここでは3チームが出場すと言う事です。
ポイント&まとめ
バルセロナ旅行に来られる方は、観光一日の予定に目いっぱい入れられると思いますが、お昼に1時間程の時間を作れば人間の塔を観ることが出来ます。
開催場所へのアクセスをまず地図で確認して、その前後の観光予定を立てられると良いでしょう。
例えば午前中にサグラダファミリアへ入場しお昼前に移動し人間の塔の会場へ、市内どこの会場も地下鉄で30分も掛からず行けます。
また、最初から最後まで全部見る必要はありません、途中で出てランチにしたり次の観光スポットへ行ったりでOK。
最後に。。
欧米人旅行者にもそれ程知られていなくて、見物しているのは地元スペイン人が殆ど。
ガイドブックに載る定番観光スポット巡りに終始しがちな旅行の中、地元民の素顔が見れる貴重な機会でもあると言えます。
尚、数メートルにもなる塔なのでどこからでも見れますが、迫力ある写真を撮りたい方は少し早めに行って場所取り。
また、お昼の開催なので写真を撮るなら逆光にならない位置で見るのが重要です。
カタルーニャ名物の人間の塔、機会があればぜひ観てみてください!
記事は取材時点のものです。現在とは記事の内容が異なる場合もありますのでご了承ください。間違った情報、また有用新情報、分かり難い点や質問等ございましたら情報共有いたしますので、サイト内の「バルセロナ観光情報掲示板」に書き込んでください。
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@ | この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。 |
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この記事を書いた人:カミムラ:生まれ京都府。1989年日本を離れバックパックをかついで海外へ。アジア、アフリカ、中南米、ヨーロッパを旅し1997年よりバルセロナに在住。。 記事最終更新 2024.07.21 |
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